空冷の水平対向4気筒エンジンをリアに積んでいた時代のVWを振り返る際に、俗に『ワーゲンバス』と呼ばれる正式名称『トランスポーター(型式タイプII)』は偉大な存在だった通称『ビートル(型式タイプI)』と並ぶ大きな柱である。
そのワーゲンバスの現代版となるEVのコンセプトカーが『ID. BUZZ』の車名で各国のモーターショーなどに出展されたのは2017年のことで、その時から2022年の市販化が公表されていたが、ついに予定通りとなる2022年の市販車の登場が2月26日にVWから正式に発表された。
当記事ではワーゲンバスを振り返るとともに、コンセプトカーなどから得られた情報をもとに『ID. BUZZ』の市販車がどんなクルマになるのかを考えてみた。
文/永田恵一
写真/VW
【画像ギャラリー】カッコかわいい!? ID. BUZZ コンセプトの写真を確認!
■ワーゲンバスってどんなクルマ?
『T1』と呼ばれるトランスポーターの初代モデルが登場したのは1950年のことで、T1が市販化されたきっかけは『タイプI』のリアに水平対向4気筒OHVエンジンを置くRR+ラダーフレーム構造の拡張性、汎用性の高さが着目されたためといわれている。
T1の成り立ちをザックリいえばタイプIをベースにした1BOXカーで、住宅で例えるならタイプIという土台に、建物となるボディを1BOXカーのT1に変えたイメージである。1.2LエンジンでスタートしたT1は最終的に排気量を1.5Lに拡大するなどしながら、1967年まで生産された。
『T1』と『ID. BUZZ』。フォルムは似ているが、デザインは進んだ時代分アップデートされている
2代目モデルとなる『T2』は1967年の登場で、基本的な構造はT1からそう変わらず、大きく変わったのは北米での拡販のため厳しくなった衝突安全性や排ガス規制への対応を進めた点である。水平対向4気筒エンジンは1.7L、1.8Lと排気量を拡大しながら、最終的に2Lとなり、1979年に『T3』にバトンダッチされた。
『T3』もRRではあったものの、ワーゲンバスというニックネームが相応しいユーモラスなエクステリアではなくなったことや、『T4』以降のモデルはFFとなった点も考えると、ワーゲンバスと呼べるのはT2までだろう。
なお、T2はタイプIがメキシコで2003年まで継続生産されたとの同様にブラジルで継続生産され、1990年代後半からエンジンを水冷の直列4気筒に替えるなどしながら2013年まで生産されたという、タイプIと並ぶ超長寿車でもあった。
■ID. BUZZの市販車はどうなる?
コンセプトカーの時点でクルマの土台となるプラットホームはすでに市販されている『ID. 3』などに採用されているEV専用で高い拡張性も持ち、リアモーターを基本とする「MEB」を使うとされていた。
コンセプトカーのボディサイズは全長4942×全幅1976×全高1963mm、ホイールベース3300mmとなっており、市販車のボディサイズは全高はさほど変わらずとも全長と全幅は若干小さくされ、現在の『シャラン』(全長4855×全幅1910mm)に近いものとなるのではと予想される。
シャラン級のボディサイズに111kWh級バッテリーを搭載。廉価版に50kWh級仕様が追加されるかもしれない
駆動用バッテリーは床下に置かれ、駆動用バッテリーの容量はコンセプトカーの111kWh(コンセプトカーの航続距離は550km以上)に近いサイズに加え、50kWh級の普及版が設定される可能性も高い。
モーターはコンセプトカーでは前後に配置され、4WDとなる2モーター仕様は市販車にも確実にラインナップされるだろう(2モーター仕様のコンセプトカーの動力性能は前後合計で374ps、0-100km/h加速5.0秒、最高速160km/h)。また、駆動用バッテリー同様に普及版としてリアモーターのみの仕様も時期はともかくとしてありそうで、いずれにしてもID. BUZZの市販車は駆動用バッテリーとモーターの組み合わせによるバリエーションの拡充も期待できるだろう。
コンセプトカーのエクステリアは「ユーモラスなワーゲンバスのエクステリアを現代に蘇らせた」という言葉に尽きる印象だったが、市販車もコンセプトカーのエクステリアを市販できるよう最低限の手を加えるという程度の変更に留まるのではないだろうか。
インテリアはコンセプトカーのものはワーゲンバス同様のシンプルさに加え、四角いハンドルにウインカーやシフトボタンといった操作系を集約させ、大型モニターも組み合わせて運転するというイメージだったが、市販車はコンセプトカーのイメージを可能な限り盛り込むというイメージだろう。
EV化により特に室内長の長さが目に付く広いキャビンは、コンセプトカーが8人乗りだった点は市販車も踏襲し、市販車のシートアレンジもコンセプトカー同様にテーブルも設置できる1、2列目の回転対座モードやフルフラットモードなどを備え、停止中にも楽しく過ごせるキャビンとなるに違いない。
広大なキャビン。シートアレンジに自由度がありそうだ
さらにID. BUZZは商用仕様の登場も有力視されており、商用仕様はカスタマイズによりキャンピングカー仕様など、乗用仕様以上に自分に合った空間を造りやすくなるだろう。
また、ID BUZZのコンセプトカーは自動運転を目指したモデルだったが、この点に関しては2021年2月26日にVWが発表を行っている。
発表の内容を要約すると「VWはMEBプラットホームの供給や自動運転分野で手を組んでいるフォードともに、自動運転用のソフトウェアの専門会社であるアルゴA1の手も借り、自動運転技術自体の開発とタクシーやトラックのような自動運転による輸送の実現を目指しており、その1号車はID. BUZZになる」というものだ。
自動運転に関する技術がID. BUZZの市販車にどの程度盛り込まれるのかはさておきとして、ID. BUZZの市販車が登場した際にはこの点も非常に楽しみだ。
商用車仕様は、ランク3以上の自動運転車両となるかもしれない
■まとめ
ユーモラスなエクステリアとは対照的にEVという点や自動運転による二面性を持つID. BUZZは市販化が待ち遠しいモデルだ。
しかし、ここまで書きながらちょっと不安なのはID. BUZZのメインマーケットは欧州、北米、中国と日本は入っておらず、VWグループジャパン広報部に問い合わせたところ「ID. BUZZの日本導入は未定」との回答だった。
それだけにID. BUZZが欲しい人はVWグループジャパンにラブコールを送り、ID. BUZZの日本導入を後押ししてみてはいかがだろう。
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