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【MotoGPコラム】スズキのリンスがホンダのマルケスに0.013秒差で勝った理由/前編

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【MotoGPコラム】スズキのリンスがホンダのマルケスに0.013秒差で勝った理由/前編

 イギリス在住のフリーライター、マット・オクスリーのMotoGPコラム。第12戦イギリスGPの決勝でホンダのマルケスとスズキのリンスが繰り広げられた超接戦のバトルは、0.013秒差でリンスに軍配が上がった。この戦いは、リンスとマルケスのライディング技術とマシン構成の違いが生んだものだとオクスリーは分析する。

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 1979年にイギリスGPの開催地シルバーストンは40周年を迎え、そのレースはバリー・シーン(スズキ)とケニー・ロバーツ(ヤマハ)による一流ライダー同士の対決で祝われた。その日、シーンはロバーツに対して勇猛果敢にアタックし、ファイナルラップで最終コーナーの18コーナーを高速で走り抜けるなか、シーンはロバーツのアウト側につけていた。シーンは行き場を失い、0.3秒差でロバーツに敗北した。

 2019年の第12戦イギリスGPでは、スズキのアレックス・リンスが、ホンダのマルク・マルケスに対して勇猛果敢にアタックし、リンスはファイナルラップで18コーナーを高速で走り抜け、現代の“キング”ケニーとも呼ぶべきマルケスのイン側に入り込んだのだ。リンスは0.013秒差で勝利した。これは最高峰クラスで4番目に小さいタイム差だった。

 シーンとロバーツの戦いと同じように、リンスとマルケスの戦いは激しかった。ふたりともファイナルラップですべてが決めることを十分に心得ていた。

 実のところ、リンスは決勝で2度勝ったようなものだ。リンスは最後から2周目が最終ラップだと思い込んでいたため、15コーナーで、最初で最後のつもりの攻撃をマルケスに仕掛けた。

 マルケスは15コーナー先のストレートでリンスの前に出るが、最後の17コーナーと18コーナーでリンスはワイドなライン取りをして外側から回り込んで縁石に乗り、フィニッシュラインを0.001秒差で先頭で通過した。1970年代、最終コーナーに縁石があったら、シーンはロバーツに対して同じことができたかもしれない。

 だがもちろん、そのときレースは終わっていなかった。マルケスとリンスがファイナルラップの1コーナーに差し掛かった時、マルケスがリードを広げたが、リンスは驚くほどすぐに冷静さを取り戻し、もう一度アタックを仕掛ける態勢に入った。

 ファイナルラップの最後の2コーナーでは、ふたつのことがマルケスにとってうまく運ばなかった。マルケスは17コーナーでスピードを落としすぎた。マルケスはラインを防御しようとしていたが、18コーナーでフロントとリヤ両方のコントロールを失ったため、数センチワイドになってしまい、リンスがイン側を攻めることを許してしまった。

■超接戦の戦いを生んだマシン構成の差
 これはまさに興味深い戦いだった。なぜならマルケスのホンダRC213VとリンスのスズキGSX-RRは完全に異なるバイクだからだ。RC213Vは、フロント部分が浮き上がり、リア部分は沈み込んでしまうバイクのため、マルケスがブレーキングや加速で勝負に出ることができる。そのため、RC213VはMotoGPのほとんどのコースレイアウトに完璧に合うバイクだが、コーナースピードは出ない。

 一方、GSX-RRは古いタイプのバイクであり、コーナー通過中に速度を上げる。それがシルバーストンのような昔ながらのコースと相性がいい理由だ。GSX-RRがシルバーストンで2度目の勝利を挙げたことは偶然ではない。

 マルケスは決勝レース中、崖っぷちに立たされていた。マルケスはスタートから全開で、タイヤ寿命のことはほとんど考えていなかった。なぜならマルケスは集団を小さくしたかったからだ。そうすれば、最終ラップのドッグファイトでポイントを奪うかもしれない6人のライダーたちに対処しなくてすむ。

 マルケスのRC213Vは、シルバーストンの高速で癖のあるコーナーで振動し、跳ね、苦しんでいた。マルケスのバイクはシルバーストンのようなタイプのコースとは相性が良くないからだ。だがマルケスは引き下がることを拒否した。

 多くのライダーは、第12戦まででランキング2番手に58ポイント差をつけていることに安心感を得るだろう。さらにマルケスのサインボードは、タイトル争いのライバルであるアンドレア・ドヴィツィオーゾが、1コーナーの多重クラッシュでリタイアしたことを知らせたのだ。リスクを減らして、安全にポイントを稼ぐようにするものだろう。

 だがマルケスはその方法を知らない。マルケスが唯一知っているのは、スロットルをいかに開けるかということであり、いかに閉じるかということではない。

 イギリスGPではポイント争いと優勝争い以上のものが争われていた。リンスは自身をマルケスへの脅威として位置付けようとしている。バレンティーノ・ロッシやホルヘ・ロレンソ、マーベリック・ビニャーレスが時にそうであるようにだ。

 マルケスはハシゴの最上段に立っている一方で、リンスはそこまで登ろうとしているところだ。バイクレースは無慈悲なゲームだから、トップに立つライダーは誰であれ、後から登ってくるライダーの手を踏みつけるようになる。決勝でリンスはマルケスに打ち勝ち、ふさわしい初勝利を掴んだ。リンスはハシゴにかけた指を次の段にしっかりかけていることだろう。次に何が起きるか興味深いものだ。

【後編へ続く】

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