再生燃料車カテゴリで1位
執筆:Jesse Crosse(ジェシ・クロス)
【画像】コンチネンタルGT3パイクスピーク【市販モデルと写真でじっくり比較】 全136枚
翻訳:Takuya Hayashi(林 汰久也)
今年のパイクスピークでは、760psのベントレー・コンチネンタルGT3パイクスピークが存在感を際立たせていた。山頂付近の雪と氷により、ゴールは通常の標高4300mから3895mの地点に変更。そのため記録更新は叶わなかったが、再生可能燃料を使用したクルマとして見事1位に輝いた。
GT3のカスタマーレースを通じて、ベントレーは世界中のさまざまな燃料やオクタン価について多くの経験を積んできた。
「ダイノで連続してテストを行いましたが、特に問題はありませんでした」とモータースポーツ・エンジニアリング・テクニカル・マネージャーのデビッド・アージェントは語る。
使用された98オクタンの合成燃料はバイオマス由来だが、市販の燃料に混ぜられているエタノールのようなアルコール燃料とは異なる。食用に適さない植物を原料としたバイオマスを加工し、化石燃料のようにCO2を排出しない炭化水素系の合成ガソリンとなっている。
エンジンは、量産車に搭載されている4.0L V8ツインターボをベースにしたGT3ユニットを改良したもの。市販エンジンと同じ鋳造部品(ブロック、サンプ、シリンダーヘッド)を使用しているが、クランク、コンロッド、ピストンを強化している。
また、スロットルボディの上流にポートインジェクターを設置し、高地で十分なブースト圧を得るために大型のターボを搭載している。リアには2台目のラジエーターを設置し、熱交換器でオイルを冷却する。
アージェントは、「パイクスピーク用のクルマを作るなら、インタークーリングとラジエーターの両方の冷却を考慮しなければなりません」と話している。
数々の問題を乗り越えて
今回のパイクスピークでは、エンジンとインタークーラーの外面に水を噴射して、空気の温度を下げるシステムを特別に追加した。水を使わなかった初期の走行では、ターボによってエンジンに送り込まれる空気の温度が48度に達していたという。
「高度が高くなると、エンジンを通過するマスフローが少なくなり、通常よりもハードに運転することになります」とアージェントは言う。標高3800m付近で連続するタイトなコーナーは、その形状から「W」と呼ばれているが、これが温度の問題を引き起こした。
「Wは低速ですが、エンジンへの負荷が高いです。ヘアピンに侵入し、1番、2番、3番と抜いていき、強くブレーキをかけて、また同じことを何度も繰り返すのです。ラジエーターには空気が流れず、油温と水温が上昇します。エンジンに大きな負担がかかる危険なエリアです。Wの後には、冷却に有利な高速ストレッチがあります」
また、空気式のリカルド製シーケンシャル・トランスミッションに、必要な空気をエア・コンプレッサーで十分に供給できるかどうかも、標高の高さからくる課題であった。
そこでベントレーのチームは、ペイントボールマーカーに使われるキャニスターを模した小型のアキュムレーター・タンクを装着するというアイデアにたどり着く。走行前に圧縮空気を充填することで、トランスミッションは正常に機能した。
パイクスピークのマエストロであるリース・ミレンの手に委ねられたコンチネンタルGT3パイクスピークは、スタートを切ると猛烈な勢いで丘を駆け上がった。第3セクターに入ったときには、ライバルに12秒の差をつけていたが、思わぬ問題が発生した。
何年にも渡りGT3レースで何千kmもの距離を走ってきたトランスミッションの変速タイミングに異常が生じ、バックファイアが発生してカーボンファイバー製のインテークプレナムが割れ、終盤の数コーナーでブースト圧が低下したのだ。
その結果、タイムアタック1クラスで2位、総合で4位、再生可能燃料車の中では最速という素晴らしい成績を残したが、16秒のタイムロスがあった。
速さを証明したからこそ、チームにはやり残したことがある。今のところ正式な発表はなされていないが、来年、「ベントレー・ボーイズ」が復帰することは間違いないだろう。
CO2ゼロの未来の燃料
大型でパワフルなエンジンを製造する高級車メーカーにとって、CO2排出量ゼロの可能性を秘めた合成燃料は、世界がグリーン化していく中でブランドの品位を保つための手段となり得る。
既存のエンジンに無改造(燃料マップの更新を除く)で使用できるうえ、世界の主要市場には、ICEの販売禁止を発表していないところがたくさんある。
ポルシェは今年初め、モービル1スーパーカップのマシンに、エクソンモービルの98オクタンのエッソ・レーシング・フューエルを使用すると発表した。食品廃棄物から作られる合成バイオ燃料で、大気中のCO2と水素から作られる高度なeフューエルに移行することも視野に入れている。
また、エクソンモービルは、シンセティック・ゲノミクス社と共同で、藻類を原料とする合成燃料の開発を行っている。藻類は他の植物と同様、成長時にCO2を消費し、1エーカーあたりのバイオ燃料生産量はトウモロコシやサトウキビの5倍にもなる。2025年までに日量1万バレルの藻類バイオ燃料を生産する計画だ。
ところで合成燃料って何?
持続可能な液体燃料にはさまざまな種類があり、その用語は少し紛らわしい。植物由来のものもあれば、そうでないものもあるが、最終的には同じようなものになる。また、エンジンの変更が必要なものもあれば、(ベントレーが採用している燃料のように)直接ガソリンの代わりになるものもある。
エタノール(エチルアルコール)はガソリン添加剤として何年も前から使用されており、欧州では5%、最近は10%まで混合されたものが普及しつつある。米国では、約2100万台のフレックス燃料車が、エタノール含有率51%から83%のE85ガソリンを使用。42の州で約3500のスタンドが同燃料を販売している。
エタノール経由のETG法(Ethanol-to-Gasoline)やメタノール経由のMTG法(Mthanol-to-Gasoline)といった合成プロセスにより、既存のエンジンにそのまま使える「ドロップイン燃料」ができる。エクソンモービルとポルシェは、提携により最終的にはMTG法を使った合成ガソリンの生産を目指す。
ポルシェがチリのハルオニ工場で生産した水素と、大気中のCO2を回収してメタノールを生成し、使いやすい合成ドロップイン燃料とする予定だ。
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