Moto2クラス、ラストレースは悔しい4位
2024年シーズンのMotoGP最終戦、ソリダリティGP・オブ・バルセロナは、小椋藍選手(MTヘルメット – MSI)にとって、Moto2クラスでの最後のレースでした。2025年からは最高峰クラスであるMotoGPクラスにステップアップすることが決まっているからです。
【画像】2024年シーズンのMoto2クラス最終戦に臨む小椋藍選手を画像で見る(9枚)
「表彰台で終わりたいですね」
レースウイークの金曜日、最後のレースに向けて、小椋選手はそう語っていました。
とはいえ、そう簡単にはいかないのがレースの難しさです。日曜日の決勝レースを5番手からスタートした小椋選手は、レース序盤から3番手を走行していました。しかし、その後ろにはディオゴ・モレイラ選手(イタルトランス・レーシング・チーム)がぴたりとつけています。
小椋選手は今季、何度かモレイラ選手とポジション争いを繰り広げてきました。これまでのモレイラ選手なら、終盤に引き離すことができたはずです。しかし今回はモレイラ選手の勢いが良く、最後まで引き離すことができませんでした。小椋選手は最終ラップにモレイラ選手と表彰台争いの激しい攻防を繰り広げ、最終コーナーでモレイラ選手にかわされて、4位でゴールしたのです。
「最終ラップの1コーナー(でかわされたときも)、けっこうびっくりしました。4コーナーでまた抜き返せていれば自分が有利な最終ラップだったんですけど、3コーナーで滑ってしまって、4コーナーで抜けなかった。抜く場所もなんとなく不利な感じで……。今日のバトルはだめでしたね。彼が上手でした。すごく。単純に、上回られちゃったなって感じです」
おそらく、悔しさが勝っていたのでしょう。さばさばとした口調に、ほのかにぴりぴりとした緊張感が混じっていました。
クルーチーフやメカニックとの別れ……しかし
この日のレースは、小椋選手にとってMoto2クラスでの、そしてMTヘルメット – MSIでの最後のレースでもありました。そしてまた、クルーチーフのノーマン・ランクさん、メカニックたちとも最後のレースでした。
ランクさんは、小椋選手がFIM CEVレプソルMoto3ジュニア世界選手権に参戦を始めた2017年から、8シーズンにわたり組んできたパートナーで、2人のメカニックは、ホンダ・チームアジア時代から共に仕事をしてきました。世界チャンピオンを獲得するために、2024年は彼らも小椋藍選手と共にMTヘルメット – MSIに移籍してきました。
小椋選手は2025年シーズンから、MotoGPクラスのトラックハウス・レーシングに所属します。クルーチーフも含めて、今季、ミゲール・オリベイラ選手を担当していたエンジニアやメカニックが、小椋選手を担当することになります。
ピットに戻って来てメカニックたちとハグを交わし、ヘルメットのシールドを上げた小椋選手は、笑顔でした。と言っても、レース後は4位に終わった悔しさでいっぱいだったのだそうです。
「レース直後はものすごく悔しかったんですけど、(チームが)あんな感じで迎え入れてくれたので、そこで“あ、そうだ。チームのためのレースでもあったんだな”って」
「良いシーズンだったな」などと声をかけられる中、ランクさんだけは少し違ったそうで、「ノーマンは僕に似ているところがあるので、今日のレースの話しかしなかったですね」と言うのです。
長く共に戦ったパートナーとの別れに、涙がポロリ……かと思いきや、「ないです、ないです!」と、小椋選手は笑って否定しました。「全く会えなくなるわけじゃないから」と。
しかし小椋選手にとって、ランクさんが特別な存在であることは確かです。それは世界チャンピオンを獲るために、ランクさんと共に移籍することを望んだことからも窺えます。
ライダーにとって、クルーチーフとはとても大きな存在です。ライダーを支え、落ち着かせ、理解し、時には共に成長する。二人三脚で歩む存在なのです。いくらパドックで会えるとはいえ、もうピットで隣にはいません。それは小椋選手にとって、大きいのではないでしょうか?
そう尋ねると、「もちろん、いないのは寂しいです。来年もその可能性があるなら、僕は彼を選びましたけど、そうではなかった。残念ですけど、そういうものですから」と答えます。そして、こう続けたのです。
「……なんとなく、たぶん……、いつかまた一緒にやるんじゃないかと。なんとなく彼もそう感じていて、僕もそうしたいなと思っています。それができれば、一番良いかな、と思います」
もちろん、未来のことは誰にもわかりません。けれど、もし「それ」が実現したら……。ひとつ楽しみな未来図が増えることになりました。
Moto2クラス参戦の、4シーズンを振り返る
小椋選手は、2021年シーズンからMoto2クラスを戦った4シーズンを、こう振り返ります。
「難しかったですね……」と。
「去年(2023年)にこういう結果が出ていれば、気持ち良かったと思うんです。ものすごく。今まではどの選手権、カテゴリーでも2年でした。今まで4年間もいたクラスはないんです。自分がそのカテゴリーについて納得するのに、倍の年数がかかったということなんです。それだけ難しかったということではあります」
しかし同時に、「個人的に僕はMoto2クラスが好きなんだと思います」とも言います。その理由のひとつは「ライダー次第だと思うから」なのだそうです。
Moto2クラスはトライアンフのワンメイクエンジンを、カレックスやボスコスクーロというシャシーコンストラクターのシャシーに搭載したマシンで争われます。タイヤも現在はピレリのワンメイクです。ほとんどワンメイクレースと言ってよく、その分、ライダーの実力(あるいはチーム力も)が問われます。
「MotoGPクラスより組織がきっちりし過ぎていないし、こじんまりしたチームで、自分のスタッフ4人くらいと頑張る感じです。そういうのが好きなんだと思います」
世界チャンピオンを獲得したにもかかわらず、自分にプラスアルファのない評価の目を向けるのは小椋選手らしいところです。そんな小椋選手に、「チャンピオンを獲得する前とその後、見える景色は変わりましたか?」と尋ねました。
「そんなことはないですね……。今日も普通に緊張しましたし、僕としてはいつも通りのレースをしたと思っています。何かが変わったという感じはないですね」
小椋選手らしい答えでした。
この「小椋選手らしい」という表現は、小椋選手を取材すればするほど、重ねて使ってしまいます。その表現を使いたくなるほど、小椋選手は「小椋藍らしさ」を崩すことがないのです。それは世界チャンピオンに輝いたシーズンの最終戦でさえも、です。
小椋選手は、自分のスタイルを貫き続けています。きっと、MotoGPクラスでもその「小椋藍らしい」姿勢で前進していくのでしょう。
■Moto2クラスとは……
Moto2クラスは、トライアンフ「ストリートトリプルRS」の排気量765ccの3気筒エンジンをベースに開発されたオフィシャルエンジンと、シャシーコンストラクターが製作したオリジナルシャシーを組み合わせたマシンによって争われる。タイヤは2024年よりピレリのワンメイクとなった。クラスとしてはMotoGPクラスとMoto3クラスの中間に位置する。
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