2023年シーズンで8年目を迎えたハースF1チームと小松礼雄エンジニアリングディレクター。ラスベガスで行われたナイトレースは、コース上のマンホールが外れたり、セッションのスタートが遅れて無観客で行われるなど初日から波乱の展開となった。そんななかハースは予選時のコース状況やドライバーとの相性もあって、2台揃ってパフォーマンスを発揮。一方レースではタイヤのデグラデーションを読みきれなかった。しかしその“読みきれない”ことが、初開催のコースにおける予想外の結果を生んだと小松エンジニアは分析している。ラスベガスGPの現場の事情を小松エンジニアが振り返ります。
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ヒュルケンベルグ「レースペースはそれほど悪くなかったが、何かが起きてパワーを失った」ハース F1第22戦決勝
2023年F1第22戦ラスベガスGP
#20 ケビン・マグヌッセン 予選9番手/決勝13位
#27 ニコ・ヒュルケンベルグ 予選13番手/決勝19位DNF
今年3回目のアメリカでのレースはラスベガスでした。ラスベガスでのF1開催は41年ぶりで、コースはストリートサーキットです。コースの舗装自体は悪くなかったですし、思っていた以上にグリップもありました。
ただ仕事をする時間帯はよくなかったです。基本的に夜勤のような時間帯に仕事をして、みんな外に出てリフレッシュする機会があるわけでもなく、時差もあり睡眠不足で働き詰めです。少なくとも、うちのチームではあのイベントを楽しんだスタッフはあまりいないと思います。
またFP2前の観客への対応にはびっくりしました。オーガナイザー側の問題でFP2の開始が遅れて、2時間半も待たせておいてやっと走れるめどがついたと思ったら、走行直前に謝罪もなく、「サーキットスタッフが労働時間外になるので観客のみなさんは帰って下さい」と。その補償がラスベガスGPのウェブサイトで使える200ドル(約3万円)の商品券なんて、ちょっとありえないですよね。
マンホールの問題にしたって今まで何度もあったことです。前例からの教訓がまったく活かされていません。舗装の時期や、マンホールのフレームがどうやって路面に埋められているとか、他のストリートサーキットから学べるはずです。さらにその後のFIA会見でのトト(・ウォルフ/メルセデス代表)のコメントには唖然としました。
カルロス・サインツ(フェラーリ)へのペナルティもありえません(編注:マンホールの蓋の周りにあるコンクリート製のフレームが壊れたことで、サインツはクルマやパワーユニットにダメージを負いエレメントを交換。その際エナジーストアの使用数が規則を超えたため10グリッド降格ペナルティを科された)。ダメージの修復費用は誰が負担するのでしょうか。うちは幸運なことにダメージを受けていませんが、チームにはコスト制限があるので、少なくともこの修復費は制限外にするなどの考慮があって当然だと思います。
最近のF1っていろんなレギュレーションや法律に縛られて、普通に考えれば当たり前にできる対応ができなくなっている気がします。これではファンも納得しないと思うし、どこかでスーッと引いていきますよ。
さて、予選とレースに話を移しましょう。まず予選では、2台ともQ3に進めるだけの速さはあったのですが、Q2の最後のアタックラップでニコはターン7の進入でブレーキをロックアップさせてしまいました。Q1とQ2でケビンがセクター1で最速だったのを見てもわかるように、うちはアウトラップさえしっかりとフリーで走ることができれば、タイヤのウォームアップはうまくできていたと思います。
黄旗などの可能性が高いので、Q1とQ2ではプッシュ・クール・プッシュ(計測→クールダウンラップ→計測)の走り方でいきました。Q3の最後のアタックはすべてを出し切るために1周のみのアタックにしましたが、ケビンがうまくまとめられず9番手でした(本人もいいラップではなかったとすぐに言っていました)。少なくとも7番手は見えていたのでもったいなかったです。今回うちが予選で速かったのは路面や路面温度、そしてコース特性に加えて、ケビンが比較的得意とするコースレイアウトだったことが理由だと考えています。
一方レースでは、“すべてがタイヤのグレイニング次第”という状況でした。ソフトタイヤが使いものにならないのは明白だったので、2台ともミディアムタイヤでスタート。最初のピットストップのタイミングは、いつミディアムのグレイニングが起こるか次第でした。ニコとケビンはそれぞれ12周目と14周目にピットインしましたが、このタイミングでよかったです。
第2スティントで履いたハードタイヤをどれだけプッシュして走れるか疑問だったので、2度目のセーフティカー(SC)が出るまでは慎重にいきました。このSCのタイミングで2セット目のハードに履き替えましたが、第3スティントはもう少しうまくやれたのではないかと思っています。タイヤのタレは比較的よかったので、もう少し速く走れたのではないかと。そうすれば残り10周あたりでアレクサンダー・アルボン(ウイリアムズ)にアタックすることもできたかもしれませんし、それができれば10位でフィニッシュしたオスカー・ピアストリ(マクラーレン)とも戦えた可能性があります。もちろんうちのクルマはいつもレースで苦しむので難しいところではありますが、今後はこういうことの精度を上げていく必要があると感じています。
ラスベガスGPはナイトレースで路面温度が低く、ストリートサーキットなので路面の変化も大きいです。ラスベガス・ストリップ・サーキットでのF1開催は初めてだったこともあり、こういう点を読みきれなかったことが予想外の結果に繋がったのだと考えています。たとえば予選ではマクラーレンが揃ってQ1で敗退し、セルジオ・ペレス(レッドブル)やルイス・ハミルトン(メルセデス)はQ3に進めませんでした。マクラーレンは1セットのタイヤで走り切るのではなく、途中でピットインしてもう1セット使う選択肢もあったわけです。それをしなかったのは、タイヤを含めた常に変化する状況にうまく対応できなかったということだと思います。Q2のペレスも、1ランしかしないのならなぜあの早い段階でコースに出ていったのでしょうか。
うちは予選ではうまく状況を読んで対応できていたと思います。しかし先にも書いたようにレースでハードタイヤを読み切れませんでした。というのもレース用にハードを2セット残すためにフリー走行で使わず、ぶっつけ本番で使ったからで、ハードがミディアムと比べてどれくらいグレイニングを出さずにプッシュして走れるのかをつかみきれなかったのが反省点です。
次は最終戦のアブダビになります。前戦の反省点を活かしていいレースでシーズンを締めくくりたいですね。
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