美しいデザインが特徴なプジョー、シトロエン、DSのクロスオーバー3台。そのどれもがブランドそれぞれの色をさらに濃く、表現し、個性をアピールしている。今回はそんな3台をじっくりと乗り比べ、フレンチクロスオーバーの世界観を味わう。(Motor Magazine2023年10月号より)
仕立てはド直球のプジョーテイストだった
フランス車の最新のトレンドはクロスオーバーだと言ったら、それはフランス車だけじゃなくクルマ全体の話だろうと言われるかもしれない。しかしフランスから、これほど多くのクロスオーバーと括るに相応しいモデルが登場してくると想像した人は、そうはいないのではないだろうか。
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しかも、これらが案外フランス車濃度高めだから面白い。そもそもクルマをとことん使い倒す彼の地の流儀からすれば、セダンと快適性とワゴンの実用性に加えて、クーペのデザイン性やSUVの車高の高さのメリットが掛け合わされたクルマは、あるいは理想の実現かもしれない。
いや、そもそも昔から実用的なハッチバックを好み、ラージサイズのサルーンにもリアゲートを設けてきたのがフランス車である。きっと彼らにしてみれば、昔からずっとコレですが何か? というところなのだ。要するに単にブームに乗ってきたわけじゃないよと思わせ、想像力を喚起する最新のフレンチクロスオーバー。その最新作がプジョー408である。
仕立て方はド直球だ。フォルムはクーペライクで、独立したトランクではなくリアゲートを持つ。大径タイヤが組み合わされて車高が上げられた姿は、まさしく今風。しかしながら、それでちゃんとプジョーらしいのが、さすがだ。
薄型LEDのヘッドライトにグリルレスのマスクは新しいが、牙のようなデイタイムライトがブランドのアイデンティティを主張しているし、全体にエッジが効かされた面構成も、やはりプジョーの最新モード。どこから眺めても見飽きることがない。
パッケージングにも注目だ。全長4700×全幅1850×全高1500mmというサイズは取り回しに優れるだけでなく多くの立体駐車場に入庫可能で、まるで日本のために作ってくれたかのよう。これは嬉しいポイントだ。
室内を見ると、小径ステアリングホイールの上からメーターを見るかたちになるiコックピットを採用した前席は、ドライビングポジションを高めにした方がしっくり来る。軽快なドライブ感覚に繋がる適度な低さと、見晴らしが絶妙に両立されて、ドライバーズカーとしてとても心地よい。
後席もヒップポイントは高め。その代わり頭部周辺には余裕はないし、シート座面も小さめではあるが、足元は広いし収まってしまうと案外快適に過ごせる。そして荷室は、プラグインハイブリッドの試乗車では容量471~1545Lとなる。60対40分割可倒式の後席背もたれは後方からレバーで倒すことも可能。リアゲートも電動で、使い勝手は上々だ。
素晴らしい乗り心地と小気味良いフットワーク
そんな408は、走りもまさにクロスオーバーしていた。ベタな言い方だが、スポーティさと快適性の高次元での融合である。プラグインハイブリッドだけに、普段の走行は電気モーターだけで行われるが、それでも出力は100ps、300Nm あるだけに動力性能は余裕たっぷり。一方、エンジンが始動しても室内はさほどうるさくならないのは、高い遮音性のおかげだ。
エンジンと電気モーターを組み合わせたハイブリッドモードの走りはパンチがあり、かつスムーズ。スポーツモードのトルクのツキ、加速の伸びも申し分なく、1.7トンを超える車重を意識させることはない。正直、ここまで走りを楽しめるのは意外だった。
小径ステアリングホイールのおかげもありフットワークは小気味良いが、乗り心地も素晴らしい。実は3車とも履いていた205/55R19という細身大径のミシュランeプライマシーの縦バネのしなやかさに加えて、特別な仕掛けをもたないはずのサスペンションがしっとりとかつコシのある動きでクルマを支えてくれる。地上高の余裕をストロークに活かしていて懐も深い。まさに絶賛の言葉しか出てこない走りである。
大いに感心したところで、今度はシトロエンC5Xに乗り換える。こちらも同様にプラグインハイブリッドモデルだ。C5Xと4088はハードウェアの多くの部分を共有している。ホイールベースは2車共通の2790mm。パワートレーンも基本、一緒である。
セダンよりも地上高が上げられたハッチバックというパッケージングも似通っているが、C5Xは全長が105mm、全幅が15mm大 きく、全高が10mm低いことから、ボディはより大きく、そして天地に薄く見える。独特のデザインと相まって、408の快活な印象とは違った落ち着き感が巧みに演出されているのだ。
先進感たっぷりの408の後だとなおのこと、インテリアも落ち着いた雰囲気に映る。ダブルシェブロンのモチーフが各部に散りばめられているなど細部まで仕立ては丁寧で、上質な空間である。そしてシート。表層近くに柔らかなクッションを、ベース部に高密度ウレタンを配したアドバンストコンフォートシートは、その包まれ感で魅了する。後席の設計は408と同じような雰囲気で、やはりルーフ高がもう少し欲しいが、特徴的な外観と引き換えと考えれば、納得はできるところだ。
荷室は容量485~1580L 。開口部の段差が小さく、フロアに傷つき防止用のレールが付くなど、実際にあれこれ積み込むことを真剣に考えている。分割可倒式のシートバックや電動リアゲートなどは、こちらも標準装備だ。
パワートレーンは同じでもその味付けは異なる
しかし、何より408と大きく違っているのはシャシである。C5XのPHEVにはアドバンスドコンフォートアクティブサスペンションが標準装備される。これはC5Xが使うダンパー・イン・ダンパーのシステムであるPHC(プログレッシブハイドローリッククッション)に電子制御をプラスしたものである。
とくに低速域での、路面のザラつき、うねりをヌルッとクタッと柔らかく受け止める様は、まさにその真骨頂。速度が高まると相応に減衰が高まってくるが、姿勢変化を抑え込むのではなく、むしろふんわりとノーズを上下に動かしながら、ゆったりと進んでいく。
無論、イメージはかつての「ハイドロ」に違いないが、個人的にはもう少しコシがあった方がいい気もする。これだとちょっと酔いそうというのもあるが、BXオーナーの私としては、昔のハイドロは単に柔らかいだけじゃなかったぞと言いたくもなるのだ。
パワートレーンは408と同じなのに、こちらは快活というより余裕と感じるのが面白い。モーターの豊かなトルクによって、ゆったりとしていながらも力強い走りが楽しめるし、遮音性はこちらも上々。シトロエンは元来、シャシファーストのクルマだけに、それだけでもう十分以上である。
内外装ともに唯一無二。DSの世界観を堪能する
最後はDS4 。他の2台とは趣が異なるが、こちらは528kmドアハッチバックと大径タイヤを履くSUVとの融合であり、またコンパクトとラグジュアリーのフレンチ流の掛け合わせとも表現できる。
何しろこのクルマ、とりわけバックミラーに映る姿がとても印象的である。良い意味でサイズ感が薄く、一瞬、大きなサイズのクルマが迫ってきたのかと思わせるのだ。これはインパクトが大きい。
インテリアもなかなかに荘厳だ。ドアトリムまで回り込んだダッシュボードのデザインは囲まれ感が強いが、まさにそれこそが狙いなのだろう。いちいち凝ったデザインのスイッチ類とも相まって、濃密な空間が描き出されている。
ステアリングホイールは3台の中で唯一(!)、普通に丸く、実はもっともオーソドックス。インフォテインメントシステムも大枠では同じような機能を持つが、DS4 は日本語入力も可能なタッチパッドを備えるのが特徴である。
とくに背中のクッションの肉厚感が心地良いのがフロントシート。リアシートは足元に余裕がなく、寛げる空間とは言い難いが、このクルマは前席2人が主役だろうと考えれば、とくに不満ではない。同様に荷室も、広さの直接比較はできない。これまた電動のリアゲートを開けると開口部段差はやや大きいものの、荷室自体は深くて容量も十分と言っていい。
このクルマも、他の2台とはまた別の凝ったシャシを持つ。上級グレードのリヴォリに備わるのは、電子制御ダンパーに車体前方を監視する赤外線カメラを組み合わせたアクティブスキャンサスペンション。要は路面状況に応じて減衰力を可変させるのである。
他の2台よりホイールベースが短いせいもあってか、そこまでふわふわと柔らかい印象ではない。いや、むしろ硬めと言ってもいいのだが、相対的にダンピングは弱め。動作状況は掴みにくいが、普段は減衰力を高めにしておいて、必要な時だけ緩めるという方向なのかもしれない。
試乗車は1.5L 直列4気筒ディーゼルエンジンを積むBlueHDi。十分なトルクを発生し、8速ATとの好マッチングもあり走りは快活だが、PHEVに乗った後ではさすがに騒音、振動を意識させられるのは事実。クルマのキャラクターには、こちらもPHEVが一番合っていそうだ。
独創性に満ちた3台がクルマ選びを楽しくさせる
冒頭でクロスオーバーが今のトレンドだと言い切ったが、実際にはクロスオーバーに定義などなく、むしろどんな要素を、どんな割合で掛け合わせるのかは、車種ごと、ブランドごとに変わってくる。実際に今回の3台も、同じステランティスのブランドであり、ハードウェアに多くの共通点を持っているにもかかわらず、デザインも使い勝手も走りも、それぞれ独自の世界が貫かれていた。
感心させられたのは全方位好バランスの408である。これまでプジョーに興味がなかったという人も、あるいは濃いめのファンも、納得させる仕上がりはさすがと言える。
C5XとDS4は、敢えてそうしたバランスの良さは追わず、掛け合わせ方に濃淡をつけることでそれぞれの個性をアピールしている。これもまた、クロスオーバー時代のクルマの面白さである。
トレンドとは言っても潮流はひとつではなく、ブランドそれぞれの色をさらに色濃く発揮できる。独創性こそをモットーとするフレンチブランドがクロスオーバーに一斉に飛びついたのは、まさにそんな面白さゆえのことに違いない。そして我々ユーザーにとってそれは、クルマ選びの楽しさを俄然、増幅させることに繋がっているのだ。(文:島下泰久/写真:井上雅行)
プジョー 408 GT ハイブリッド主要諸元
●全長×全幅×全高:4700×1850×1500mm
●ホイールベース:2790mm
●車両重量:1740kg
●エンジン:直4DOHCターボ+モーター
●総排気量:1598cc
●最高出力:132kW(180ps)/6000pm
●最大トルク:250Nm/17500rpm
●モーター種類:交流同期電動機
●モーター最高出力:81kW(110ps)/2500rpm
●モーター最大トルク:320Nm/500-2500rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:FF
●燃料・タンク容量:プレミアム・40L
●WLTCモード燃費:17.1km/L
●タイヤサイズ:205/55R19
●車両価格(税込):629万円
シトロエン C5 X プラグインハイブリッド主要諸元
●全長×全幅×全高:4805×1865×1490mm
●ホイールベース:2785mm
●車両重量:1790kg
●エンジン:直4DOHCターボ+モーター
●総排気量:1598cc
●最高出力:132kW(180ps)/6000pm
●最大トルク:250Nm/1750rpm
●モーター種類:交流同期電動機
●モーター最高出力:81kW(110ps)/2500rpm
●モーター最大トルク:320Nm/500-2500rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:FF
●燃料・タンク容量:プレミアム・40L
●WLTCモード燃費:17.3km/L
●タイヤサイズ:205/55R19
●車両価格(税込):653万8000円
DS DS4 リヴォリ ブルーHDi主要諸元
●全長×全幅×全高:4415×1830×1495mm
●ホイールベース:2680mm
●車両重量:1470kg
●エンジン:直4DOHCディーゼルターボ
●総排気量:1498cc
●最高出力:96kW(130ps)/3750pm
●最大トルク:300Nm/1750rpm
●トランスミッション:8速AT
●駆動方式:FF
●燃料・タンク容量:軽油・53L
●WLTCモード燃費:21.2km/L
●タイヤサイズ:205/55R19
●車両価格(税込):535万5000円
[ アルバム : プジョー 408 GT ハイブリッド × シトロエン C5 X プラグインハイブリッド × DS DS4 リヴォリ ブルーHDi はオリジナルサイトでご覧ください ]
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みんなのコメント
道を外しているけど何かカッコ良い
けど機械として見た時にも自由奔放なのはちょっと頂けない
まあ愛嬌と言えばそうなんだろうけど独車や日本車のような信頼性は欠如