もくじ
ー ジェームズ・ボンドをロジャー・ムーアが演じた時代
ー 007オクトパシーに登場するクルマ
ー ラポート・ハンツマン社のトップレス・レンジローバー
ー キャプチャ画像とミニカーを参考に
ー ベンチシートのフレームがボディ剛性を確保
ー コンバージョンに要した費用は1349万円
ジェームズ・ボンドをロジャー・ムーアが演じた時代
常に人気を得てきた映画シリーズ「007」の中でも、1983年公開の「オクトバシー」が駄作だったと感じているのは、わたしだけではないだろう。ロジャー・ムーアが3代目ジェームズ・ボンド役を努めた作品は、ダニエル・クレイグやピアース・ブロスナンが主演の作品よりも自動的に良い評価を得るとしても、同意してくれる読者は少なくないと思う。
商業的に成功していた007シリーズだったが、1980年代初めは、ある種の停滞期が生まれていた頃だった。当時55歳だったロジャー・ムーアは、ジェームズ・ボンド役として6作品目の出演で、まだ充分集客の見込めるスターだったものの、脚本の展開にはマンネリ感が漂っていた。髪の毛はカツラではなく、肉体もコルセットではなく実際の筋肉だったロジャー・ムーアだが、アクションシーンはスタントマンに変わってもらった方が良かったかも、と後にジョーク混じりに振り返っている。
彼は充分難しい役回りをこなしてきたし、どちらかといえばシリーズが長期化し、ネタを使い果たしていた脚本に問題があったのだと思う。そもそもオクトバシーの原作は、著者が既に亡くなっていた1966年のショートストーリーで、「オクトバシーとリビング・デイライト」が正式なタイトル。脚本家のジレンマは、俳優のセリフだけでなく、演出の中に合間見れるユーモアのセンスにも現れていた。
ジェームズ・ボンドはピエロに扮して、ジャングルの中をターザンのように飛び回るシーンなどは、その典型。まるでジョニー・ワイズミュラーが演じた映画「ターザン」シリーズのように。ジェームズ・ボンドの純粋なファンはがっかりしたはずだが、反面、大衆受けはしたようだけれど。
007オクトパシーに登場するクルマ
前置きが長くなったが、オクトバシーに登場するクルマは案外悪くない。不思議な鉄道のセットの中に登場するメルセデス・ベンツ280Sや、当時登場したばかりのアルファ・ロメオGTV6は素晴らしいシーンの描かれ方をしている。映画は終わりに近づくに連れてお決まりの展開となるが、前半に出てくる、屋根のないレンジローバーの存在感も悪くない。
劇中でジェームズ・ボンドは独裁政権が握る南アメリカの某国に潜入するのだが、そこで馬の運搬用のトレーラーを連結した、あずき色の2ドアモデルが登場する。1982年まで生産されていた、初代レンジローバーだ。このシーンで不思議なのが、最高機密の軍事基地で高尚な乗馬大会が開かれていたということだけでなく、登場するレンジローバーに屋根がないこと。しかし、どちらもストーリー展開上、必要な設定なのだと見ていくうちにわかる。
ボンドは敵の基地内でいつものようにスパイ行為を行い、捕虜を乗せたGMC製の六輪駆動トラックで脱出する。相棒の女性、ビアンカが007をバックアップし、トレーラーをつないだレンジローバーを運転してトラックに続く。ちなみにビアンカ役を務めたのは17歳のティナ・ハドソンだった。屋根も窓もないレンジローバーだからこそ、ビアンカは運転しながら、追いかけてくる軍人たちを麗しい太ももで誘惑し、惑わすことが可能だったのだ。
しばらくしてボンドは捕虜の乗ったGMCのトラックから、レンジローバーのリアデッキに飛び移る。これも、屋根がなかったからこそできた技。そこからマシンガンでのアクションを一通り交え、レンジローバーが牽引していたトレーラーに隠されていた、当時最新の小型ジェット機BD5で脱出するのだった。
爽快なスタント飛行に派手な爆発。銃を持ったセクシーな女性がカギを握る展開。映画007の定番要素を上手に盛り込んでいることを考えると、ここに登場するレンジローバーのオープンモデルは、ボンドカーの1台として話題に登ってもおかしくないように思える。しかし実際は完全に見落とされた存在となっている。不思議なことに、007の企画展にも姿を表したことはない。
ラポート・ハンツマン社のトップレス・レンジローバー
この屋根のないトップレス・レンジローバーをどのカスタムメーカーが手がけたのか、当時は話題にされたこともなかった。しかし一般的には、ラポート・ハンツマンがベースモデルではないかといわれている。主に中東地域の顧客向けにコンバージョンされていた、8名乗りの屋根のないレンジローバーだ。
ロンドンのパークレーン・メイフェアに拠点を置いていたラポート社は、レンジローバーの改造を手がけていた有力企業のひとつ。ランドローバーの純正モデルにはなかった空白を埋めるべく、徹底した作り込みで、当時としては世界的に珍しいラグジュアリー4×4を制作していたスペシャリスト。1981年の4ドア版の登場とともに、コンバージョンは市場の大きな関心を集めることになった。一方で、メーカー純正の豪華な4ドアモデルの登場は、ラポートのようなスペシャリストにとっては、終演を迎えるきっかけにもなってしまうのだが。
1978年に事業を初めたラポート社は、ストレッチリムジン「クワドラポルテ」と「エクセルシオール」を発表。レンジローバーに後付けされたものは、レザーやウォールナットという定番素材に加えて、テレビやエアコンなど。エクセルシオールというモデルには、ロールスロイスのパルテノングリルを模したフロントグリルも取り付けられていた。パンフレット上ではこのフロントグリルをリーガルフロントと呼んでいるが、ロールスロイスの弁護人の興味は充分にひきそうな仕上がりだった。
2名づつ向き合って座れるランドレースタイルのほか、駆動しない3本目のタイヤを追加した6輪仕様もあった。また巨大なサンルーフを開いて、電動油圧システムで持ち上がるハンティングシートを備えたものまで用意された。ハンツマンを含めて、最終的に何台のクルマが改造されたのか、明らかではない。
キャプチャ画像とミニカーを参考に
今回登場していただいたトップレスのレンジローバーは、2017年に制作された、オクトパシーに登場するクルマのレプリカ。手がけたのはロンドンの北、ピーターバラに拠点を置く専門店のビショップス4×4だ。英国の自動車販売店、スタージェス・モーター・グループの会長で、初期のレンジローバーのエンスジャストでもあるクリス・スタージェスが注文した。
コンバージョンのベース車両として、ビショップはかなり低走行の1982年式AAシリーズの2ドアを選んだ。フランス市場向けのクルマだったから、左ハンドル車だった。「エクステリアの状態は良くありませんでした。でも一般的なフロアのサビはなく、具合のいいギアボックスが付いていました」
つまりオーバードライブの備わらない4速マニュアルで、キャブレター式の3.5ℓ V8エンジンを搭載しており、オクトパシーに登場するレンジローバーとメカニズム的にはかなり近い。「参考にできたのは、映画からキャプチャした静止画くらいです。ほとんど資料がなかったので、英国のモデルカー・メーカー、コーギーのミニカーも集めて、どんな見た目だったのか参考にしたほどです」 と話すビショップ。
フロントにアニマルバーが備わっていない点が、映画のオリジナルと異なる部分。スタージェスは、近年の道路環境では、歩行者との衝突時に重篤な怪我を招く恐れがあるアニマルバーは、不適切だと考えたそうだ。リアには快適なベンチシートが備わり、肘をぶつけそうな部分は丸く加工してある。
ベンチシートのフレームがボディ剛性を確保
映画に登場するクルマのように、サイドウインドウのフレームは切り取られているが、スタージェスの希望によりクオーターガラス(三角窓)は残されており、サイドガラスも残された。「まれにサイドウインドウを上げて走りたいと思う場面があるんです。このクォーターガラスのフレームがあるおかげで、サイドウインドウのガラスもしっかり保持できています」
ビショップは車内を覆うカバーを制作しようと考えている。もちろん、屋根がないレンジローバーは雨が降ればずぶ濡れになるが、車内は防水性がないから、カンバストップがあった方が良いだろう。ちなみに、ラポート社の改造モデルにもカンバストップを選択できた。
もしベンチシートに6名も乗せる予定がない場合、リアシートが標準のままなら、通常の防水性に優れたコンバーチブルタイプにもできたかもしれない。反面、ボディ後半のボディフレームがなくなったことでボディ剛性が落ちているはずだが、ビショップは、リアのベンチシートのフレームが補強の面でもかなり役に立っていると考えている。
トップレスのこのクルマが完成してから7カ月が経っている。エンジンはオーバーホールしたそうだが、トランスミッションはそのままだというトップレスのレンジローバー。フランス用ナンバープレートを取り付けて、今回は走らせた。
コンバージョンに要した費用は1349万円
舗装路での走りはスムーズで、エンジンはトルクフル。とても乗り心地が良く、リラックスして運転できる。110km/hで走っていても驚くほど風の巻き込みが少ないのだが、空気の揺らぎとわずかなスカットルシェイクが、屋根のないクルマだと気付かさせてくれる。レンジローバーだからオフロードも問題ない。浅い川を渡り、反対側の土手をよじ登る。まるで通常の屋根が付いているクルマのように、クルマの本来の目的通りに、走れる。
普通のひとが欲しがらないようなクルマだが、お金持ちの007ファンならではのアイデアではある。コンバージョンにかかった金額は9万5000ポンド(1349万円)だと聞いて、驚いてしまった。オクトバシーをトリビュートした1台限りのクルマとして、クリス・スタージェスを納得させるには充分な金額だったろう。
雨の多い英国では特に、乗る機会はかなり限られるだろうから、このクルマのオーナーはカリブ辺りにプライベートの島を持っているひとが適していると思う。日本にも不向きだと思う。白いペルシャ猫を飼っていて、大きなワードローブいっぱいにインド風のネールジャケットが納まり、警備スタッフのために全地形型のクルマが必要なひと。
つまり、ジェームズ・ボンド役ではなく、ジェームズ・ボンドの敵役のような人物像をイメージしてしまった。そういえばクリス・ビショップは、もう1台、追加でコンバージョンの注文を受けたそうだ。
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