独自のタブシャシーにカーボンボディ
1988年に、アルファ・ロメオ164のプロカーというレーシングカーが作られた。見た目は4ドアサルーンの164だが、取り外せる専用のボディカウルをまとった、V型10気筒をミドシップしたまったく別物のレーサーだった。
このルーフSCRも、似たようなクルマだとお考えいただければわかりやすい。ポルシェ911にしか見えない美しいシルエットを湛えているが、共通している部分は殆どない。
基礎構造をなすのは、マクラーレンにも似たカーボン・コンポジット素材によるタブシャシー。ルーフ社独自のもので、重さは88kgしかないという。
サスペンションは、プッシュロッド構造のダブルウイッシュボーン。一番近いポルシェを探すと、唯一、1988年にル・マン優勝を果たした911 GT1が存在するだけだ。
大人受けしそうなダックテール・スポイラーを備えた、964や993ライクな低いボディも、ルーフ社オリジナルのカーボンファイバー製。シュツットガルトで作られた911と、共有するパネルは一切ない。
ルーフ社がこれまで手掛けてきた独創的なチューニング・ポルシェを、ご存じの方も多いと思う。だがSCRは、従来のルーフとはまったく異なるモデルだといえる。
このSCRは、ルーフ社の代表を務めるアロイス・ルーフ・ジュニア氏が追い求める、究極のリアエンジン・パフォーマンスカーが体現されたモデル。ドイツ南部、ファッフェンハウゼンの工場で製造され、1台のお値段、実に77万ポンド(約1億1935万円)なり。
3.6Lメツガー・ユニットを源流に510ps
間違いなく高価なクルマだが、施された技術力も不足なく大きい。シンガー社がレストモッドする964ベースのDLSでは、100万ポンド(約1億5500万円)を超える値段が付いているから、この手の市場では法外な金額とはいえないだろう。
惜しみない情熱が注ぎ込まれたSCRで、最もポルシェ911に近いといえる要素の1つが、8700rpmまで回る水平対向6気筒エンジン。ブロックは社内で鋳造されているものの、設計自体は997 GT3用の3.6Lメツガー・ユニットを源流としている。
度重なる試行錯誤を経て、最高出力とエンジンとしての個性、費用対効果などのバランスを考慮し、排気量は4.0Lがベストだと判断されたという。増やされた容積に対応するため、アグレッシブなカムシャフトと、レース仕様のECUも採用されている。
もちろん、すべてはクルマのコストに反映はする。だが、日常的な乗りやすさが犠牲になってはいない。
オーバースクエアな寸法のシリンダーが与えられたブロックを覆うヘッドは、ルーフ社のオリジナル。チタン製のコンロッドや鍛造ピストンなども同様だ。そこへ、ポルシェ997 RSR用のクランクシャフトが組み合わされているという。
その結果、得られた最高出力は510ps/8270rpm。パワフルだが、2022年では驚くほどの数字ではないかもしれない。最新のBMW M3 コンペティションも、同等の馬力を発揮している。
パワーウエイトレシオは911 GT3 RS以上
ただし、ターボが一般化した現在にあって、ルーフSCRのエンジンは自然吸気。過給器に頼ることなく、水平対向6気筒が直に生み出すパワーという点で大きく異る。しかも、車重はガソリンを積んだ状態で、1250kgしかない。
パワーウエイトレシオに換算すれば、M3 コンペティションはもちろん、911 GT3 RSをも凌駕する。ちなみに伝説のCTR、通称イエローバードをオマージュしたSCRのツインターボ版は、軽く700馬力を超えるそうだ。
エンジンのパワーは、ZF社がルーフ社のために用意したシーケンシャル6速MTと、機械式リミテッドスリップ・デフを介して、センターロック・ホイールへ伝えられる。タイヤはグッドイヤー・イーグルF1 スーパースポーツRで、リア側の幅は305もある。
19インチのホイールは、美しくシンプルなデザインの鍛造品。カーボンセラミック・ブレーキを装備し、バネ下重量を一層軽くしている。
今回、完成したSCRを試乗したのは、ドイツ・バイエルン地方の一般道。路面は雨で濡れ、トラクターが泥や小石を路面に残した場所も多かった。だが、ルーフ社はSCRを普段使いもできるモデルだと説明する。理屈としては、問題ない環境ではある。
事実、500馬力のリアエンジンでも、想像以上に手懐けやすいようだ。フラット6は鼓膜をつんざくひと吠えで目を覚ますが、アイドリングに落ち着くと穏やかになる。軽量なフライホイールが組んであるものの、発進も特に難しくはなかった。
この続きは後編にて。
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みんなのコメント
どんだけ凄いの作って普段乗りまでできるといってもこれじゃ意味無い