■3クラス全セッション合計の転倒回数は722回
スペイン・ヘレスでWSBK(スーパーバイク世界選手権)のプレシーズンテストが始まり、いよいよ2021年シーズンに向かって動き始めたバイクレース界。しかし、準備万端で臨むも思わぬ形でその年の行方が決まってしまうこともある。
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2020年のMotoGPクラスのタイトル争いの流れが、マルク・マルケスのハイサイドによる長期欠場に大きく左右されたことは記憶に新しい。
過去を振り返ってもウェイン・レイニーの選手生命を奪った悲劇的なクラッシュによって実質的にタイトル争いが決着し、ケビン・シュワンツが最初で最後の500cc王者に輝いた1993年。ランキングトップに立って最終戦を迎えたバレンティーノ・ロッシが転倒してホンダのニッキー・ヘイデンにタイトルを奪われ、最高峰クラス6連覇を逃した2006年と深く印象に残るシーズンも多い。
そこで今回は、新たなシーズンも迎える前に激闘の2020年を転倒回数の視点から振り返ってみよう。
荒れた展開が多かった2020年だが、実は転倒回数自体は3クラスの全セッション合わせて722回とここ10年で最も少ない。なんということはない、レース数が2019年の19、2018年の18から14(MotoGPクラスのみ。Moto2及びMoto3は15レース)に減ったためで、MotoGPクラスの1レース平均の転倒回数は2019年の11.6回から12.8回へと増加している。同じくMoto2クラスも18.3回から19.4回と増えているが、Moto3クラスのみ21.3回から16.6回へと大幅に減少。2020年以来最低の数値だという。
セッション別では、決勝レースが最多の222回を記録し、全体の30.7%を占めた。内訳は、MotoGPクラスが56回、Moto2クラスが90回、Moto3クラスが76回となっている。
■クラッシュキングは2年連続でヨハン・ザルコ
ライダー別に見ると、MotoGPクラスではヨハン・ザルコが15回で2年連続のトップ。第5戦オーストリアGP決勝レースでのフランコ・モルビデリとの高速クラッシュが印象深い。放り出された2台のマシンが前方を走るバレンティーノ・ロッシとマーベリック・ビニャーレスをかすめ、思わず息をのんだ方も多いに違いない。モルビデリはレース後に「ザルコは半分人殺しみたいなものだ」と激しく非難。また、第9戦カタルニアGPの決勝では同じドゥカティ陣営のエース、アンドレア・ドヴィツィオーゾを巻き込み、ひんしゅくを買った。
フロントに依存するスタイルのライダーに転倒が多い傾向が見られるが、ザルコの場合、他のライダーとの間合いが近く、それもクラッシュが多い原因のひとつだろう。だが、そのアグレッシブな姿勢が評価されたのか、2021年は同じドゥカティ勢の中で1ランク昇格し、プラマック・レーシングで走ることになった。
2位はアレックス・マルケスの14回。兄マルクも転倒回数が多いライダーだが、その多くはフリー走行で限界まで攻めた結果で、決勝は得意の“スーパーセーブ”でしのぐことが多い。乗れてきたシーズン終盤の第12戦テルエルGP、第13戦ヨーロッパGPでは転倒したものの、それ以外のレースは完走しており、兄譲りの学習能力を発揮したルーキーイヤーだったといえる。
3位はアレイシ・エスパルガロの12回。コーナーへの突っ込みを重視する自身のライディングスタイルがもちろん一番の要因だが、「毎ラップ、どのコーナーでも限界までプッシュして、リスクを取っていくことが必要なんだ」と語る通り、走らせるアプリリアのRS-GPが他のメーカーに比べて競争力が劣ることも原因のひとつだと考えられる。アンドレア・イアンノーネの代役で計11レースに出走したブラッドリー・スミスも10回転倒を喫しており、このあたりからもマシンの気難しさがうかがえる。
6回と依然として少ない部類ではあるが、ロッシの場合、シーズン半ばでの3戦連続リタイアが思い起こされる。エミリア・ロマーニャGPはスタートしてから2周目、カタルニアGPは2位走行中、フランスGPはオープニングラップといずれもレースの流れの左右する場面での転倒だけに絶対的な勝負強さを誇った“THE DOCTOR”に起こった異変の理由が気になることろではある。
チャンピオンに輝いたジョアン・ミルとランキング2位のモルビデリは共に5回と少なめだ。新型コロナウイルスの影響を受け、例年に比べてレース数が減らされたため、転倒回数の少なさが、よりチャンピオンシップに大きな影響を与えたといえるのかもしれない。
2021年、サバティカル休暇を取ることになりそうなドヴィツィオーゾは巻き込まれ事故もあった中でさすがの4回。この安定感が、2019年までの3年連続ランキング2位、新しいミシュランのリアタイヤとの相性に苦しみ、好不調の波が大きかった2020年のドゥカティ陣営トップとなるランキング4位につながっているのは確かだろう。スティリアGPでのブレーキトラブルによる炎上クラッシュが目に浮かぶが、マーベリック・ビニャーレスも4回で並んでいる。
ほぼ全戦に出場したライダーで最少なのはダニーロ・ペトルッチの2回。現在30歳のイタリアンは、新シーズンをKTM・テック3で走る。
なお、Moto2クラスではストップ&ゴー・レーシング・チームのカスマ・ダニエルが20回、Moto3クラスではコマリング・グレシーニ・Moto3のガブリエル・ロドリゴが18回でそれぞれ最多を記録した。
■雨に見舞われたル・マン・サーキットが最多
サーキット別に見ると、雨に見舞われたル・マン・ブガッティ・サーキット(フランスGP)が100回で最も多い。路面のμ(ミュー)が低く、グリップがあまり良くないため、2019年も90回、2018年も109回と毎年転倒するライダーが続出する。初のMotoGP開催となったアルガルベ・インターナショナル・サーキット(ポルトガルGP)は32回で下から2番目。最も少なかったのは、MotoGPクラスのみが開催されなかったロサイル・インターナショナル・サーキット(カタールGP)となっている。
【MotoGPクラス 転倒回数ランキング(所属チームは2020年)】15回:ヨハン・ザルコ(エスポンソラマ・レーシング・ドゥカティ)14回:アレックス・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)12回:アレイシ・エスパルガロ(アプリリア・レーシング・チーム・グレシーニ)11回:イケル・レクオーナ(レッドブル・KTM・テック3)10回:ポル・エスパルガロ(レッドブル・KTM・ファクトリー・レーシング)10回:ブラッド・ビンダー(レッドブル・KTM・ファクトリー・レーシング)10回:ブラッドリー・スミス(アプリリア・レーシング・チーム・グレシーニ)※代役参戦9回:中上貴晶(LCRホンダ・出光)8回:アレックス・リンス(チーム・スズキ・エクスター)8回:ファビオ・クアルタラロ(ペトロナス・ヤマハ・セパン・レーシング)8回:ジャック・ミラー(プラマック・レーシング・ドゥカティ)8回:フランチェスコ・バニャイア(プラマック・レーシング・ドゥカティ)8回:ミゲール・オリベイラ(レッドブル・KTM・テック3)7回:ステファン・ブラドル(レプソル・ホンダ・チーム)※代役参戦7回:ティト・ラバト(エスポンソラマ・レーシング・ドゥカティ)6回:バレンティーノ・ロッシ(モンスターエナジー・ヤマハ・MotoGP)5回:ジョアン・ミル(チーム・スズキ・エクスター)5回:フランコ・モルビデリ(ペトロナス・ヤマハ・セパン・レーシング)5回:カル・クラッチロー(LCRホンダ・カストロール)4回:アンドレア・ドヴィツィオーゾ(ミッション・ウィノウ・ドゥカティ)4回:マーベリック・ビニャーレス(モンスターエナジー・ヤマハ・MotoGP)2回:ダニーロ・ペトルッチ(ミッション・ウィノウ・ドゥカティ)2回:マルク・マルケス(レプソル・ホンダ・チーム)2回:ロレンツォ・サバドーリ(アプリリア・レーシング・チーム・グレシーニ)※代役参戦0回:ミケーレ・ピロ(プラマック・レーシング・ドゥカティ)※代役参戦0回:ミカ・カリオ(レッドブル・KTM・テック3)※代役参戦
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安全運転だけではレースにならないのを承知の上で、レーシングライダーの皆さん、お気をつけて。