コンパクトSUVのヤリスクロスは2020年8月31日に発売され、1ヵ月後の受注台数が3万9000台を超えたと発表された。新車販売台数は9月が6740台、10月が6900台と幸先のいいスタートを切った。直近のSUV販売台数を比較するとハリアーに次ぐ3位に付けている。
■2020年10月のSUV販売台数
1位:ライズ/1万3256台
2位:ハリアー/9674台
3位:ヤリスクロス/6900台
4位:RAV4/5001台
5位:キックス/3542台
6位:ヴェゼル/2985台
7位:C-HR/2690台
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今後も販売台数を伸ばしていきそうなヤリスクロスだが、これから購入しようと考えている人にとって悩ましいのは、SUV販売NO.1のライズか、新型キックスと比べてヤリスクロスはどこが凄いのか? さらにガソリンかハイブリッドのどちらを選べばいいのか、と大いに悩んでいるに違いないい。
そこで、本企画では、今が旬のヤリスクロスの購入ガイドをモータージャーナリストの渡辺陽一郎氏が解説する。
文/渡辺陽一郎
写真/ベストカーweb編集部 トヨタ 日産 ホンダ
【画像ギャラリー】トヨタ ヤリスクロスをライバル車と徹底比較!
■販売絶好調で納期は4~5ヵ月
SUVのなかでも比較的好調な売り上げを誇るヤリスクロス
ヤリスクロスの販売が絶好調だ。ただし注意点もある。まずコンパクトカーのヤリスが発売された2020年2月時点の取り扱いディーラーは、東京地区を除くとネッツトヨタ店のみだった。国内の店舗数は約1450ヵ所だが、ヤリスクロスは違う。
2020年5月に、トヨタの全店が全車を扱う体制に移行した後で発売されたから、最初から全国の約4600店舗が販売している。発売時期が8月末だから、ヤリスと違ってコロナ禍の影響もあまり受けておらず、売れ行きを伸ばしやすかった。
そしてヤリスクロスは2020年4月に初披露され、売れ筋カテゴリーのコンパクトSUVだから、予め購入を決めていたユーザーも多い。3万9000台の受注台数は多い部類に入るが、販売面で有利な条件もそろっていた。
ヤリスクロスが解決すべき問題点は、納期が長いことだ。販売店によると「2020年11月下旬に契約すると、納車はNAエンジンが2021年3月、ハイブリッドは4月」という。4~5ヵ月の納車待ちになってしまう。
ちなみにヤリスクロスはコンパクトカーのヤリスとまったく別のクルマだが、日本自動車販売協会連合会の登録台数は、ヤリスと合計して発表される。そこで2020年9月におけるヤリスクロスのみの登録台数をトヨタ広報部に問い合わせると、以下の通りであった。
■ヤリスの新車販売台数
●9月:6740台
ヤリスクロス(ガソリン)2210台
ヤリスクロスHV 4530台
●10月:6900台
ヤリスクロス(ガソリン)2460台
ヤリスクロスHV 4440台
9月までに3万9000台も受注しながら、納車されたのは6740台だから、納期が遅れるのも当然だ。受注が好調なら、それに見合う生産体制を整えねばならない。
販売店いわく、「2020年11月下旬に契約すると、納車はNAエンジンが2021年3月、ハイブリッドは4月」とのこと。納車が長引くことを覚悟しよう
■ヤリスクロスはライバルと比べて何が凄いのか?
ヤリスクロスは全幅が1765mmの3ナンバー車だが、全長は4180mmと短い。ホイールベース(前輪と後輪の間隔)も2560mmに抑えられ、後席の足元空間はヤリスと同程度に狭い。ヤリスに比べると床と座面の間隔が20mm広がり、腰の落ち込む着座姿勢は若干改善されたが、荷室容量も含めて家族で使うには少々窮屈だ。
ヤリスクロスのインパネ。水平基調でシンプルに整えられており、質感も悪くない
その代わり価格も求めやすい。ヤリスハイブリッドZの2WDは258万4000円だ。機能と装備が同程度になるライバル車のキックスX(275万9900円)、ヴェゼルハイブリッドZホンダセンシング(276万186円)に比べると、約18万円安く抑えた。
ヤリスクロスの後席と荷室は、キックスやヴェゼルに比べると狭いから、価格も安くて当然という見方も成り立つだろう。それでも後席と荷室にこだわらないユーザーにしてみれば、ヤリスクロスは買い得感が強い。特に外観は鋭角的でカッコ良く、インパネ周辺のデザインはヤリスとほぼ同じだが、質感は満足できる。
一方、キックスはe-POWERを搭載する国内仕様の投入は2020年6月だが、NAエンジンの海外仕様は2016年から用意されていた。やや古さが感じられ、内外装の作りもヤリスクロスに見劣りする。
キックスの海外仕様は2016年に投入されており、内外装における設計の古さが否めない
ヴェゼルは2013年の登場だから、ハイブリッドの世代も古く、後席と荷室は今でも広いがデザインの新鮮味は薄れた。このほかCX-3やCX-30、XVなどもいまひとつ売れていない。
つまりコンパクトSUVのカテゴリーは、流行にのって人気を高めたが、ラインナップされる車種の商品力は全般的に追い付いていない状況だ。そこでヤリスクロスが売れ行きを伸ばした。ヤリスクロスに対する顧客の反応はどうなのか。販売店で尋ねた。
「ヤリスクロスを購入するお客様は、キックスやヴェゼルと比べることが多いです。そして主に安全装備、運転感覚、燃費、内外装のデザインなどによって、ヤリスクロスを選ばれます。価格が近いためにヤリスと迷うのではないかと思いましたが、意外に比較されません」。
ヤリスクロスの競合としてよく名前が挙がるヴェゼルだが、機能やデザインでやや古さを感じる面も
ヤリスクロスでは、右左折時に直進車両や横断歩道上の歩行者を検知して、衝突被害軽減ブレーキを作動させることも可能だ。この安全装備は、ライバル車に差を付けるヤリスクロスの大切な特徴になっている。
ヤリスクロスでは、WLTCモード燃費も、ハイブリッドの2WDが27.8~30.8km/Lと良好だ。キックスは21.6km/L、ヴェゼルハイブリッドは19.6~21km/Lだから、かなり差が付く。
以上のようにヤリスクロスは、ほかのコンパクトSUVに比べると、機能からデザインまで設計の新しさを感じさせる。しかも関心の集まっている安全装備や燃費も優れ、価格は割安だから人気車となった。
ただし、ヤリスクロスの好調な売れ行きは、ほかのトヨタ車にも影響を与えているようだ。販売店では以下のようにコメントした。
「C-HRの購入を考えていたお客様は、ヤリスクロスに移ることがあります。ヤリスクロスはC-HRに比べて価格が安く、なおかつ安全装備は充実しています。外観はC-HRが個性的ですが、ヤリスクロスもスポーティでカッコイイため、選択に迷うことが多いです」。
CH-Rの購入を検討していたユーザーがヤリスクロスに移ることもあるという
ヤリスクロスハイブリッドZの価格は258万4000円で、C-HRハイブリッドGは304万5000円だ(価格はいずれも2WD)。ボディサイズ、エンジン排気量、装備に違いがあるものの、ヤリスクロスは約46万円安い。
しかもC-HRはボディがひとまわり大きいが、外観のデザインに重点を置いたので、後席と荷室はあまり広くない。2016年の登場だから新鮮味も薄れ、C-HRの購入を考えていたユーザーが、ヤリスクロスに移ることもあるだろう。C-HRの2020年9月における登録台数は3681台だから、キックスと同等に登録されているが、前年の9月に比べると17%減った。
一方、ライズについても販売店で尋ねた。
「ライズは5ナンバー車で、ボディはヤリスクロスよりもさらに小さいです。価格も安く、200万円以下のグレードが豊富なため、セカンドカーのニーズも多いです。ヤリスクロスとはクラスが異なるので、お客様はあまり迷われません」と述べた。
ヤリスクロスよりも一回りコンパクトなライズは、セカンドカーとして利用されることが多い
このようにヤリスクロスは、キックスやヴェゼルなど他メーカーのライバル車とは競争関係が生じて、相手車種の売れ行きに影響を与えるが、トヨタ内部で競うのはC-HR程度だ。ライズとは共存できている。
そして今後登場すると思われるカローラクロスとも、商品の性格が異なる。カローラクロスはC-HRとホイールベースまで含めてプラットフォームが共通化され、外観デザインはライズと同じく悪路指向に仕上げたからだ。
ボディサイズや価格について、カローラクロスと競争関係が生じるのは基本部分を共通化したC-HRだ。ライズの外観は、カローラクロスのサイズダウン版という印象もあるが、前述の通り価格差が大きいから競争関係は生じないだろう。ヤリスクロスも同様だ。
カローラクロスはCH-Rと共通のプラットフォームを採用。悪路での走破性を意識したコンセプトで、ヤリスクロスとは異なった性格をしている
そしてトヨタには、さらに大きな前輪駆動ベースのSUVとして、都会指向のハリアーと悪路指向のRAV4もある。この2車種も基本部分を共通化しながら、車両の性格を都会指向と悪路指向で分けることにより、競争せずに共存している。
このようにSUVは、都会指向と悪路指向を使い分けることで、同じサイズに性格の異なる複数の車種をそろえられる。スバルはXVとフォレスター、マツダはCX-30とMX-30(この2車種は都会/悪路指向ではないが)、スズキはSX4 Sクロスとエスクードという具合だ。三菱のアウトランダー/エクリプスクロス/RVRも、プラットフォームはホイールベースの数値まで含めて共通だ。
■ヤリスクロスのベストバイグレードはHVかガソリンか?
ハイブリッドグレード「E-Four」には電気式の4WDシステムを投入
さて、ヤリスクロスのベストグレードはどのグレードなのか? まず駆動方式は用途に応じて選ぶ。4WDは2WDに比べて23万1000円高く、この価格差は妥当だ。
グレードについては、NAエンジン、ハイブリッドともに中級のGを推奨する。Gを選び、安全装備のブラインドスポットモニターなどをオプションで加えるのが買い得な方法だ。
ただしGを選び、フルLEDヘッドランプと18インチアルミホイールを両方ともオプション装着するなら、これらをすべて標準装着した最上級のZがお得になる。中級のGにオプションをたくさん加えても、数年後の下取査定でプラスされにくく、残価設定ローンでも不利になるからだ。Gを選ぶ時は、オプションを厳選することが前提で、多くの装備が欲しい時はZにしたい。
ハイブリッドの価格は、ノーマルエンジンに比べて37万4000円高い。ハイブリッドは購入時に納める環境性能割と自動車重量税が非課税だから、実質的な差額は30万円に縮まる。
そこで実用燃費がWLTCモード燃費、レギュラーガソリン価格を1L当たり140円で計算すると、30万円の実質差額を燃料代の節約で取り戻せるのは12~13万kmを走った頃だ。
取り戻せる距離が長く、ハイブリッドは損得勘定で不利に思えるが、ハイブリッドはノーマルエンジンに比べると3気筒のノイズが抑えられて静かに加速する。アクセルペダルを軽く踏み増した時は、モーターの駆動力が素早く立ち上がり、速度を滑らかに上昇させる。
ハイブリッドには損得勘定だけでは割り切れない価値があり、災害時にも役立つ100V・1500Wの電源コンセントもオプション設定した。したがってNAエンジンとハイブリッドの選択は、販売店の試乗車で運転感覚などを確かめたうえで判断したい。
ハイブリッド車かガソリン車か。実際に試乗したうえで決めるのがおすすめ
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