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ハッキネンが参戦した鈴鹿10時間耐久。元F1王者の戦いをインサイドレポート【後編】

掲載 更新
ハッキネンが参戦した鈴鹿10時間耐久。元F1王者の戦いをインサイドレポート【後編】

PLANEX SmaCam Racing × Mika Hakkinen

プラネックス・スマカメ・レーシング × ミカ・ハッキネン

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ハッキネン参戦記・後編:10時間の戦いの記録

50歳を迎えたミカ・ハッキネンが久々に現役に復帰すると聞いて、期待するとともに、個人的には往時のような輝きが戻るかどうかを不安視する気持ちがあった。実際、最近国内外で見かけるハッキネンはすごく穏やかな表情で、体つきも若干ふっくらとしているように見えた。

しかしレースへの復帰を決めた時から、ハッキネンは本格的なトレーニングを再開。8月6日のテストに来日した時には、かなりシェイプアップされた印象だった。

「レースを辞めてからもトレーニングはしているけど、鈴鹿10Hに出場すると決めてドライビングに必要なトレーニングを重ねてきた。アラゴンでマクラーレン・カスタマー・レーシングの所有する720S GT3のテストもしたから、どういうクルマかは分かっているしね」

「ただこのレースの特徴は10時間長丁場で、ものすごく暑いコンディションということ。速く走るというより、いかに集中力を切らさずミスをしないかが大事になる。だからスプリントレースと違って、力を抜けるところではリラックスするように努めることが大切だね」

そう話すハッキネンは、パートナーでチームオーナーでもある久保田克昭や、石浦宏明はもちろん、ゲイナーのクルー、マクラーレンのエンジニアとも積極的にコミュニケーションを取る。彼がすごいのは、全員の話にしっかりと耳を傾け、チームプレイに徹する点だ。

どんなに疲れていても、トークショーやサイン会などでどんなにスケジュールがタイトでも、チームとのミーティングには皆が納得するまで付き合うし、ドライビングポジション、各種操作系の設定にも細かい拘りをみせる。例えば土曜の予選が終わったあともずっとハッキネンはコクピットに籠り、夜間の操作系の視認性の改善策について話し合い、改良を続けていた。

決勝のチームオーダーは石浦、ハッキネン、久保田の順

8月25日。朝からぐんぐんと上昇した気温は30度以上となり、路面温度も50度以上となった。レース前に行われたウォームアップで2分3秒873と11番手のタイムを出したプラネックス・スマカメ・レーシングのマクラーレン720S GT3は、週末を通じて一番良い状態にあるのが確認され、スタートドライバーの石浦に託されることとなった。

午前10時。ポールポジションを獲得したBMWチーム・シュニッツアーのBMW M6 GT3を先頭に36台のマシンがローリング方式でスタートする。25番グリッドからスタートした石浦は「大事なのは良いスタートを決めること。そしてアクシデントに巻き込まれないこと」というハッキネンのアドバイス通り、確実に上位へと進出していく。

途中シケインでNo.8のフェラーリ488GT3と接触したもののダメージやペナルティはなく、1時間終了時には9位までポジションを上げていた。またスティントの終盤になってもタイムの落ち幅が少なく安定したラップを築けているのも朗報といえた。

プラネックス・スマカメ・レーシングのオーダーは、石浦、ハッキネン、久保田の順。約1時間ごとに交代を行い「とにかくハッキネンさん、久保田さんにレースを楽しんでもらうことが大事。その分僕が目一杯走る覚悟はできています」と語る石浦が規定時間ギリギリまで走る作戦だ。

クレバーかつスムーズなドライビングで着実に差を詰める

午前11時すぎ、石浦からハッキネンに交代。これまでの練習の成果が出てピット作業もスムーズに終わった。

この頃になるとハイペース気味に進んでいたレースも落ち着きをみせるようになり、ハッキネンも5秒台の安定したラップを刻みながら、前を走るマシンとのギャップを確実に詰めていく。コース脇で見ていて実感するのは、コースを目一杯使ったライン取りで、他と比べても実にスムーズにマシンを走らせることだ。それでいて速いのは、さすがワールドチャンピオンといったところである。

ピットインのタイミングの関係はあるものの、2時間終了時点でのハッキネンの順位は8位。そして12時過ぎに予定通り久保田へドライバーチェンジする。これまでF3や911GT3カップカー、ヒストリックF1やグループCなど様々なマシンでのレース経験がある久保田だが、最新のGT3マシンのドライブは今回が初めて。パワーやGなど、ドライビングには問題ないものの、多くの操作スイッチや耐久レースならではのルールを把握することが大変だと語っていた。

しかもコースに出た場所がちょうどトラフィックの中で、少しラインを外したためにスピンを喫してしまった。しかもオーバーテイクされる時に少し失速するだけで、次々と後続車に抜かれてしまうという、実力の拮抗したGT3ならではの洗礼を浴びることとなった。

予期せぬトラブルの発生もチームの士気は衰えない

そうした多少の混乱はあったものの、周回を重ねるごとにペースを上げていき、16位前後で石浦へとバトンタッチする。

ところが、ピットイン時の速度超過によるドライブスルーペナルティに加え、走行中にカットオフスイッチに触れてしまいスローダウンするなどのトラブルが発生。石浦が予選を思わせるようなラップを連発して失地回復を図るものの、順位は20位以下に下がってしまう。

それでもチームの士気は落ちることはなく、着実にピット作業をこなしハッキネン、久保田とバトンを繋いでいく。

耐久性が未知数の720S GT3を労りながらプッシュ

レースの折り返しとなる5時間終了時点での順位は20位。周囲ではクラッシュやトラブルが起きはじるが、大きなポジションアップにつながる気配はない。一方、この頃から気になり始めたのがマシンの耐久性だ。というのも未だ長距離レースでマクラーレン720S GT3の完走した例はなく、10時間レース(距離にして約1600km)は全く未知数だったからだ。

そのためにゲイナーでは、事前のテストで露呈した問題の起きそうな箇所の強化、改善を行ってきたのだが、それでも石浦の3スティント目からギヤボックスの異音が大きくなりはじめた。マクラーレンのエンジニアのジェームス・ウォッシャーによるとテレメトリー上の異常はないというが、3人のドライバーたちはマシンを労わりながら、それでいてペースを落とさずに周回を重ねていった。

午後8時過ぎ、10時間を走りきってチェッカーへ

午後7時過ぎ。久保田から石浦へ最後のドライバー交代が行われる。白と青の鮮やかなスマカメ&フィンランド・カラーに彩られたマシンは、オイルや埃で薄汚れてしまっているが、エンジン音は快調。心配していたギヤボックスの調子も問題なさそうだ。

あたりはすっかり暗くなり、コース上は各マシンの眩しいばかりのライトしか見えない状況となっているが、ピットには車内に搭載されたスマカメ2 LTEから送られているライブのインカー映像xqが流され、皆が固唾を飲んでその様子を見守る。

そんな状況でも石浦は2分4秒222というレース中のチームのベストラップを更新。その後もペースを緩めることなく午後8時過ぎに無事にチェッカーを受けた。

鈴鹿10時間を戦い抜いたハッキネンはチームに感謝

ミカ・ハッキネン、石浦宏明、久保田克昭の3人で挑んだプラネックス・スマカメ・レーシングの最終順位は22位(PROクラス18位)。やはりヨーロッパ強豪チームとの差は大きく、優勝したアウディ・スポーツ・チームWRTのR8 LMS GT3に遠く及ばない(彼らはレース終盤でも3秒台を連発していた!)結果となったが、そのリザルト以上に素晴らしい内容であったことは、レース後のハッキネンのコメントが象徴している。

「本当に素晴らしい、素晴らしい鈴鹿10Hの週末でした。たくさんの熱狂的なファンが訪れてくれたし、プラネックス・スマカメ・レーシングのチームワークも素晴らしかった。何といっても全くの新チーム、初顔合わせのドライバー、ブランニューのマシンだったんだからね」

「この短い期間の間にこれだけコンペティティブに戦える体制となったのは、みんなの努力のおかげだ。だから完走できて本当に嬉しいよ。このチャンスをくれた鈴鹿サーキットにも、久保田サンにも感謝している」

そういって、ハッキネンはレース中とは一転してリラックスした、満足げな笑顔をみせてくれた。

REPORT&PHOTO/藤原よしお(Yoshio FUJIWARA)

PHOTO/鈴鹿モビリティランド

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