バブル経済が弾ける直前の1990年代初頭、日本車の「顔」に異変が沸き起こった。それは突然変異と言ってもいいほどの変革ぶりだった。その端緒となったのが1991年5月に登場した3代目ソアラだった。ヌメっとした曲面を活かしたグリルレスのフロントマスクに異形ヘッドライト。内側に丸目の独立したハイブームを装着するフロントマスクは独特なもので異彩を放った。そして10ケ月後の1992年3月に登場したCR-Xデルソルのフロントマスクを見てビックリ仰天!! ソアラにも似たグリスレス&丸目ライトのフロントマスクだったのだ。え? なんで!? さらに驚きは2カ月後の登場したオートザム・クレフだった。なぜこの時期、グリスレス&丸目ランプが相次いで登場したのだろうか?
文:梅木智晴(ベストカー編集委員) /写真:ベストカー編集部
どうしてそうなった? グリスレス&丸目ライトは日本じゃ流行らないでしょ!? ソアラ、CR-Xデルソル、そしてクレフを覚えているか?
だってソアラのフロントマスク、特段人気高いわけじゃなかったよ?
1991年5月に登場した3代目ソアラ。このフロントマスクはあまりに印象的で、当時は賛否両論だった
初代Z10型、2代目Z20型と続いたソアラは直線的でシャープなボディランを活かしながらも流麗な2ドアスポーツクーペのプロポ―ションを作り上げていた。フロントマスクもシャープな印象で、これぞ正統派ラグジュアリースポーツクーペの王道ともいえる雰囲気を醸し出し、高い人気を誇っていた。
当然、間もなく実施される3代目Z30型のデビューにも大きな期待が寄せられていた。1990年頃のことだった。日本国内ではまだまだバブル経済の余波が残り、世の中は浮かれていた。
280psを発揮する直6、2.5リッターツインターボを搭載するモデルもラインナップしていた3代目ソアラ
1991年5月、3代目ソアラはデビューする。正式発表を前に、記事制作のために事前に資料が配布され、「新型ソアラ」の全貌が明らかになったのが4月中旬だった。全体的に曲面を活かした大柄なボディはともかくとして、我々が驚いたのがそのフロントマスクだった。
のっぺりとしたグリスレスのフロントマスクには異形ヘッドランプの内側に独立した丸目のハイビームが配置されている。当時、トヨタ自動車から提供された事前配布ポジフィルムを見たベストカー編集部は皆「ん?」という表情を浮かべて顔を見合わせた。
トップモデル「4.0GT]にはV型8気筒4リッターの1UZ-FEを搭載。最高出力260ps、最大トルク36.0kgmを発揮した
トヨタの北米デザインスタジオCALTYの手によるデザインは、今にして思えば「LEXUS SC」として北米での販売を主眼とすれば当然の流れだったと言えるだろう。しかし、少なくとも多くの日本人の思い描く「新型ソアラ」ではなかった。日本ではグリルレスのフロントマスクの受けが悪いことは1989年に登場したインフィニティQ45でも証明されていた。
えっ? オレたちのCR-Xはどこへ行ってしまった? まさかのデルソル登場
1992年3月に登場した3代目となるCR-Xデルソル。ソアラに続いてグリルレス&丸目ライトのフロントマスクだ
そして10か月後の1992年3月だ。ホンダCR-Xが3代目へとモデルチェンジをする。1983年に登場した初代「バラードスポーツCR-X」、1987年のモデルチェンジで2代目となったCR-XともにシャープなスタイルのFFスポーツハッチで、ジムカーナでも活躍したハンドリングマシンだった。特に2代目は低く構えたプロポーションからしてクイックでキビキビ走るイメージそのものだった。
モデルチェンジには期待が高まるのも当然だ。いろんな情報が飛び交った。新機構のオープントップが設定されるらしい。ハッチバックではなくクーペになるらしい。SiRの1.6リッターVTECはメチャメチャ速いらしいゾ!! などなど。
“デルソル”。スペイン語で太陽を意味するサブネームが与えられた3代目CR-Xは特徴的な着脱式ルーフはともかくとして、ソアラにも似た印象のグリルレス&丸目ランプのフロントマスクだったからまたまたビックリ仰天。ソアラとは異なり、異形ヘッドランプの内側に配置された丸目はアクセサリーランプだったが、顔の印象はよく似ていた。
えっ? えっ? えええええ~っ????? コンパクトでシャープでスポーティでハンドリングマシンだったオレたちのCR-Xはどこへ行ってしまったんだ? これが当時の偽らざる思いであった。
CR-Xデルソル最大の特徴だった「トランストップ」。スチール製ルーフトップを電動でせり上がったトランクリッドの内側に伸び出したアームがスルスルと飲み込んでいくのだ
もうね、「トランストップ」だの170psのVTECエンジンなどのデルソル情報は頭に入ってこない。それほどまでにフロントマスクの印象が強烈すぎたのだ。
みんな、オートザム・クレフを覚えているか? 真似したってわけじゃないよね?
そしてとどめがデルソルショックの2カ月後、1992年5月に登場したオートザム・クレフだ。またこの顔。どうなってんだ?????
とどめを刺すように1992年5月に登場したオートザム・クレフ。全長4670mm、全幅1750mm、全高1400mmのミッドサイズセダンだ
クレフというクルマを覚えているだろうか? 1989年からマツダは販売チャンネルを拡大し、それぞれに「ユーノス」、「アンフィニ」、「オートザム」といったブランドを与えて展開を狙っていた。クレフはオートザムブランドのフラッグシップモデルとして、マツダクロノスをベースに開発されたミッドサイズセダンだった。
ちなみにクレフは1992年5月に販売を開始したものの、1994年12月に販売を終了した短命車。約2年半の販売期間に5000台程度が世に出ただけという超レア車だ。バブル経済が崩壊し、マツダの多チャンネル戦略も失敗に終わる。オートザムブランドは継続されたもののクレフは販売を終了したという経緯がある。
3代目ソアラの登場からCR-Xデルソル、そしてオートザム・クレフまでわずか1年の間に相次いで「グリルレス&丸目」のクルマが3モデル登場したことになる。
真似する時間などない! カーデザインにはトレンドがあるので、偶然の一致は珍しいことではないのだ
デルソルがあの顔で登場した時には「真似したのでは?」といった声もあちらことらで聞こえたが、当時メーカーデザイナー出身者などに取材をすると、「1年で真似なんかはできない」、「むしろ、デルソルの開発陣はソアラを見て“やられた!!”と思ったと思う」という意見だった。つまり、偶然の一致ということだ。
ソアラは北米マーケットを見据えてカリフォルニアにあるデザインスタジオCALTYでデザインされた。デルソルは従来のスポーツ路線からコンセプトを一新してオープンスポーツを目指してデザインにも新味を与えたかったのだろう。クレフもオートザムブランドとしてマツダ車とは一線を画したかったのだろう。
当時の取材で自動車メーカーデザイナー出身者数名に話を聞いているのだが、「カーデザインにはトレンドがあって、ソアラやデルソルのデザインを進めていた80年代終盤にはグリルレスのフロントマスクがトレンドだった」という声が複数聞かれた。グリスレスでどうしてものっぺりしてしまうので、アクセントにヘッドライトを丸目で入れたくなる、というのだ。
1995年10月のマイナーチェンジでデルソルはこの顔になった
それにしても偶然の一致にしてはあまりに短期間に3車が登場したことはやはり驚きだった。ちなみにクレフは前述の通り1994年12月に販売を終了した。ソアラは1996年8月のマイチェンでフロントに小さなグリルを付けるフェイスリフトを実施。デルソルは1996年10月のマイチェン時にアクセサリーランプを廃止して表情が変わった。
ソアラは1996年8月のマイチェンでフロントマスクに小さなグリルを追加して表情が変わった
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わざとボケてツッコミ狙いのタイトルは痛いぞ。