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オリンピックからFIA、そしてF1へ。アルファタウリに新風吹き込むCEOバイエルが語る”これまで”と”これから”

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オリンピックからFIA、そしてF1へ。アルファタウリに新風吹き込むCEOバイエルが語る”これまで”と”これから”

 スクーデリア・アルファタウリは、今年6月に新CEOとしてピーター・バイエルが就任することが発表された。

 彼の名前は広く知られていなかったかもしれないが、彼は元FIA会長の元で仕事をしていたため、F1内では多くの称賛を得ていた。

■チーム創設時の”存在意義”を失いつつあるアルファタウリ……将来このチームはどこに向かっていくのか?

 52歳の彼は、モータースポーツの世界に入る前に様々なスポーツ業界で活躍してきた。彼が持つ経験値が、アルファタウリの政治的、ビジネス的側面を監督する役割において様々な経験をもたらすことになるだろう。

 1971年にオーストリアで生まれたバイエルは、少年時代からF1の虜。父親と共に国営放送『ORF』のレース中継を観て育った。

「ニキ・ラウダはオーストリアで誰よりも偉大な国民的ヒーローだった」とバイエルは幼少期を振り返る。

「オーストリアにはモーツァルトのような有名人がいるけど、ニキは私にとって信じられないような人だった」

 経営学の学位を取得した後、バイエルはモータースポーツの仕事に就くことを望んだが、人脈もなく、バーニー・エクレストンのオフィスに売り込みの電話をかけてアドバイスを求めたが、どこにも繋がらなかった。それどころか、彼の人生は別の方向へと進んでいった。

「当時はスキーやスノーボード、クライミングに明け暮れていた」とバイエルは言う。

「そして『僕らと一緒に働きに来い』と言ってくる人たちに会ったんだ。それで私は国際スノーボード連盟に入った」

「素晴らしい経験が得られた。若年層に訴求できるからこそ、多くのビジネスパートナーが参入したがるというニッチな分野があることを、私はすぐに理解できた」

「スノーボードはスポーツ、文化、ライフスタイル、音楽、ファッションのミックスだった。我々はスノーボードのイベントを企画し、さらに音楽フェスを加えた。次のステップとして、2005年に自分で『サウンドシティ』というエレクトロニック・ミュージックのフェスを立ち上げた。オーストリアでは1、2を争う規模だったよ」

 彼はウィンタースポーツに関わっていたことで、国際オリンピック委員会(IOC)と新たなプロジェクトを行なうこととなった。

「IOCは、若年層のためにユースオリンピックを設立した。2010年にシンガポールで始まり、2012年に開催された最初の冬季大会では私がCEOを務めた」

 実業家でロンドンオリンピック副会長のケス・ミルズ卿との出会いをキッカケに、バイエルは2013年からセーリングの世界に入り、オーシャンマスターズシリーズやアメリカズカップなどに携わるようになった。そして偶然にも、モータースポーツに携わる機会が訪れた。

「ジャン・トッドはIOC事務局長のクリストフ・ドゥ・ケッパーと非常に親しい仲だった」とバイエルは言う。

「彼はFIAの新しい競技事務総長を探していた。そしてクリストフに電話をして『この男を知っている』と伝えたんだ」

「ジャンは私に会い、3ヵ月間私を徹底的に調査した。ミーティングを沢山して、プレゼンも沢山やる必要があった。彼は私がモータースポーツを理解しているかどうか確かめたがっていたからね。モータースポーツへの情熱以外、私にはバックグラウンドがないというのは明らかだったけどね」

「私は彼のために、全ての選手権の長所と短所、その構造、彼らが管理する資産を分析したプレゼンを行なう必要があった。そしてジャンと世界評議会を納得させ、私が選出された」

 バイエルは2017年3月にFIA競技事務総長に就任。その際、直属の前任者であり、政界へと転身していたジャン=ルイ・バレンティンからアドバイスを得た。

「最初の日、彼は私にこう言ったんだ。『ピーター、君が集中するのは行政、ラリー、WEC(世界耐久選手権)だ』とね」バイエルはそう振り返る。

「そして彼は『F1には手を出すな。面倒なことになるだけだ!』と続けたんだ」

「ジャンから全幅の信頼を得るには3年を要した。でも3年後、彼は『モータースポーツは君がやれ。他のことは私が面倒を見る』と言って、私に扉を開いてくれた」

「私は管理的な仕事から、より積極的な管理スタイルへと移行した」

「私の時間の80%は、将来の戦略的方向性について選手権のプロモーターと関わり、仕事をすることだった。フォーミュラEの将来について(シリーズ創設者の)アレハンドロ・アガグとはよく話をしたし、フォーミュラEの世界選手権化の交渉は私が指揮した」

「世界ラリーレイド選手権、世界ラリー選手権の延長について私はプロモーション契約の交渉を担当し、ヨーロッパラリー選手権とラリークロスをドイツのプロモーターとひとつの傘下に収めた。それが私の通常業務だった」

 一方F1でバイエルは、予算制限の新レギュレーション策定に深く関わり、2026年以降の次世代パワーユニットレギュレーションの策定にも寄与した。

「財務規定は我々にとって非常に重要だった」とバイエルは言う。

「元々のアイデアは(F1の旧CEOである)チェイス・キャリーから出たモノで、私はチェイスがそれで何をしたいのか理解していた」

「そして私のビジネス経験から、これは実現できると感じた。結局、会計はエンジニアリングと同じく非常に精密なビジネスなんだ」

「私がプロジェクトを主導していたのは不思議かもしれないが、エンジンのレギュレーションは戦略的なグループで始まった。オーラ・カレニウス(メルセデス)、ジョン・エルカン(フェラーリ)、オリバー・ブルーメ(VW/ポルシェ)、マルクス・デュースマン(VW/アウディ)、ルカ・デ・メオ(ルノー)、ジャン・トッド、ステファノ・ドメニカリ(現F1 CEO)の面々だ」

「彼らはモータースポーツのリーダーであり『OK、我々に何ができるだろうか? どうすれば適切かつ魅力的であり続けることができるだろうか?』と話し合った」

「そこから、エンジンの戦略的方向性を定義し始めた。その後、技術的な詳細が決められていったが、私の仕事はエンジニアが考え出したモノが何であれ、戦略目標に沿ったモノであることを確認することだった」

 こうした仕事ぶりからバイエルは高く評価され、2021年にはF1エグゼクティブディレクターという役割を得て、FIAで幅広い業務を監督した。

 トッドのFIA会長としての任期が終わろうとしていた2021年12月、FIAにCEO職を新設することを掲げたモハメド・ベン・スレイエムがトッドの後任として選出された。

 ベン・スレイエムは独自のチームとアイデアを持ち、バイエルの考えとはそぐわなかった。そのため、バイエルは2022年5月にFIAを去ることとなった。

「モハメドが選出された時、私は彼らが実際、どのように事業を構成しようとしているのか理解できなかった」と彼は言う。

「私はF1の仕事に集中することにしたが、事業がどうなっていくのか少しは理解できる日がやってきた」

「私はジャンの元で大きな役目を負っていたが、それが細切れにされてしまった。そしてF1ビジネスに携わるにはかなりのエネルギーが必要で、年中無休……自分の立場をハッキリさせなければいけないし、自分がどういう人間なのかを知ってもらう必要があった」

「私には(計画が)少し曖昧に思えた。新しい人たち、新しいマネージャー、新しいアドバイザー……みんながそれぞれに意見を持っていた」

「私はオープンマインドで冷静な人間だが、物事が自分の思い通りに動いていないと分かると、私はかなり頑固になる。そしてモハメドを取り巻く人たちと何度か話し合い、最終的には、これでは無意味だということで意見が一致したんだ」

 バイエルはFIAを離れた後、IOCとアウディのF1プロジェクトでコンサルタント業務を請け負った。その後アルファタウリに加わる機会が訪れ、最初の話し合いにはレッドブルの共同オーナーであった故ディートリッヒ・マテシッツが参加した。

 今年に入り、レッドブルがアルファタウリを再始動させるべくフランツ・トストが担ってきたチーム代表とCEOの業務を分業化させたことで話し合いは加速。バイエルがCEOに就任し、今年限りで引退するトストの後任にはフェラーリからローレン・メキーズが加わることとなった。

「本当はふたりでやる仕事だと思っている」とバイエルは言う。

「フランツやクリスチャン(ホーナー/レッドブル・レーシングCEO兼代表)、トト(ウルフ/メルセデスF1チームCEO兼代表)のように20年以上このビジネスに携わっていなければ、下には首脳陣を支える構造があるかもしれない」

「しかし中規模から小規模のチームにとっては、技術、財務、メディア、ビジネス、政治をサポートするには複雑で、効率的であろうとすれば、ひとりに任せるには大きすぎる」

 来年からチーム代表に就任するメキーズとの分担は明確で「彼はレースチーム、技術面、競技面を担当する。それが彼の主な仕事だ」とバイエルは説明する。

「私の仕事は商業面やビジネス面、戦略面だ。そしてふたりで財務規定にあたることになる」

 アルファタウリは2024年からチーム名称が変更されることになっており、現在バイエルはその任務にあたっている。

 また彼は、チーム改革に伴う姉妹チームのレッドブル・レーシングとの連携強化や、2026年からパワーユニットをレッドブル・パワートレインズ/フォードへと移行するための準備にも追われている。

「私にとって、株主からの最も重要なメッセージはアルファタウリが売却されないということだった」

 コース内外での成績不振から一時はチーム売却も検討されたことについて、バイエルはそう語る。

「我々は安定性を手に入れたのだ」

「ここにはふたつの理由があると思う。ひとつはチームに対する感情的な愛着、もうひとつは若手ドライバー育成を担う妹チームが(レッドブル)ファミリー内にいることが理にかなっているということだ」

「若い才能を見つけるという目的は残るだろう。我々はそれをもう少し拡張し、こうした分野に踏み入れていくかもしれない」

「同時にレッドブル・レーシングとの相乗効果を見つけ、緊密に協力し、技術規定を活用する。現在我々がやっていないことだ……結果が物語っているようにね!」

「しかしビジネス的な面でも、人材育成の面、技術エンジニアやマネージャーの進路の面でも、一緒にできることは沢山ある。それこそが私が取り組んでいる戦略的な課題なのだ」

 アルファタウリはイギリスでの研究開発拠点を現在のビスターから、レッドブル・レーシングのファクトリーがあるミルトンキーンズへと移すことが検討されている。

 この2チームの関係性がライバルチームからは注目を集めるはずだが、バイエルはレギュレーションに抵触することはないと主張している。

「チームの間には万里の長城が敷かれている」とバイエルは言う。

「例えばハースとフェラーリを見てみてほしい。ローレンと私は『みんな、我々は違法なことをしたくない』と言って、経験を提供できるだろう。でもみんなチームを行き来しているのを目の当たりにしているから、できることがあるというのも分かっている」

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