小柄ながら正真正銘の4×4
今回の舞台はアバランチ・アドベンチャー。オフロードセンターだ。わたしは今回、オフローダーの代名詞であるレンジローバーを持って来た。
「君はホットヨガにでも行く途中かな?」
「キツい言い方だな。君こそクルマから降りることを想定してないんじゃないか? スズキ・ジムニーを見くびってはいけないよ。あのクルマをなめてかかると痛い目を見るからね」
「じゃああれが本当のオフローダーだって?」
「そうだよ。おとなしい見た目だけど、中身は正真正銘の4×4だからね」
「本当かな。まあ試してみようじゃないか。僕が『本当の』オフローダーで先導するよ。ついてこれるかな?」
「わかった」
では始めよう。すぐに決着はつくはずだ。ちょっとぬかるんだ所を走ってやれば、アイツはスタックするに決まっている。僕はオフロードに慣れていないしそのコツも特に知らないが、親指をステアリングの内側に入れてはいけないことは知っている。
非常に洗練されたクルマだ。すてきなアームチェアで、あらゆるものがレザーかウッドで仕上げられている。カントリーパブにいるようで、暖炉があれば最高だ。ステアリングヒーターがそれに近いだろう。
「ホットヨガね。ひどい話だ」
20年前の発売ながら今でもクール
スズキ・ジムニーは1998年に発売され、現在市販されている最古のクルマだ。新型がまもなく発売されるが、これが最終型といったところだろう。古さが少し心配だが、今でもクールだ。
今でもフレッシュに見えると言いたい所だが、インテリアはそうでもない。でも外観はまだまだ新鮮だ。これは、形態は機能に従うという理念に則っているからだろう。
オーバーハングは非常に短く、アプローチアングルは34度、ディパーチャーアングルは46度。素晴らしい数値だ。ブレークオーバーアングルは31度。これもなかなかだろう。
ランドローバーの一員として、このレンジローバーにも優秀なオフロード機能が備わる。テレイン・レスポンスという機能により、草地やグラベルや雪などあらゆる路面に対応する。ぬかるんだわだちや、砂地や岩場なども選択できる。でもわたしはオートモードにしてみる。地形を自動的に計算し、最適なモードを選んでくれる。
おそらくダニエルはジムニーの実力をわかっていない。渡川能力こそランドローバーやレンジローバーに負けるが、あちらは12万ポンド(1525万円)。マニュアル・ギアボックスに、1.3Lエンジンを組み合わせている。
4×4はある意味でスポーツカーのようなもので、ひとつのことに特化している。狭いサーキットを速く走れたり、直線を超高速で走れたりするのだ。4×4にもそれぞれの得意分野がある。だがあのクルマはなんでもこなせるはずだ。なぜならレンジローバーのオプションの価格だけで、ジムニーが買えるからである。
オプション込みの価格は、12万2000ポンド(1550万円)。さて、今のところは、小さなスズキに乗ったプライアーは付いて来ている。ミラーに映るその姿は、非常にキュートだ。
高性能なシステム満載のレンジローバー
デフロックこそついていないようだが、4WDのローレシオモードを備えている。これによりギア比が非常に低くなり、ヒルディセント・コントロールは必要ない。これは1速で坂を下ることができる。
今は非常に急な斜面を登り切るところだ。何も見えない、空だけだ。
ブレークオーバーアングルはジムニーに劣る。レンジローバーの底面の壊れやすそうな高価な部品がいくつも見えた。
極端に急な斜面であった。マットが視界から消えたが、また坂の頂点にスズキとともに現れた。
田舎に行けばこのクルマをよく目にする。走破性は高く急斜面も登れ、先ほどのような急な突起も乗り越えられる。小さいのに良くできているクールなクルマだ。今のところレンジローバーについていけている。これは自信が持てる。
「マットここまではついて来れたようだね。ズンバ教室は何時からだい? 急いだ方が良いか?」
「そうだな。いったん家に帰ってヨガパンツに着替えないと。2時くらいに終われたらうれしいかな」
彼は何もわかっていないようだ。
これはわたし流のオフロード走行だ。高級かつ快適で、苦労知らずだ。わたしは何もしなくてもクルマが勝手に走破してくれ、このレンジローバーはまさに一級品のオフローダーだ。必要なハードウエアは揃っていて車高も調整可能である。
4x4iとよばれるシステムのオフロードインフォメーションによりあらゆる情報が手に入る。各輪のアーティキュレーションやステアリングの切れ角、デフロックの状態、それに斜面についても前後および横方向の傾斜角がわかる。非常に優秀なシステムだ。スズキにはどれも装備されていないだろう。
「大したことないコースだな。もっと過酷なのを期待していたよ」
「ご心配なく。まだ一周目だよ。次はもう少し厳しいコースにしよう」
ケイマン1台分以上の重量差
この斜面では少し滑った。これはレンジローバーにも簡単ではない。マットはここを乗り切れるのだろうか。まあ無理だろう。
ダンはぬかるんだ斜面を登って行った。わたしも同じことをしてみよう。まずその前に下りだ。彼はヒルディセント・コントロールがあるが、わたしは自分の足でコントロールする。まず第一に旋回は簡単、第二にぬかるんだ路面も簡単、そして第三に急斜面も楽勝だ。
このクルマはわずか1040kgと、非常に軽い。ダンが泥の中でもがく間、4000ポンド(51万円)のホイールはトラクションを求めて激しく空転している。
「マット、あの坂を登れるなんておどろいたよ。レンジローバーはかなり滑ったからねもっと滑りやすいところを探すよ」
「望むところだ」
忌々しいことに、彼は嬉しそうである。
「きっと君のクルマは2.5トンか2.6トンあるだろう?」
ダンは横滑りする2.6トンのクルマと格闘している。おや、バックしてくるようだ。ギブアップだろうか。
「諦めたのかい?」
まさかそんなことはないだろう。
「このクルマは2.6トンだよ。君のより少しだけ重いだろう?」
「そんな大差じゃないけどね。ポルシェ・ケイマン1台分くらいかな。いやもっとか。1600kgくらいの差だよ」
「それはすごい違いだ。2倍以上だね。驚いたと言わざるを得ないよ。どうやってぬかるみを通過したんだ?」
両車ともに一度はスタック
今のところ小さなスズキは、大きなレンジローバーに食らいついてきている。これは驚きではないだろうか。では最後に湿った泥まみれのところでスズキがスタックする様を見てやろうではないか。ここはかなりぬかるんでいる。
「スタックするなよスズキ!そんな予定はないからな!」
行けるとは思うが、大丈夫だろうか。ひどいぬかるみだ。いったんここで止まって、ダンの挑戦を見守ろう
ぬかるみを走りたくはない。レンジローバーをスタックさせてしまった。
「マット。スタックしてしまったみたいだ」
「そのまま来た通りにバックできるかい?」
「大丈夫。道を譲るから行ってみてくれ」
「行け行け!止まるなよ!」
「どうした? もう一回行くのか?」
「もう少し粘れば行けそうだ。見込みはあるよ」
幸いにも1回目の挑戦では、わたしと同様スタックした。もういちど試すようだ。
これは筋肉をストレッチするようなものだ。1回目はやや硬いが、2回目は…
なんと彼はクリアした。
「お見事。超えられたね」
「予想以上にぞくぞくしたよ」
オンロードタイヤで脅威の走破性
すごい。このクルマが気に入った。ご覧のみなさんも気に入ったことだろう。素晴らしいクルマだ。新型が登場するが、このキャラクターを引き継ぎ無骨でどこにでも行けるクルマになっているだろう。
「もう一度挑戦するかい?」
「もちろんさ。君が2回で突破したんだから、僕ももう一度やって決着をつけようじゃないか」
「そうだね。フェアな条件だ」
もう少し速く勢いをつけよう。しかしまたスタックだ。
「その小さいクルマは非常に驚異的だよ」
「すごいクルマだろう?」
「もちろんどっちもすごいんだけど、このクルマはさらに上を行ってるよ」
「でもそちらは大きな高級車だし、それほど驚くことではないね」
「これは大きくて高いクルマで、賢い技術を満載している。でも今日のテストではすごく不利な要素があるんだ」
「それはなんだい?」
「僕自身だよ。オフロードはまったく不慣れなんだ」
「でも逆に言えば、ほとんど経験のないひとでもふらっと来てハンドルを握りアクセルを踏むだけで大抵の場所は走破できるんだ。しかも12万ポンド(1525万円)の
借り物のクルマじゃなければ、心配することなくまだまだ行けただろうね」
「オフロード用でない公道用のタイヤだし」
「それも驚きだよね。このタイヤであんなにぬかるんだわだちも走れるんだ。非常に良い成績を収めてくれたよ。この非常にクールなクルマの最後のはなむけとなる良い結果だ。今まで少し過小評価されてきたからね」
「小さいのに良くできたクルマだよ。立派なオフローダーだ」
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