アストンマーティン・ヴァンテージはAMG製のV8エンジンを搭載するが、当然ながらその走り味はメルセデスAMG GTとはまったく異なるモノだ。富士スピードウェイで清水和夫が限界性能を見極めた。REPORT◉清水和夫(SHIMIZU Kazuo)PHOTO◉田村 弥(TAMURA Wataru)/市 健治(ICHI Kenji)※本記事は『GENROQ』2019年3月号の記事を再編集・再構成したものです。
富士スピードウェイで見せた驚異的な走り
ヒットには確かな理由がある。ポルシェ・カイエン3世代で完全に確立された個性の秘密とは?
アストンは並みいるスポーツカーの中でも、孤高の存在だ。だが、その中身は最近大幅にアップデートされている。というのも伝統だけで生き残るのは難しい時代となり、厳しさを増す環境や安全規制、さらに電動化や自動化が叫ばれる大変革の流れに対して、さすがのアストンも逆らうことはできなくなってきたからだ。それ故に生き残りをかけてメルセデスと提携し、AMGのパワートレインとデジタル技術を共有した。これは実に正しい選択ではないだろうか、と個人的に納得している。
エンジンはAMG GTのV8を使っている。最高出力510㎰、最大トルクは685Nmだ。そのエキゾーストサウンドはAMGよりも少し穏やかだった。エンジン音はクルマのキャラクターを決めるので、無視できないポイントだ。
パワフルなFRのダイナミクスを高めるために、ヴァンテージはギヤボックスをデフと一体化させてリヤアクスルに搭載している。これはトランスアクスル方式と呼ばれるが、そのために前後重量配分はややフロントが軽い。だが、前後重量配分という物理量はクルマのダイナミクスを正しく説明するにはやや不十分なのだ。実は静的な前後の重量配分ではなく、動的な重量配分(専門的に言えば慣性モーメント)が大切なのである。重いモノがクルマの中心に集まっているかどうか。その視点でヴァンテージを分析すると、V8エンジンはできるだけ後方に搭載し、キャビンに近づけている。重いギヤボックスはドライバーの後方に搭載される。こうして重いモノをクルマの中心に集めることで、優れた慣性モーメントとなるわけだ。
富士スピードウェイを走った印象は強烈だった。AMGのV8はさすがにトルキーなので、コーナーでは簡単にパワードリフトとなる。しかし、限界域ではとても扱いやすい。アストンとしては初めてとなる電子制御のLSDを採用したことが利いているようだ。タイトコーナーよりも100RやAコーナーが走りやすかった。富士スピードウェイ名物のロングストレートのエンドでは280km/h近くに達するのでライバルと比べても十分に速い。
新型ヴァンテージは先代と較べてホイールベースが100mmも伸びている。先代のV12は、これ以上ないほどヤンチャな操縦性で、紳士のスポーツカーとは思えないほどの荒々しいハンドリングに、魅了される人もいれば、ドライビングに自信を失う人もいるほど。すぐスピンするので油断大敵だった。しかし新型はV12よりもパワフルなV8でハンドリングも素直になった。新旧ヴァンテージのハンドリングの違いはちょうどフェラーリのF355と360の違いと似ていると思った。短い時間だったが、サーキットでもオンロードでも、どんなシーンでもドライバーを魅了する。孤高にして官能的。そんな印象だった。
アストンは英国の文化財であり、サーキットでもスリリングで楽しいハンドリングが楽しめるので、ポルシェやフェラーリを卒業したい人には最後に乗るべきスーパースポーツかもしれない。
SPECIFICATIONS アストンマーティン・ヴァンテージ
■ボディサイズ:全長4465×全幅1942×全高1273mm ホイールベース:2704mm
■車両重量:1530kg
■エンジン:V型8気筒DOHCツインターボ ボア×ストローク:83×92mm 総排気量:3982cc 最高出力:375kW(510㎰)/6000rpm 最大トルク:685Nm(69.9kgm)/2000~5000rpm
■トランスミッション:8速AT
■駆動方式:RWD
■サスペンション形式:Ⓕダブルウイッシュボーン Ⓡマルチリンク
■ブレーキ:Ⓕ&Ⓡベンチレーテッドディスク
■タイヤサイズ:Ⓕ255/40ZR20 Ⓡ295/35ZR20
■パフォーマンス 最高速度:314km/h 0→100km/h加速:3.6秒
■環境性能(EU複合モード) CO2排出量:245g/km 燃料消費率:10.5/100km
■車両本体価格:1980万円
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