メルセデスAMG の「E53 4MATIC+(プラス)」は、V型8気筒エンジン搭載の「E63」シリーズの下に位置するモデルだ。従来の「E43」に代わるグレードである。
E53 4MATIC+の特徴は、新世代の直列6気筒エンジンをふくむパワートレインにある。「ISG(インテグレーテッド・スタータージェネレーター)」という電気モーターを、発進と加速時に使うマイルドハイブリッド仕様だ。
日本でも「S450」や「CLS450」に導入ずみのパワーユニットではあるが、これらモデルが搭載するエンジンは、最高出力270kW(367ps)、最大トルク500Nmであるのに対し、E53 4MATIC+では最高出力320kW(435ps)、最大トルク520Nmにパワーアップしている。実際、運転すると、エンジンの存在感が大きい。
全体の雰囲気はメルセデスAMGらしい。深いエアダムに20インチの大径タイヤが特徴的なエクステリア、スポーティなシートにグリップの太いステアリングホイールが特徴的なインテイア、そして、かためられた足まわりと、ファンにはおなじみの“メルセデスAMG”の流儀が見られる。
そうしたなか、3.0リッター直列6気筒ターボエンジンの自己主張は激しい。「1200万円も払ってこのモデルを選んでくれたのだから……」というメーカーのサービス精神もあるのかもしれないが、まず音に驚かされる。
サウンドエンハンサーを使っているのだろう。アクセルペダルに載せた足の力をゆるめると「バリバリバリッ」と豪快な破裂音がとどろきわたる。
減速で興奮していても仕方ないが、微妙なスロットルコントロールは速く走るための原則なので、慣れるとコーナーの入り口などで快音とともに楽しい思いが出来るはずだ。
もちろん、真骨頂はアクセルペダルを踏み込んだときだ。48ボルトシステムのバックアップを得て電気モーターがトルクの上積みをしてくれるストレートシックスは、SクラスやCLSクラスよりも、たしかにパワフルさを感じる(気がする)。
まっすぐ走るだけでも十分楽しい。ストレートでもこんなに楽しい思いが出来るエンジンはそう多くはないのではないだろうか? 反応のいいシャシーと、しっかりとした足まわり、剛性感の高いブレーキシステムとの組み合わせは最高だ。
アクセルペダルを踏み込むと威勢のいい排気音とともに、間髪いれずに車両は猛烈なダッシュを見せる。そしてどこまでも加速していくかんじは、麻薬的な、脳天直撃の快感だ。エンジンはどこまでもよくまわり、パワーが途切れるかんじがない。すばらしいフィールだ。
その片鱗を味わうと、試乗時の小雨降る高速道路では、なんともものたりない感じがしたのは否めなかった。
トルコン式の9速オートマチック・トランスミッションは6速で直結し、7速から上はオーバードライブとなって燃費に貢献する設定である。制御は緻密で、もしドライバーが楽しみたいと思っていたらアクセル開度などから判断し、トルクバンドを最大限に有効活用できるよう、低めのギアをホールドしてくれる。
なお、メルセデスの新世代直列6気筒エンジンには、ほかにディーゼル仕様もあり、こちらもよく出来ている。電動化が注目される時代にあっても、伝統的な内燃機関の開発に手を抜かないところはさすがメルセデスだ。
ボディはベースとなったEクラスセダンとおなじく全長4950mm、全幅1850mm。比較的余裕あるサイズだ。2940mmにおよぶ長いホイールベベースによって室内スペースは広い。
パッケージからして、ゴルフや長距離旅行にも十分使える。でも最も似合う場所は週末のサーキット走行会かもしれない。そうしないともったいないぐらいの走りである。
E53 4MATIC+」の価格は1202万円。おなじメルセデスAMGのラインナップにおいては、1668万円の「E63 4MATIC+」とはだいぶ価格差がある。とはいえ6気筒モデルでも十分、走りは楽しめるから心配は無用だ。
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