運営元:旧車王
著者 :クマダトシロー
▲筆者の所有する空冷ビートル。ソリッドカラーとはいえクリアー層を有するが、比較的高年式の車輌とはいえ塗装の質は現代車に比べ明らかに劣る
新車・中古車に関わらず、クルマを購入する際に、必ずといってよいほどボディーコーティングの施工を勧められることはないだろうか?
クルマの見積書に記載があれば、これから自身のモノとなる愛車のために、いわれるがまま施工される方も多いことであろう。
もはやボディーコーティングといえば、車輌購入時のオプションメニューとして、代表的な選択肢の一つといっても過言ではないはずだ。
さて、ここまでは一般的な現代のクルマでの話であるが、これが旧車へのボディーコーティングとなったら一体いかがなものであろうか?
今回はボディーコーティング施工の業務経験から、旧車へのボディーコーティング施工について、私クマダの主観とはなるが、初心者のためにできるだけ簡単に意見を述べてみたいと思う。
▲現代のクルマでは、購入と共に当たり前のように施工されるボディーコーティング
■1.そもそもボディーコーティングとは何か?ボディーコーティングとは、その名のとおり、自動車のボディーなど外装に施工する保護処理の一つである。
業務用の特殊なコーティング剤を塗布してボディーの塗装面全般を保護し、耐久性を向上させるためにおこなわれる。
使用されるコーティング剤については、黎明期はワックスに類似する程度のものから、フッ素(テフロンとも呼ばれる)やシリコーンを用いたポリマーコーティング剤が主であったが、おおよそ10数年ほど前から、(ガラスの組成に近いシロキサンやポリシラザンを原料とする)二酸化ケイ素を用いたガラス系コーティング剤が主流となった。
今回の記事は、現代において主流となったガラス系コーティングの施工を前提として、話を進めていきたいと思う。
▲昨今では近所のガソリンスタンドでも施工できるほど、身近になったボディーコーティングではあるが・・・
■2.ボディーコーティングを施工するメリットとは?それでは、旧車にボディーコーティングを施工するメリットとデメリットについて語っていきたい。
まず、現代車に施工する場合と同様の一般的なメリットをあげれば、以下のとおりだ。
【塗装の保護】
厚く硬いコーティング膜により塗装面を傷やスクラッチなどのダメージを緩和し、傷そのものをつきづらくする。
【光沢に優れる】
ガラスの組成に似た成分を持つことから光沢に優れる。
ハイグレードなコーティング剤を施工すれば、その膜厚によりクリアー層がさらに厚くなった様に見える製品も存在する。
【汚れが定着しづらくなる】
コーティング被膜上に汚れが定着しづらくなる。ピッチ・タールなど、特に油性の汚れがこびり付くことが少なくなる。また、長期間放置したものはNGだが、水アカも通常の洗車でかなり落としやすくなる。
【長寿命である】
ガラス系コーティングは無機質のため、酸化しないことが特徴だ。
旧来のポリマーコーティングについて全てがそうとはいえないが、ロウや石油系溶剤などの有機物からなるワックスについては、熱を受けたり時間の経過により、ゆくゆくは保護膜そのものが酸化し、汚れとともに塗装にこびりついて劣化してしまう場合もある。
無機質であるガラス系コーティングは熱や紫外線に強く、酸性雨からもボディーを保護する効果が高い。
これは有機物からなるワックスやポリマーコーティングとの最大の違いである。
一般的に寿命は3~5年といわれるが、筆者の経験上、メンテナンス次第だが寿命はそれ以上ともいえる。
【旧車に施工するメリットは?】
旧車に施工するメリットは、とくに青空駐車にてクルマを保管するオーナーにとって、紫外線や酸性雨からボディーの塗装を保護できることが最大のメリットとなるはずだ。
それ以上に、現代車のように厚いクリアー層を持たない旧車については、膜厚のあるコーティングを施工することによって、ボディーに光沢を与えることができる場合もある。
また、油性の汚れがこびり付きづらくなる防汚性能にもメリットがある。
キャブレター車など、リアバンパーのマフラー周りに排気ガスによる黒いススがつくことが無かろうか?
こういった汚れが通常の洗車で落としやすくなるのだ。
■3.逆にボディーコーティングを施工することによるデメリットは?それでは、逆にデメリットを述べよう。
今日においては、ボディーコーティングを施工するうえで、選択肢はほぼガラス系コーティング一択となるであろう。
考えられるデメリットは以下のとおりだ。
【施工費用が高額である】
価格が高い。誰しもがそう感じるはずだ。
情報化の進んだ今日では、ボディーコーティングに用いるプロ用の薬剤もインターネットショッピングで手に入れることができる。
薬剤そのものの価格は、施工する金額の数分の一となり、けっして高価ではない。
それでは、なぜプロに施工を依頼すると高額なのか?
答えは簡単だ。施工にとても時間がかかり、とにかく重労働だからである。
その理由を次の項で述べる。
▲旧車ではありませんが、筆者はこんなYouTube動画をつくっております。
https://youtu.be/SK1gWpUxyIk
■4.ボディーコーティング剤への過度な期待は禁物ところで、実際にボディーコーティングの施工をプロに依頼する際の検討材料といえば、よほどのマニアでない限り、なんとなく使用するコーティング剤のブランドや、ネームバリューから想像される仕様や性能に興味が向きがちではなかろうか?
私クマダは、この部分に注意喚起をしたい。
あくまでもボディーコーティングの施工において、作業の主役はコーティング剤そのものを塗布する工程ではなく、その施工時間の大半を費やす、施工者自身による下地作りの工程なのだ。
では、ボディーコーティング施工において主役となる、下地作りとは何か?
簡単にいえば、それはボディーの汚れ落としと塗装面の研磨だ。
ボディーに付着した長年の汚れ、鉄粉やピッチ・タールをトラップ粘土で除去することから始まり、ボディーについた傷やスクラッチを、ポリッシャーを用いて入念にコンパウンド掛けをして削り落とす。
使用過程のクルマにおいては、通常の洗車では手の届かない部分の汚れ、一例を述べれば、モールとボディーのすき間やエンブレムの周りなどにこびりついた長年の水アカなどを、スケール除去剤のような個人で取り扱うにはリスクのある「プロ仕様」の特殊な薬剤をもちいて入念に落とす。
実は、ボディーコーティングを施工することでクルマが輝くのではなく、むしろこの下地作りの作業でクルマが輝くといっても過言ではない。
ではなぜ、ボディーコーティングを施工するために、そこまでの作業が必要なのか?
それは、ガラス系コーティングの被膜はとても強固なため、簡単にやり直しができないからである。
ガラス系コーティングはシンナーで簡単に落とせるような代物ではない。
下地となる塗装面に傷や汚れが残ったまま施工してしまうと、そのままその傷や汚れを強固にコーティングしてしまうのだ。
新車と違い、使用過程におけるクルマを磨くことは、面倒なことこの上ない。
さらにコーティング剤を塗布する場合にも、塗布する場所の温度や湿度など、施工環境への配慮が必要である。
また施工後も、決められた時間、ボディーを水に濡らさないようにして、しっかり乾燥させなければならない。
とにかく、全般的にとても気を遣う作業なのだ。
だからボディーコーティングの施工は高額となるのである。
どこかで聞いたような言葉で述べれば、「コーティング剤の性能の違いが、コーティングの仕上がりの決定的な差ではない」のだ。
むしろ、施工者の技術や経験で仕上がりに大きな差がでるといって過言ではないであろう。
コーティング剤のネームバリューに惑わされてはいけない。
お金を費やすべきものは、施工者自身の腕と情熱なのだ。
▲旧車ではありませんが、筆者はこんなYouTube動画をつくっております(その2)
https://youtu.be/mLqZ6kl4BWc
■5.悩ましい旧車へのボディーコーティング旧車にボディーコーティングを施工する場合は、さらにいくつか注意するべき点がある。
ここまでの記事を読めば、勘の良い読者の方は気づかれたことであろう。
ボディーコーティングの下地作りをする際におこなう、電動ポリッシャーによるコンパウンド掛けはボディーの塗装面を磨くので、当然のことではあるが少なからずボディーの塗装を薄くしてしまう。
もとより旧車の塗装といえば、経年により少なからずダメージがあることが前提ではある。
しかしながら、事故などの補修による再塗装部分やキレイにレストアされた車輌など、プロフェッショナルであっても、その塗膜がどのような下地の上に乗っているものか予想がつかない場合が多い。
こういった部分に安易に手を入れると、下地作りの作業途中で、思いもよらない原因で塗装面を傷めてしまう場合もあるのだ。
旧車のボディーコーティングについては、施工を断られることもあると耳にしたことがある。
当然のことであろう。
旧車の塗装に手を入れるには、それなりの経験が必要だ。
ボディーコーティング施工者の誰もが旧車を相手にできるわけではないのだ。
レストアされた車輌であればまだしも、貴重なオリジナルペイントの車輌に手を入れる場合は特に慎重に作業せねばならない。
それこそ取り返しのつかない事態になりかねないからだ。
ならば、旧車のボディーコーティングはどこに依頼すれば良いのか?
ボディーコーティング施工は洗車の延長線上、すなわちカーディティーリング業界に属する。
旧車への施工を唱っている施工業者であればなんら問題ないが、身の回りに見つからなければ、鈑金塗装の、それも旧車が得意なプロフェッショナルの門を叩くと良い。
ワックスは塗料を弾くため、塗装時のトラブルの素となるためか、洗車業界と鈑金業界は水と油といわれることもある。
しかし、常にボディーペイントの下地と塗膜に向き合っている彼らからは「佳い(よい)」アドバイスをいただけるはずだ。
▲業務上、今日までガラス系コーティングを施工する時間はいくらでもあったが、今日までワックス仕上げで維持している。メキシコ産ビートルとはいえ、すでに25年が経過したオリジナルペイント塗装はいたるところでクリアー層の剥がれが始まっている
■6.まとめレストアされたクルマはどれも美しい。
しかし、自身の幼少期、これらのクルマが新車であった頃、はたして、これほど艶やかに輝いていただろうか・・・?ふと思うことがある。
旧車といえば、ある時代より旧いクルマの場合、ソリッドカラーのクルマなど、クリアー層を持たない塗装が多く存在する。
筆者もいわばアラフォーのおっさんとなり、昨今の旧車ブームではネオクラシックと呼ばれる1970年代後半から1980年代のクルマが自身の刷り込みのクルマであるのだが・・・。
そういえばこのクルマ、新車の頃はもう少し落ち着いた輝きだったような・・・。
特にここ数年、旧いクルマを眺めていると、このように感じることが多い。
極端にいえば「不自然」に感じるのだ。
レストアされ、新車時以上に高品質な塗装で、エンジンルームのスミからスミまで美しく厚い塗膜でオールペイントされたクルマ。
こういったクルマには、躊躇せずボディーコーティングを施せばよいことであろう。
しかし、オリジナルペイントが残るクルマはどうだろうか?
当時はまだ高額だったシュアラスターのカルナバで仕上げたクルマは、まだ幼かった筆者の目でも違いを感じたものだ。
ここからは余談であるが、ここまでボディーコーティングについて語っておきながら、特にオリジナルが随所に残る旧車風情が漂う佳き時代のクルマに対し、安直にガラス系コーティングをおススメして良いものかと感じているのが筆者の正直な感想だ。
青空駐車かつ日常使いの旧車オーナーにとって、ボディーコーティングは強くおススメできるものではあるが、決して必須であるとはいえない。
有機物ゆえに、ボディーの水アカの原因になりかねない旧来のカーワックスであっても、その自然な艶と肌ざわりに根強い人気があり、週末の洗車とワックス掛けがルーチンワークとなっているベテランオーナーは数多い。
長い期間隅々までキレイに磨かれ、良好な状態を保たれた旧車のボディーの細部に残る、どうしてもオーナーが落としきれないちょっとした水アカに、むしろそのオーナーの愛着の深さを感じてしまうことがあるのだ。
あばたもえくぼ。
結局は、自身のいちばんやりたい方法でクルマを仕上げるのが、究極の旧車メンテナンスではなかろうか。
閑話休題。
旧車においては、最新が最良と言えないことが多いのだ。
ボディーコーティング然り。
ボディーコーティングはあくまでも、クルマ維持の選択肢の一つに過ぎない。
※私クマダはYouTubeでポンコツ再生動画を公開しております。ぜひ動画もご覧になってください。チャンネル登録お待ちしております。
https://www.youtube.com/@BEARMANs
[ライター・クマダトシロー / 画像・クマダトシロー, AdobeStock]
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