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マツダ次世代エンジン「スカイアクティブX」の仕組み 恩恵、特定ユーザーにのみ マツダ3試乗

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マツダ次世代エンジン「スカイアクティブX」の仕組み 恩恵、特定ユーザーにのみ マツダ3試乗

スカイアクティブXとは何なのか

text:Shigeo Kawashima(川島茂夫)

【画像】マツダ3 セダン/ファストバックのディテール 全63枚

photo:Keisuke Maeda(前田恵介)

マツダの次世代エンジンとして開発されたスカイアクティブXはガソリンでの圧縮着火を特徴にする。

と、語ればディーゼルエンジンの燃料をガソリンに置き換えただけのようにも思えるが、無論そんな単純なものではない。

スカイアクティブXはSPCCI(火花点火制御圧縮着火)と呼ばれる燃焼方式採用する。

点火プラグが点火して圧縮着火というのも妙な印象を受けるが、点火による爆発は圧縮着火の引き金でしかない。ピストンによる圧縮は圧縮着火を起こす直前まで。

そこにプラグ点火による爆発圧力を掛けて一気に圧力を高めて混合気全体が同時に燃焼する。爆発力で圧縮することを爆縮と呼ぶが、その伝に倣えば爆縮着火ということになる。

大まかな燃焼プロセスは意外と単純だが、よく考えてみればぎりぎりのバランスでしか安定した燃焼を得られない。

点火直前の燃焼室の温度と圧力は自己着火を起こす直前に保たれなければならない。爆縮の圧力も一定値以上が求められるし、燃料の霧化分布(部分の空燃比)も制御する必要がある。

吸気流制御が最近の一般的なタンブル(縦渦)ではなくスワール(横渦)を用いるのも、プラグ点火での着火性と爆縮効率の向上が狙い。

ちなみに直噴インジェクターはスワールを阻害しないように直立レイアウトを採用する。

さらに大量EGR(Exhaust Gas Recirculation=排気再循環)下での爆縮自己着火性の効率を高めるため、部分的に濃い空燃比となるようにインジェクターを制御している。

上手く爆縮着火できなかったら……?

上手く爆縮着火できなかったら……

そんなぎりぎりの制御をしていて上手く爆縮着火できなかったら……、という疑問もあったが、そうなったしても一般的なプラグ着火の燃焼になるだけとのこと。タイトロープを踏み外したとしても大事にはならないわけだ。

なお、吸入空気の大気/EGRの制御は超希薄燃焼状態でのみ大気吸入、他は大量クールドEGRが掛かる。

超希薄燃焼での窒素酸化物生成が気になるが、燃焼による圧力と温度の上昇が吸入空気量に対して極端に少ないため、窒素酸化物はほとんど生成されないとのこと。

当然、超希薄燃焼は極低負荷域に限定されている。

また、極低負荷域ではプラグ点火の一般燃焼方式でも制御され、吸気と燃焼に関しては3方式の制御を適宜使い分けている。

ハードウェアで注目すべき3点

ハードウェアの構成で目立つのは
・コモンレール式インジェクター
・スーパーチャージャー(ヘリカルルーツ式)
・GPF
の3点。

インジェクターは噴射の精密制御が目的。理由は前述したとおり。

スーパーチャージャーは全域で吸入空気量(含EGR)を過多に保つため。吸気する大気量(酸素量)は最大2Lプラスα相応だが、EGRを含む吸気空気量で図ると全域で希薄燃焼状態になる。

最大トルクが過給2Lにしては控え目な22.8kg-mなのは全負荷域でも大量EGRを掛けているためである。

GPF即ちのガソリンの煤(未燃燃料)の濾過器を採用するのはちょっと不思議に思えた。沢山の煤が出るなら熱効率は低下。高熱効率はスカイアクティブXの狙いのひとつ、なぜ?

理解できて、初めてわかる価値

その答は単純だった。スーパーチャージャーを保護するため。大気とEGRが混ざった状態で圧縮するので、EGRに煤があるとスーパーチャージャーの耐久性を著しく損ねる。

そこで念のために少量の煤でも除去できるGPFを採用。なお、GPFは排熱による自己再生型である。

加えて電動化技術としてISGと24Vリチウムイオンバッテリー(SCiB)を用いたマイルド・ハイブリッドシステムも導入されている。

とまあ、エンジンの紹介だけで長々となったが、これはマツダ3スカイアクティブX車を評価する上で極めて重要。

「そんな凄い事をやっているのか!」と理解しないと価格を見てびっくりする……かもしれない。

「究極の素直さ」 理性では感心できる

「究極の素直さ」と表現すればいいのだろうか。誇張もなければ演出もなく、ひたすらドライバーの操作と感性に忠実であろうとするエンジンである。

セダンとファストバック(5ドア)で6速AT仕様と6速MT仕様に試乗してみたが、ミッションの得手不得手はない。

「素直」という語感からすればMTのほうが印象が良さそうだが、よさがわかりやすいがMTの醍醐味の欠くというのが正直な印象だ。

アクセルストローク全般において踏み込み量に応じたトルクをペダルの動きをなぞるように駆動輪に伝えていく。踏み込み直後を持ち上げたり盛り上がるような後伸び感もない。最大トルク発生回転数は3000rpmだが、最高出力発生回転数の6000rpmでのトルクを計算すると約21.5kg-m。

6000rpmまで回してトルク低下は6%弱でしかなく、回転域におけるトルク変化やドライバビリティの変化も少ない。

ただ、トルクの出方が綺麗すぎて感激を呼び起こせない。超ワイドスイートスポットであり、クルマの方からの「乗りこなし要請」は皆無。

付け加えるなら、こういったドライバビリティは実加速よりも体感加速が低い。それは誉められることだが、刺激や高揚感は乏しい。

理性は「凄い!」と言っているが、感情は反応が希薄なのだ。

操り心地、スカイアクティブX最大の長所

こういった特性は6速ATとのマッチングもいい。変速時の加速感の繋がりやコントロール感覚も変化も少ないため、MTよりも相性がいいと言ってもいい。

トルコン型ATながら大半をロックアップするダイレクトなドライブフィールもあって2ペダルでの繊細なコントロールも楽しめる。

トルクがレブリミット直前に固まっているようなエンジンでもないので、リズム重視のドライビングがなかなか心地よい。

なお、SPCCI稼働状況は情報パネルにより確認できるが、アイドリングやエンブレには至らない降坂など、極低負荷域以外はSPCCIで稼働。一般燃焼走行はほとんどない。

パワートレインの話ばかり続いたが、マツダ3の求める走りとの相性も良好だ。スカイアクティブX車のフットワークは他のラインナップと大きく変わらない。

スポーツ&ツーリングに軸としたファントゥドライブ志向。操舵初期回頭とRを絞っていく時の追従性等々の「意のまま」感とか素直さが見所。

乗り心地の面では多少荒っぽい部分もあるが、現行ラインナップではマツダの謳う「人馬一体」を最も体現している。

結果、マツダ3スカイアクティブX車はドライバーの感性に馴染みのいい繊細なコントロール性を実現した。

操り心地のよさこそが最大のセールスポイントなのだ。

恩恵、特定ユーザーにのみ

5代目カペラのディーゼルには市販車では初となるプレッシャーウェーブスーパーチャージャー(コンプレックスチャージャー)が採用された。一昔前の看板エンジンだったロータリーエンジンも実用量産化したのはマツダくらい。そしてスカイアクティブXである。

マツダは実用化困難なエンジンを世界に先駆けて実用化するのが大好き、あるいは学究肌なのかもしれない。

こだわりというかトレンドに流されることなくわが道を行くというか、突き抜けてマイノリティというか。それはクルマ好きの知的好奇心を多いに刺激するが、ユーザーメリットは? コスパは? となれば話は別である。

マツダ3ラインナップの主なグレードでエンジンによる価格差をざっくり見ると、標準設定ともいえる2Lガソリン車に対して1.8Lディーゼル車は約28万円高、スカイアクティブX車は約68万円高。ディーゼル車とスカイアクティブX車の価格差は約41万円。

WLTCの高速モード燃費を比較するとスカイアクティブX車は2L車の約8.5%増、ディーゼル車の12%減。2L車対比でも価格差を燃費で埋めるのは不可能である。

70万円近い投資の行き先が具体的な性能では「究極の素直さ」あるいはコントロール性に重きを置いたファントゥドライブとなる。

ハードウェアや制御系の設計、世界初の量産圧縮着火ガソリンエンジンの栄誉を見れば70万円位高くなっても仕方がないとは思うのだが、実利として相応とは言い難い。

CX-5における2.2Lディーゼルと2.5Lガソリンターボのように同等価格で走りの嗜好や主用途で選び分けるような設定ならスカイアクティブXの意義も高まる。

つまり、燃費と巡航余力のディーゼル、速さのガソリンターボ、コントロール性と安定燃費のスカイアクティブXという具合にだ。

内燃機の未来に対して新たな扉を開く技術なのは間違いないが、「人馬一体」の走りを究めたいというドライバー以外は価格相応のメリットを望めないだろう。

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