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ハートに火をつけたモリゾウのメッセージ。「モータースポーツを『政治』にしては絶対にいけない」【佐藤恒治トヨタ社長に訊く(1)】

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ハートに火をつけたモリゾウのメッセージ。「モータースポーツを『政治』にしては絶対にいけない」【佐藤恒治トヨタ社長に訊く(1)】

 トヨタGAZOO Racingのワン・ツー・フィニッシュ、そしてマニュファクチャラーズタイトル決定という形で幕を閉じたWEC世界耐久選手権第6戦富士。ハイパーカークラスに新たなマニュファクチャラーが続々と参戦した今季、富士スピードウェイには3日間で54,700人という観客が集まり、WEC富士の動員記録を更新する盛況ぶりとなった。

 表彰台に登壇したトヨタ自動車の佐藤恒治社長はその直後、記者団の取材に対応。勝利の美酒の華やかな香りを漂わせながら、同社のモータースポーツ活動の現在地、将来像など、さまざまな話題に答えた。ここでは、昨今のWECをめぐる状況を中心にお伝えする。

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■「自分で考えて動く」チームへの変貌

 佐藤社長はWEC富士のレース中、トヨタのピット内で無線を聞きながら戦況を見守っていた。チームとの距離感はおのずと近くなり、レース内容に関するコメントも『マニュファクチャラーの社長』というよりは、『チームのボス』といった雰囲気になる。

 無事に優勝を飾ったホームレースについて佐藤社長は「チームは本当にいい仕事をしてくれました」と振り返り、勝利を挙げた7号車GR010ハイブリッドをドライブしながらチーム代表職も務める小林可夢偉の貢献を賞賛した。

「今日はすごく厳しい展開だったので、戦略的にもいろいろなことを調整しながらやっていましたが、『最後に勝ち切る強さ』がチームについたと思います。可夢偉が代表になってから、チームのコミュニケーションがすごく良くなっているんですよね。ピットで見ていても、誰かが指示を出している姿はほとんどありません。みんな自分で考えて動いている。そういうチームになってきました」

 トヨタの2台は予選でフロントロウを独占するも、スタートではポルシェ963に先行される苦しい展開に。しかしそこからじわじわとポルシェを追い詰めていき、最終的には逆転に成功した。

「レースペースは悪くなかったですし、タイヤ選択もいろいろなトライをして、最終的にはミディアム(コンパウンド)がマッチしましたので、早めの判断もうまく作用しました。ペースは良かったので『慌てずに、ちょっとずつ詰めていこう』というオペレーションです。とはいえ、じりじりと行く感じだったので……疲れましたけどね(笑)」

 富士戦でのトヨタvsポルシェの戦いでも顕著だったように、今季のハイパーカークラスでは、接戦が展開されるようになってきている「レースオペレーションのなかで、本当にちょっとずつの積み重ねで誰が勝つか決まる。それが最近のWECの面白さではないでしょうか」と佐藤社長。

 また、WEC富士では過去最高となった大勢の観客・ファンのバックアップも大きかったといい、「ちょうどピット前(のグランドスタンド)に、ブワーっと見えて。あれが結構“来る”んですよ。6時間レースをしていると、ときどきへこたれそうになるんですが、本当に勇気が湧いてくる。本当に感謝ですね」と大きく心を動かされた様子だった。

■“健全な競争”なくして、自動車産業の発展なし

 このように熱戦で幕を閉じた富士ラウンドであったが、今季ここまでのトヨタの戦いを語るうえで避けて通れないのが、第4戦ル・マン24時間レースの直前に行われた、事前の取り決めにはないタイミングでのBoP(バランス・オブ・パフォーマンス=性能調整)の変更だ。

 テストデー直前に突如発表されたこのBoPでトヨタは“足枷”をつけられる格好となり、100周年記念大会のル・マンで苦戦。豊田章男トヨタ自動車会長も、いちアスリート“モリゾウ”として「アスリートにスポーツをやらせてほしい」とのコメントを発表する異例の事態ともなった。

 今年のル・マンでは将来の参戦を見据えた水素エンジン車両『GR H2 Racing Concept』を発表したトヨタだが、少なくともその登場までは現行のハイパーカークラスで戦っていくことが見込まれ、そこではBoPが付きまとうことになる。

 このBoPをめぐる一連の動きについて聞かれた佐藤社長は、これまでル・マンが紡いできた“歴史”を引き合いに出しつつ、次のように述べた。

「ル・マンで章男会長が大きな発信をしていたとおりで、健全なルールの下に、アスリートが自分たちの技術を競っているのが、この場じゃないですか。とくにル・マンは、日本の自動車産業に、常に技術革新をもたらしてきた。健全な競争から生まれた技術競争があって、自動車産業は発展してきたわけです。だから我々はそこにエンゲージしているのであって、やはり『政治』にしては絶対にいけない。政治になった瞬間に、我々がそこに留まる理由がなくなってしまうのです」

「なにカッコつけてるんだ、と言われるかもしれませんが、モータースポーツでひとりでも多くの人を笑顔にしたいんですよ。まずはみんなが笑顔になって、モータースポーツで人が鍛えられて、いいクルマが作れるようになれば、それもまた多くの人を笑顔にできる。シンプルなんです。だからこそ、そこを政治の世界には絶対にしたくありません」

 ル・マン後、富士の現場を含めてACOフランス西部自動車クラブとのコミュニケーションは続いているという。「我々は『モノ言うマニュファクチャラー』。我々のスタンスははっきりとお伝えしている」と佐藤社長。幸い、その対話は事態を好転させているようで、今年のル・マン前のような“不可解な”動きは、今後は起きないことが予期されている。

 そして、100周年記念大会で優勝することはできなかったものの、ル・マンを機にチームを取り巻く状況にはさまざまな“変化”が生まれた、と佐藤社長は指摘する。

「モリゾウさんがあそこまでのメッセージを出してくれたおかげで、みんなハートに火がついています。あれがなかったら、僕らはここまで本当に全力でいろいろなものに向き合えていたかというと……ちょっと熱量が変わっていたかもしれません。自分自身のエンゲージメントも全然違います。ACOとの対話は僕自身が動いているところもありますから『本当にこれはトップマターですよ』と」

「チームも間違いなく変わっていますし、モンツァも、今日のレースも、『ル・マンがあったからこそ』の勝利だと思います。またファンの方々との距離感も、ル・マン以降はグッと縮まった気がしています。応援が本当にありがたい、というのは、あれがあったから改めて感じる部分もありますね」

■中嶋一貴TGR-E副会長の貢献

 まさに“怪我の功名”ともいうべき状況だが、チームとしての変化はBoPの一件だけが契機だったわけではない。冒頭では可夢偉チーム代表の貢献ぶりを高く評価した佐藤社長だが、同様に昨年からマネジメントに加わった中嶋一貴TGR-E(トヨタGAZOO Racing・ヨーロッパ)副会長の働きにも、大きく助けられているようだ。

「もう、一貴は絶大ですよ」とTGR-E会長も務める佐藤社長は絶賛する。

「表にはまだ見えにくいですが、結構大きな事業ビジョンについて、日頃から一緒に相談しています。WECのスキームはもちろんですが、たとえばドライバー育成をどう進めるかなど、彼自身の経験も含めてアドバイスをもらったりしながら、いろいろな作戦を立てています」

 佐藤社長いわく、一貴副会長は「パートナー」。それぞれがクルマづくりの経験とドライバー経験を活かすことによってものごとが円滑に進められているようで、「ACOとやりとりするときも、基本的には彼と一緒に行って『カズキとコウジ』で対話をします(笑)」という。

 富士でマニュファクチャラータイトルを決めたTGR WECチームは11月、ドライバーズタイトル決定の舞台となるバーレーンへと向かう。フェラーリ499Pも数字上は可能性を残しているが、実質的にはトヨタの2台、8号車と7号車によるタイトル争いが展開されることになるだろう。

 最終戦の見どころを問われた佐藤社長は、「ウチがいかにガチか、ということでしょう」と即答。富士の決勝では、背後に僚友を従えながらも首位のポルシェにアタックし続けたホセ・マリア・ロペスの“忖度なしの走り”に、さまざまな意味でトヨタのピット内は盛り上がっていようだ。

「今日だって本当に何回『ホセ!』って叫んだことか(笑)。『おいホセ! ホセ~ェ!』って、ピットで10回くらいは言ったかな(笑)。そういうチームなので。だから、(最終戦も)面白いと思います」

 果たして最終戦で彼らは、どんな“スポーツ”を見せてくれるのだろうか。

※後編(後日公開)に続く

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