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大きく変わってもハーレーらしさは健在──新型スポーツスターS試乗記

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大きく変わってもハーレーらしさは健在──新型スポーツスターS試乗記

ハーレー・ダビッドソンの新型「スポーツスターS」に田中誠司が試乗した。アンダー200万円で楽しめる最新ハーレーの実力とは?

約25年前に乗ったスポーツスター883の記憶

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いまから25年近く前、ぼくにとってのハーレー初体験は友人の「スポーツスター883」だった。

たまたま休日を静岡のあたりで過ごすことになって、ある友人の女性に連絡を取ったところ、その日彼女もそのあたりを通ることになっていて、であれば途中まで一緒に行こうよ、ということになったのだ。

詳しいことはもう覚えていないけれど、青々とした田んぼが広がる田舎の真ん中でしばらく談笑したあと、ぼくは当時の愛車だったBMW「M5」の助手席に彼女を乗せて、軽くテールを滑らせながら山道を駆け抜けた。

そのあと、彼女からヘルメットとグローブを借りて、ぼくはスポーツスターを初めて走らせた。サイドスタンドを払って車体を起こすときの重みを、ぼくはまだ覚えている。コンパクトで低重心に見えても、ずしりと左足にのしかかる重さだ。どちらかといえば細身の彼女がよくこんなものを平然と走らせているものだと思った。当時のバイクで典型的だったアルミとプラスティックの組み合わせではなく、こいつは鉄の塊なのだ。

走り出して、車体がスリムなことにもおどろいた。ステップが前方にあることも手伝って、いわゆるニーグリップができない。ハーレーならではの鼓動感とか、低速トルクの豊かさといったものはむろん伝わってきたものの、世の中にはいろんな乗り物があるんだなあ、と感心はしただけで、自分にはハーレーはまだ早いな、と思ったものだ。

ぼくよりふたつ年下である彼女にとって、ハーレーを所有するタイミングは早すぎはしなかった。それから2年もしないうち、彼女は大学の同級生と結婚すると同時に、ふたりで会社を辞めて2年間、世界1周の旅に出てしまったのだ。『世界一周デート』という本も帰国後に刊行した。

その後しばらく、ふたりは世界さまざまな場所への旅を繰り返したあと子どもを授かり、楽しく暮らしている。ハーレーはしばらくして手放したと聞いた。もちろんふたたびチャンスが訪れるかもしれないけれども、20代なかばの人生でもっとも気ままな時間に、いちばんいいバイクと過ごしたように客観的には見えるし、その数年間の自由は、彼女にとって素晴らしい思い出としてずっと心に刻まれているはずだ。

刷新された中身

そんな昔の記憶がよみがえったのは、あたらしいスポーツスターSを引き起こすときにぼくはほとんど重さを意識しなかったし、ニーグリップもちゃんと効かせることができたからだった。

今年7月に受注を開始し、秋から納車が開始される新型スポーツスターSは、1957年誕生以来の名称を受け継ぎつつも、その中身は抜本的な刷新が図られている。

これまでの空冷エンジンとクレードル・フレーム構造を捨て去り、ツインカム・ヘッドを持つ水冷Revolution™ Max 1250Tエンジンを採用、振動を極限まで低減したエンジンをフレームの一部として利用し、メイン・フレームを排することで大幅な軽量化を実現した。これまでのスポーツスターの中核モデルである「IRON 1200」との比較で、乾燥重量は27kg軽い221kgに抑えられている。

エンジンの基本的性格を決めるボア・ストロークの値は105×72.3mmと、76.2×96.8であった883とはほぼ逆転。サスペンションはフロントが正立フォークから倒立フォークに、リアがツインショックからモノショックへ変更された。双方とも手動調整が可能とされている。前後のタイヤはかなりファットで、フロントが160/70TR17 73V、リヤが180/70R16 77V。フロントが100、リヤが150だったIRON1200より圧倒的に太い。

スポーツスターSのエンジンの最大トルクは125Nm/6000rpmに達し、68Nmだった883や96Nmだった1200を大きく凌ぐ。ハイパワーを御するため、トラクション・コントロール・システムが搭載され、エンジン出力やエンジンブレーキ、ABS(アンチロック・ブレーキ・システム)の動作水準を調整できるライディングモードが標準搭載となった。メーターは円形1眼のままだが、これまでのアナログから円形薄型フィルムTFTスクリーンとなって、ライディングモードの操作やBluetoothによる電話着信管理などが可能になった。

こうした新型スポーツスターSのパワートレイン周りの基本構造は、先行して登場したアドベンチャーモデル「パン・アメリカ」をかなりの範囲で踏襲している。可変バルブタイミング機構を備えるエンジンのいわゆる腰下は共通の構造だ。しかしヘッド周り、燃料供給系統は、低速での力強さが要求される一方、トップエンド・パワーへの注力が必要ないスポーツスターSに合わせた構造とされる。

低速トルクの充実に合わせてDOHCヘッドのカムプロファイルを変更したのはもちろん、スロットルバルブ径やインテークバルブ径も絞って低速からのレスポンス向上に充てている。ピストンやヘッドの構造も新設計とされ、圧縮比も13:1から12:1に低められた。スペックのうえでは、152ps/8750rpm、128Nm/6750rpmのパン・アメリカに対して121ps/7500rpm、125Nm/6000rpmと、大きく最高出力を絞り込んできたことが注目されるが、実際の乗車感覚はどうなのだろう。さっそく、ガレージで待ち構えている黒のスポーツスターSにまたがった。

他社の1200ccクラスを凌ぐ加速感

新型スポーツスターSは、モーターサイクル・ショーの会場からそのまま出てきたような未来的なスタイリングを備えている。メインキーはリモートシステムで、右手のスウィッチでイグニッションをオンにし、エンジンをボタンで起動するシステムだ。

シート高は755mmと、従来のIRON 1200より20mmほど上がっているものの、身長172cmのライダーの両足裏は、べったり接地する。バイクの厚みとしてはニーグリップが自然にできるサイズであるが、前方にステップがあるフォワード・コントロールが標準採用とされているため、そこだけが特殊なハーレーらしさを訴えてくる。

今回、エンジニアに話を聞いて理解したが、エンジン搭載方式が独特なスポーツスターS/パン・アメリカでは、車体に直接伝わる振動を低減するためにふたつのバランサーを駆使しているほかに、フライホイールもかなり軽量化しているという。それゆえ、発進の瞬間にはトルクが思ったほど得られなくて、気をつけないと最悪の場合はエンストをしてしまう。

パン・アメリカの場合は比較的その傾向がわかりやすかったのだが、このスポーツスターSでは、最高出力を削ってでも徹底的に低速トルクを高めるセッティングにより、このシステムゆえのボトムエンドトルク不足はほとんど感じずに済んだ。代わりにむしろ、クラッチをつないだ一瞬後に訪れる野太いトルクには、他社の1200ccクラスを凌ぐグイッという加速感が放たれる。

市街地での第一印象としては、フロントタイヤが太いことによりある程度低速での方向づけを自分で意識してあげなければならないことと、フォワード・コントロールゆえ独特なライディング・ポジションを強いられることが印象的だ。空冷の時代と趣は異なるものの、Vツインのサウンドと鼓動は適度に五感を刺激し、サスペンションも適度に固められていて安心感のある乗り心地だ。前後ともスチールのサブフレームでエンジンを挟み込む構成ゆえか、パン アメリカで経験したよりもボディに伝わってくる振動は少なめであるように感じた。

ライディングモードによる変化

混んだ市街地をくぐり抜け、都市高速のランプへ。ライディングモードのスウィッチを何度か押して、スポーツ・モードを選択する。一瞬の全開加速を試みると、これが予想以上になかなか速い!

2000rpmを超えた直後から、歯切れのよいVツイン・サウンドとともに供給されるトルクは、まるで土砂降りの雨に身を晒したときのように遠慮なく全身に刺さり、8000rpmに刻まれたレブリミットまで淡々と車速を高める。これまでのスポーツスター系モデルの加速力とは比較にならない力強さであるほか、トップエンドに焦点を当てたパン・アメリカや、逆に低速での力強さと迫力を重視した107あたりの空冷Vツインと比較しても、部分的には“速い!”と感じる人がすくなくないのではないだろうか。

とにかくエンジンスピードによらずアクセルを開けただけのトルクが得られるのだ。こうした特性が過敏に感じられるなら、ライディングモードでロード・モードを選べば、滑らかで従順なレスポンスを得ることもできる。

フットワーク面では、前述したとおり前後のタイヤが太いため、多少スピードが出てもグリップレベルに不安をおぼえるシーンがないというアドバンテージがある。安定感を重視したセッティングゆえ、曲がりやすさの観点ではギリギリで、積極的に前後荷重をコントロールしたほうが思ったようなコーナリング曲線を描けるだろう。

乗り心地も、この充分に高出力なエンジンに合わせたセッティングがなされている。昔のスポーツスターほど路面からの突き上げをダイレクトに感じることはないものの、かなり引き締まったダンピングである。

この辺りにオーナーそれぞれ好みがあることはハーレーも先刻承知で、前後サスペンションにはコンプレッション、リバウンド、スプリングプリロードの調整機能があらかじめ用意されている。横から見るほどシートは薄っぺらくなかったことを付けくわえておく。

さまざまな購入方法で夢を現実に

空冷モデルのプリミティブな魅力はいまだ絶対的ではあるものの、新世代のハーレーを送り出すにあたり、彼らは自らのブランドの核となる部分をしっかりと見極め、磨き上げたうえで最新の衣服で包んだように思える。

スポーツスターSの車両本体価格は185万8000円と、従来のスポーツスター・シリーズである883に比べ約47万円、1200に比べ約43万円の上昇となる。価格は若干上昇したとはいえ、パフォーマンスの向上に比べれば妥当な水準であり、200万円を切ってきたことは高く評価したい。

現代ではハーレーがごく最近導入したリースプログラム「HARLEY | バイクリース」や、残価設定ローン「ハーフアッププラン」、最長150回の長期ローンなどさまざまな購入方法があるから、経済的な参入障壁はかなり下がってきているのではないだろうか。事実、最近のちょっとしたバイク・ブームも手伝って、スポーツスターSのウェイティングリストはすでに数百台におよんでいる模様だ。

一生失われないであろう、特徴的なモーターサイクルとの記憶を、人生のどこに組み込むべきか。悩むのは楽しいが、実行に移すことはもっと楽しい。

文・田中誠司 写真・安井宏充(Weekend.)

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みんなのコメント

3件
  • 以前88年式のスポスタ1200に乗ってました。

    エンジンの信頼性も高そうだし。素直にカッコいいですね♪角目(というか弁当箱目?w)は最初「えっ!」って思いましたが、慣れると悪くないと思います。一度は乗ってみたいですね。
  • カッコいいと思うけど、ハーレーの水冷ってだけで毛嫌いする人が多い日本では、売れるのかどうか…。
※コメントは個人の見解であり、記事提供社と関係はありません。

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