免許アリでも順法意識が低い人の乗り物
「公道を走る電動キックボードは原付扱い」とされてきた電動キックボード。
【画像】その乗り方、違反ではない? 東京を走る電動キックボード【現地より】 全3枚
運転には定格出力に応じた原付免許(原付1種/2種)、ヘルメット、自賠責保険、ナンバープレートなどが必須で、車体は原付としての保安基準を満たしている必要があった。
一部の例外としてLUUPに代表される認可シェア事業者が実証実験として扱う電動キックボードに関しては最高時速15km/hの「小型特殊車両」に区分することでヘルメット不要とし、小特または普通免許を必須としていた。(6月30日でシェア事業者の実証実験はすべて終了)
電動キックボードの利用実態は酷いもので、免許を持っていてアプリ上の「道交法テスト」も受けて合格しているはずのLUUP利用者でもたくさんの法令違反が報告されてきた。
筆者も幾度となく目撃しているが、車道の逆走や歩道の走行はもちろん、横断歩道を乗ったまま走るのは日常茶飯事だった。
夜の繁華街では10台中3~4台が飲酒運転をしていることもテレビのニュース番組で明らかにされた。
昨年9月には酩酊状態のLUUP利用者がクルマ止めにぶつかって転倒し、頭を強く打ち死亡するという悲惨な事故も発生している。
都心ではナンバー無しの「野良」ボードがほとんどで、ナンバーがついてヘルメットを着用して走行している電動キックボードに出会う確率はとても低かった。
中には「歩道は公道じゃないから乗っていいと思った」と、公道の意味を知らない利用者がナンバーもヘルメットもない状態で電動キックボードに乗り、事故を起こして逃走するケースも少なからずあった。
改めて書いておくが歩道も公道である。
ナンバー無しの電動キックボードが走れるのは工場の敷地内やゴルフ場などの限られた私有地の中だけ。公園に関しては自転車の乗り入れを禁止しているところならナンバーの有無に関わらず電動キックボードも通行不可である。
電動キックボードはごく一部を除いて順法意識の低い人たちが好き勝手に乗り回す乗り物であったのだ。
7/1スタート 電動キックボード新ルール
このような中、令和5年7月1日から改正道交法(令和4年法律第32号)による新しいルールが適用された。
原付に該当する電動キックボードの中で「特定小型原動機付自転車」(以下、特定原付)として保安基準を満たした車両であればヘルメットは努力義務/免許不要で乗ることができる制度である。
基本は車道を最高速度20km/h以下で走ることになるが、そのうち最高速度6km/h以下に設定できる場合は歩道(自転車通行可の歩道のみ)走行も許可される。
1 車体サイズ
幅60cm×高さ190cm以内(一般原付は130×250cm以内)
2 ナンバープレートと自賠責保険は義務
3 特定原付の中で、6km/h以下の速度抑制装置が取り付けられている車体は自転車通行可の歩道も乗ることができる。
「6km/h以下」「20km/h以下」の制限は運転者自身がそれらの速度を超えないよう気を付けて走るということではなく、車体側でそれ以上のスピードが出ないよう「速度抑制装置」によって制御される。
速度を切り替える際には、必ず停車してから行うことがマスト。走行中に切り替えることはできない仕様となっている。
なお、今、どのような走行モードで走っているのか?ということは保安部品の一つである「最高速度表示灯」にて周囲からも確認できるようになっている。
歩道走行可能な6km/h以下であれば緑色のランプが「点滅」し、車道走行状態の20km/h以下であれば緑色のランプが「点灯」する。
この緑ランプ(最高速度表示灯)こそが、特定原付ならではの装備で緑ランプ=保安基準を満たした電動キックボードであることの証明といってもいいだろう。
緑ランプの保安基準は
・昼間にその前方及び後方25mの距離から点灯を確認できる
・光源は15W以上で照明部の大きさが7平方センチ以上
とされている。
先日発表会がおこなわれた「YADEA KS6PRO」(長谷川工業)はハンドルバーの両端に緑ランプが設置されており前後はもちろん、左右から見えやすい位置にある。
歩行者の目線にも近く、クルマや自転車など他の交通からの視認性も良好だ。
免許不要も違法車体/違法行為に厳しい罰則
販売業者の中には「6km/h以下なら歩行者扱いで歩道も走れて免許も不要」などと完全な違法状態の車体(主に海外製)を販売している悪質なケースも散見される。
もちろん「最高速度表示灯」など特定原付のための保安部品も無し。単に早歩き程度の速度を強調し、勝手に「歩行者扱い=歩道を走れる」としているに過ぎない。
こんな違法車体を買っても特定原付としてのナンバーはつけられないし、免許無しでは車道も歩道も乗ることもできない。
最も安全で安心できるのは国が指定する検査機関(公益財団法人日本自動車輸送技術協会 JATA)で保安基準適合性等が確認され認証シールが貼られた車体を購入することである。
2023年7月1日現在、一般販売される特定原付で認証シールが貼られるのはYADEA KS6PRO(長谷川工業)、ストリーモS01JT(ストリーモ)、Falcon P.E.V.Z9L-01(SWALLOW合同会社)の3機種のみだが、JATAに確認したところ現在審査中の車体もいくつかあるとのことなので今後まだまだ増えていきそうだ。
なお、国交省はこのような保安基準不適合の電動キックボードをあぶりだすために2023年4月1日から違法車体に関する通報窓口を設置し、広く情報を募っている。完全に匿名で違法車体の通報が可能だ。
違法車体に対して国交省は販売側に対しては行政指導をおこなっていくとしているが、購入して乗る側にも厳しい罰則があることに注意されたい。
違法車体の電動キックボードで公道を走行すると「整備不良」が成立する可能性もある。免許不要といっても16歳未満が運転したり、16歳未満に貸したり買い与えたりするのも禁止。駐車違反や2人乗りも禁止で自賠責切れ、飲酒運転(酒気帯び)や事故時の救護義務違反をすると最高100万円の罰金が科せられる。
「違法車体」販売防止 「製品安全誓約」
今回の道交法改正には警察庁だけではなく、経産省/国交省/消費者庁/総務省など様々な省庁が関わっており、関係省庁の連携も重要だ。
原動機がついてナンバーも自賠責保険も義務なのに免許は不要……さらに歩道も車道も走れてしまうというこれまでにない新たな乗り物を順法意識の低い人たちが乗る可能性が大きいのだから、事故やトラブルが多発することは容易に想像できるだろう。
もちろん、「売れればオッケー!」なコンプラ意識の低い販売業者も少なからず存在するので、厄介だ。
このような中、6月29日にスタートしたのが「違法車体」の販売を防止し、消費者保護を目的とした「製品安全誓約」なる制度である。
消費者庁と経産省が中心となり国土交通省も連携して、保安基準を満たしていない電動キックボード等の出品をオンラインマーケットプレイス上から削除する等の新たな取組みをおこなう。
製品安全誓約
リコール製品や安全ではない製品がもたらす、生命/身体に及ぼすリスクから消費者をこれまで以上に保護することを目的として、オンラインマーケットプレイスの運営事業者と関係省庁が協働。
1 リコール製品や安全基準等を定める法令に違反した製品の出品を削除する取組み
2 消費者からリコール製品や安全基準等を定める法令に違反した製品の出品が通知された場合の取組み
3 こうした取り組みを実施するための内部管理体制の構築等について取り決めたもの
アマゾン/メルカリ/ヤフー/楽天等が参加
いくつかの通販サイトを見てみたが、特定原付のための道交法など特設ページを作りしっかりとした取り組みをおこなっているのは今のところアマゾンだけであった。
アマゾンでは個々の販売ページにも、公道で走る際の注意点が目立つように記されている。
保安基準に適合してナンバーを取得し公道(歩道)を走る仕様にするには諸々の費用がかさむ。検査機関で保安基準適合のお墨付きである認証シールを貼るには100万円近い審査料も必要となるため車体価格は10万円台前半から30万円前後まで。
いっぽう、違法車体は安いものだと2~3万円から販売されている。
免許のない人たちが悪徳業者の言葉をうのみにし、あやふやな情報をもとにナンバーもつかない車体を公道で乗り始めるとなれば、必ず事故は増えるだろう。
クルマのドライバーからも歩行者からも恐ろしい存在となるが、ナンバーのない電動キックボードには近づかないなど自衛策を講じるしか今のところ対処方法はなさそうだ。
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