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【ヒットの法則420】アルピナB3ビターボとBMW M3クーペはともに高性能だがまったく異なる方向性だった

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【ヒットの法則420】アルピナB3ビターボとBMW M3クーペはともに高性能だがまったく異なる方向性だった

2007年のジュネーブオートサロンでデビューしたアルピナB3ビターボ、同じ年のジュネーブオートサロンで「M3コンセプト」として姿を現したBMW M3クーぺ。ともにBMWをベースとしたスペシャルモデルだが、比べるほどに異なることに気づかされる。ここではその試乗テストの模様を振り返ってみよう。(以下の試乗記は、Motor Magazine 2008年5月号より)

アルピナとMモデル、明確な違いのある2つのブランド
多くの自動車雑誌でアルピナとMモデルを比較する記事を掲載するが、本来この2つのブランドは良きライバルではあるものの、競合はしない位置に存在していると言っていい。

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ミッキーマウスの顔をBMWとするなら、そこからはみ出すようにある耳の片方がMモデル、もう片方がアルピナというイメージだ。ミッキーマウスの耳もミッキーマウスの一部であるのと同じように、この2メーカーもBMWファミリーの一員なのである。

良きライバルという意味は、どちらも通常のBMWのカタログモデルでは飽き足らない顧客に満足してもらうための存在だからだ。だからBMWのカタログモデルではできないような独創的なクルマ造りが可能になる。

アルピナは毎年800台程度しか生産しない。そのうち日本には150台前後が入ってくる。そのほとんどはオーダーしてから納車まで数カ月から1年待つというエクスクルーシブな購入方法だ。ボディカラー、インテリアカラー、シートカラー、装備類など好みに合わせて注文したものを造ってくれるからだ。

日本におけるアルピナのメリットは、全国のBMW正規代理店で注文と整備ができることだ。小さいながらもアルピナ社という独自のカーメーカーであるが、ここでもBMWファミリーの一員であることがわかる。そのネットワークが購入後の安心感にもつながっているのだ。

アルピナがクルマ造りの哲学としているものは、パワーとトルクの大きなエンジン、取り扱いが容易なこと、卓越したハンドリング、快適性を備えたサスペンションによる良好な長距離ドライブの実現、魅力的でシックなインテリア、クラシカルなデザインのホイールと機能性が豊かな形状のエアロダイナミックパッケージ、細部にわたる最高の品質である。

これは3シリーズ、5シリーズ、6シリーズ、7シリーズというモデルラインアップに、セダン、クーペ、カブリオレ、ツーリング、ロングホイールベースとボディバリエーションが変わっても、そのすべてに共通するものだ。そのために高い技術を持つ、熟練したマイスターレベルの職人が、手工業のような工程でクルマ造りをしている。

日本のアルピナオーナーがドイツのアルピナの工場を訪問するチャンスがあったら、自分のアルピナのシャシナンバーをメモしていくといい。そのクルマに搭載したエンジンを組み立てた職人と面会することができるかもしれないからだ。アルピナのエンジンは一人の職人がすべての組み立て工程を任されている。エンジンを1基ずつイチから組み立て、愛情を込めて完成させていくのだ。

職人のこだわりと愛情が込められたB3ビターボ
シートやステアリングホイールのリムに巻かれたレザーは、これも手縫いで青と緑のステッチが入れられる。

このように手の込んだ造りのアルピナは大量生産ができない。しかし桁外れの高い品質を保つためには、このハンドメイドのような造り方を守らなくてはならない。だからアルピナは年間800台程度の生産に留まるのだ。

アルピナを造り上げるためのパーツは100%BMWから納入される。とはいっても通常のBMWのパーツとは異なる。アルピナによって味付けされ、デザインされたものをBMWでプロデュースしてもらうのだ。BMW製のものもあれば、BMWから専門業者に委託して製作されたものもある。いずれもBMWを通してアルピナに納品され、アルピナになっていくのだ。

エンジンのパーツでも、カムシャフト、ピストン、インテークマニホールド、エキゾーストマニホールド、マフラー、さらには制御するコンピュータのプログラムもアルピナ独自のものになっている。もちろん燃焼室の微妙な形状もマニホールドの段差なども調整されているはずだ。

B3ビターボのエンジンの本体部分はほぼ335iと同じものであるが、コンピュータの違いによって、その特性は変えられている。3L直列6気筒パラレルツインターボの335iの最大トルクは400Nm。この数値さえ凄いというのに、B3ビターボではさらに増えて500Nmになっている。

さらに嬉しいことに本国仕様のB3ビターボより、ガソリンの質がいい日本の仕様では12psパワーアップしている。最高出力370ps/5500~6000rpm、最大トルクは本国仕様と同じ500Nm/3800~5000rpmである。

0→100km/hは4.8秒の俊足だ。最高速度は285km/hである。BMWのカタログモデルとMモデルは250km/hでコンピュータで制限されるが、アルピナはリミッターを持たない。これは少量生産メーカーだからできたことなのだろう。

ボディはエアロパーツが大きな違いだ。フロントとリアの上品に造られたエアロスポイラーはアルピナ独自のデザインだ。エアバルブが見えない独自デザインのアロイホイール、ブレーキローター、パッドなどもアルピナだけのパーツを採用している。

サスペンションもアルピナ独自の味付けで、バネ、ダンパー、スタビライザー、ゴムブッシュなども基本的にはアルピナ・オリジナルパーツになる。

今回試乗したアルピナB3ビターボは、245/35ZR19(93Y)XLというフロントタイヤと265/35ZR19(98Y)XLというリアタイヤを履いていた。空気圧は前後で2.6/2.5である。標準タイヤは18インチだから、これはオプションのタイヤサイズである。ちなみにタイヤブランドはミシュランパイロットPS2ランフラットが純正指定タイヤになっている。

アルピナと違ってBMW AGの100%子会社であるBMW M社が造るMモデルは、レーシングカーの味を一般道でも味わうことができるクルマを目指している。

だからMモデルは過給器を使わないノーマルアスピレーションにこだわっている。馬力を稼ぐためには、排気量を増やしてトルクを上げるか、過給器を使ってトルクを太くするか、エンジン回転数を上げるという手段がある。馬力はトルク×エンジン回転数の計算で導き出されるものだから回転が上がれば馬力は増すことになる。

ゆえにV型8気筒で4Lという排気量を持つM3クーペのエンジンは、7800rpmからがイエローで8300rpmからがレッドゾーンと高回転型である。

M3クーペの特徴はボディの軽量化にある。ルーフはオプションのガラスサンルーフを選ばなければカーボンファイバー製になる。単に軽くするだけでなく重心位置を下げる効果が期待できる。濃いボディカラーを選ぶと判別がしにくいが、白のような明るい色を注文すれば小さな模様が入った黒い屋根によってM3クーペであると判別できる。

それに対し、アルピナB3ビターボのルーフはカーボンを使っていないが、車両重量はM3クーペの1630kgより軽い1590kgである。

二面性を持つB3ビターボ、走りに一途なM3クーペ
さて今回はB3ビターボとM3クーペを直接対決させるためワインディグロードを選んだ。M3クーペの6速MTに対し、アルピナB3ビターボは6速ATと、ここでも両社の考え方に大きな違いを見せられた。M3クーペにも近いうちに2ペダルモデルが用意されると予測されるが、いつになるかはまだ明確には見えてこない。

現在はクラッチ付きではあるが、スムーズにつながるからクラッチペダルの操作はとても楽である。シフトレバーも日本のスポーツカーに比べると少しストロークは長めだが、シフトミスしにくく扱いやすい。

カタログデータではM3クーペ、B3ビターボともに0→100km/hが4.8秒だから動力性能的には互角である。

しかし、速さだけが優劣を決めるわけではない。そこには味や嗜好が存在する。M3クーペはエンジン回転数が上昇していくとともにトルクも盛り上がっていき、加速力も増していく。エキゾーストノートは気持ちのいい音を出すから、さらに上の回転数を味わいたくなる。なんと7800rpmからのゼブラゾーンはもちろん、最高出力を発揮する8300rpmまでも簡単に達するのだ。

M3クーペはこうやってエンジン回転数を上げることに歓びを感じるが、B3ビターボのエンジンは最高出力が5500~6000rpmだからM3クーペとは大きな特性の違いがある。だから逆に回転数が上がっていなくても太いトルクで前に進んでいくのである。とはいっても、タコメーターのゼブラゾーンは7800rpmからで、レッドゾーンは8000rpmからと高回転も許容する。そして、最高出力の回転数を大きく超えても出力の低下はあまり感じられない。エンジン音、エキゾーストノートはますます気持ちのいい音になっていく。

B3ビターボは、ワインディングロードでは上りでも下りでも同じようにグイグイ加速していく。6速ATではあるが、ステアリングスポークの小さな突起を中指で押すことによってスウィッチトロニックと呼ばれるマニュアルシフトができる。右側がシフトアップで左側がシフトダウン。Dレンジのままでもこのスイッチは有効だ。Gの変化がなくなるとDレンジに戻るが、通常のBMWより戻るタイミングは遅い。スポーティな走りがわかっている人にはちょうど良い戻り方だ。

シフトレバーをDレンジから左に倒すとS(スポーツ)モードになる。そしてシフトレバーを前後に動かす、あるいはスウィッチトロニックを使うとM(マニュアル)モードになる。このときにはMモードに固定される。Dレンジでは表示されないが、Mモードではシフトインジケーターに現在のギア段数が表示されるようになる。

B3ビターボの乗り心地はとても良い。少し荒れた舗装を走っても19インチのファットなタイヤにもかかわらずゴツゴツとした振動や衝撃は伝えてこない。サスペンションがよく振動を吸収しボディが揺れを伝えない感じだ。さらにアルピナでモディファイされたシートはしっかりと座れ、表面は柔らかくクッション部のストロークもあるから、ここでの吸収力も大きい。

ワインディングロードでのタイトコーナリングはM3クーペよりB3ビターボの方がロール角は大きくなる。Rの小さなS字を通過するときにはロールの揺り返しを感じるが、そのほかの場面ではデメリットを感じなかった。

逆に、タイトなコーナーでもM3クーペはロール角が小さい。S字の切り返しでもロールのおつりはないし、次のコーナーへの準備がすぐに整うという安心感がある。B3ビターボに比べるとよりサーキット走行を主体としたハードな走行にマッチしているのかもしれない。

こうやって比べてみるとB3ビターボとM3クーペのどちらも強い個性があることがわかった。やはり右耳と左耳の存在と役割は違うのだ。

B3ビターボは今回撮影したセダンだけでなく、クーペやカブリオレも選べる。M3はクーペのみ、と書いたところにM3セダンが日本でも317日に発売というニュースが飛び込んできた。これでますます選択肢が増えてしまった。

B3ビターボはいつでも戦闘体制に入れるが、普段はそれを見せずにいる。でもイザというときには凄い性能を見せるタイプ。陰と陽を持っているといえる。M3クーペはチャンスさえあればいつでも戦いたいタイプだろう。いってみれば陽だけのタイプ。もしもこの2台から、購入する1台を選ぶとしたら、自分のドライビングスタイルを知らなければならないということになりそうだ。(文:こもだきよし/Motor Magazine 2008年5月号より)



アルピナB3ビターボ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4525×1815×1420mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1590kg
●エンジン:直6DOHCツインターボ
●排気量:2979cc
●最高出力:370ps/5500-6000rpm
●最大トルク:500Nm/3800-5000rpm
●駆動方式:FR
●トランスミッション:6速AT
●最高速:285km/h
●0→100km/h加速:4.8秒
●車両価格:995万円(2008年)

BMW M3クーペ 主要諸元
●全長×全幅×全高:4620×1805×1425mm
●ホイールベース:2760mm
●車両重量:1630kg
●エンジン:V8DOHC
●排気量:3999cc
●最高出力:420ps/8300rpm
●最大トルク:400Nm/3900rpm
●駆動方式:FR
●トランスミッション:6速MT
●車両価格:1003万円(2008年)

[ アルバム : アルピナB3ビターボ はオリジナルサイトでご覧ください ]

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