鈴鹿サーキットで行なわれたスーパーフォーミュラ第8戦で、いつになく怒りを爆発させた男がいた。チャンピオン争いを展開していたひとり、野尻智紀(TEAM MUGEN)だ。彼の怒りの矛先は、予選のアウトラップで自分の前に出た太田格之進(DOCOMO TEAM DANDELION RACING)に向いていたが、その太田が自身の動きについて釈明した。
“事件”が起きたのは、Q1 B組のラストアタックだった。この時は各車ラストアタックに入った際にアクシデントにより赤旗が出され、時計が残り3分に巻き戻されて再開となった。中断前に目の覚めるようなアタックを見せていた野尻は皮むき済の別タイヤでコースインし、太田は中断前に履いていたタイヤでコースに出た。
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太田のタイヤにはアウトラップの段階から十分熱が入っていた一方、野尻のタイヤは熱を入れる必要があった。そんな中、隊列の先頭で走行していた野尻を、太田が逆バンクで抜いた。そこから太田は自分のペースで走行したため、野尻はその煽りを食って満足なウォームアップができなかったという。実際、野尻はアタックラップの前半セクターでタイムが伸びず、Q1で敗退。タイトル争いで大きな痛手を負った。
決勝では5位に終わり、翌日の第9戦を戦う前にタイトル争いから脱落した野尻は、太田が自分を抜いていくこと自体は想定していたというものの、そこからペースを落とされたことを不満に思っており、こう話していた。
「逆バンクでは、別に抜いていくだろうなとは思っていました。でもその後、彼はあからさまにペースを落としたんです。事を荒立てない程度のギリギリの線を突きながらやってきたんです。その時は『なんなの?』と思いました」
「ヘアピンを抜けて、僕もバックオフして前との距離を空けたんですが、彼は全然加速していかなかった。シケインでも、誰かに詰まる可能性はないのに、彼はかなりゆっくり走っていました。そんなにゆっくり走るんなら、おとなしく後ろにいけばいいじゃんと思いましたよ。なんで人に迷惑をかけようとしているのか……そのマインドが気に入らないというだけです」
このコメントからも野尻の怒りが感じ取れるが、彼は決勝チェッカー後の無線でもかなり激しい言葉を使って太田を意識した言葉を発していた。当初はそれほどまでに憤慨していたのだ。
対照的にレースでは完璧な走りを見せて優勝した太田に対し、優勝記者会見後にそのことを伝えると、太田は野尻が憤慨していることを把握しておらず、驚いている様子だった。
そして太田は、自身のとった動きについて次のように説明した。
「僕としては別にそんなに無理してブロックしているつもりはありませんでした」
「アウトラップで、僕は温まっているタイヤで、向こうは冷えているタイヤ。それで、僕は逆バンクで前に出ました」
「そこから僕がコントロールすることに関しては、例えば去年のローソンのように、近い位置にいる時に思い切りウィービングをしたり……というのであれば分かります。それもペナルティになり得ることも理解していますから。でも、正直それをするつもりもありませんでした」
(※野尻は昨年の最終ラウンドでも、当時チームメイトのリアム・ローソンと予選中の位置どりに関してひと悶着あった)
「僕としてはタイヤが温まっているので、アウトラップでプッシュする必要が全くないです。ただ、僕としては初めに出て行った時、コースの中盤くらいまでは、1回止まって再び走り出したタイヤがどのくらい温まるのかを認識する必要がありました。だからはじめはそこそこのペースで走っていました」
このように釈明した太田。彼は露骨なブロックこそしていないものの、アウトラップ中の野尻に「抜かれないように」走る意識があったことを認めた。ただ、それも通常の駆け引きの範疇であったと認識している。
「これはどのシチュエーションでもあり得ることです」と太田は言う。
「例えば今年のSUGOの予選でも、前のMUGENの2台がめちゃくちゃゆっくり走って、後ろが全く温まらないということなどもありました。温まっているクルマはゆっくり走るし、でも抜かれそうになったら、抜かれないようになんとかしますよね」
「予選なら常に起こり得ることだし、意外とみんな出ていく順番で駆け引きしています。もし野尻さんがすごく怒っているのであれば、自分がそんなに危ないことをしたのか、見返さないといけないと思っています」
「タイヤの良いところは使おうとするし、もちろん乱気流のこともあるので前でアタックできる分に越したことはありません。みんな普通にやっていることじゃないかなと思います。僕が本当にラフで、危険なことをしたのであれば謝りたいです」
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