クラウンクロスオーバーの登場で俄かに「時代到来」の予感がぷんぷん漂うファストバックスタイルのボディデザイン。中高年ドライバーのみならず、若者世代にも響いているという。ここでは国産&輸入車のファストバックモデルをピックアップ! カムバック! 美しくもスカしたファストバック車たちよ!
※本稿は2022年9月のものです。清水氏による「イケてるファストバック度」は六つ星が最高評価になります
文/清水草一、写真/ベストカー編集部 ほか
初出:『ベストカー』2022年10月26日号
時代到来? 古典的カーマニア最後の桃源郷?? イケてるファストバック国産&輸入車カタログ
■これからの主役は4枚ドアファストバック!? 現行国産ファストバック図鑑
トヨタ クラウンクロスオーバー(イケてるファストバック度:★★★★★★)…SUV風のスタイリングにより、最低地上高が高くたくましく見える(実寸は145mmで先代から10mmのアップ)。リアタイヤ上のウエストラインは大きく膨らんで跳ね上がり、後ろ足で強く蹴るイメージを出している。それでいながら、斬新で都会的。マッチョさとスマートさを同時に実現しているのだ!
ファストバックがイケてるぜ! とは言うものの、国産4枚ドアファストバック車はこれまで売れたためしがない。
よって現在のモデル数は、クラウンクロスオーバー/セダンにマツダ3、シビック、プリウス、アコードを加えた6車のみ。
うちクラウンセダンは未発売だが、どれもスタイリングのレベルは高く、イケてるのが心強い。
クラウンクロスオーバー(トヨタ)は、ファストバック界の巨大隕石だけに、言うまでもなく斬新だし、イケている。
クラウンセダン(トヨタ)はFRベースのセダンのようなので、クロスオーバーよりは保守的だが伸びやかさは世界レベルだ。
ただ手頃さを考えると、シビック(ホンダ)の魅力はクラウン軍団を若干上回る。しかもシビックには、「タイプR」というスターがいる。
タイプRの人気爆発によって、シビック自体がブランド化し、「ファストバックがイケてるぜ!」というムーブメントを加速させる可能性があると見る。
国産ファストバック界は、クラウンとシビックが牽引車だ!
■スポーツカーもまだ死なん!
国産スポーツカーは絶滅寸前で踏ん張りを見せ、ファストバッククーペもフェアレディZ(日産)、GR86/BRZ(トヨタ/スバル)、レクサスLC、スープラ(トヨタ)の5モデルに増えた。うち3台がトヨタなのだから、章男社長に敬礼!
いまや国産スポーツカーは、存在するだけで貴重で、デザインのよし悪しまで論じられることはあまりないが、この4台を見比べると、フェアレディZとレクサスLCのスタイリングの秀逸ぶりが浮き彫りになる。
フェアレディZは、デザインの発表当時、「顔がNHKのどーもくん」といった否定論もあったが、フタを開ければ、あっという間に受注停止となる人気ぶり。
初代を彷彿とさせるデザインは、懐かしくも現代的で、絵に描いたようなレトロモダン。特にバックラインはシンプルで美しい。傑作だ!
日産 フェアレディZ(イケてるファストバック度:★★★★★★)…ルーフラインは、フロントウィンドウのすぐ後ろからなだらかに下がり始め、テールまでためらいなく一直線に続く。居住性を一切無視した、これぞファストバックとも言うべき美しいラインだ。イケてるファストバック度は初代と互角
レクサスLCのデザインは、徹底的にゴージャスだ。
そのゴージャスさに埋もれてしまって目立たないが、実は「イケてるファストバック度」も相当高い。うむ、イケてるぜ!
レクサス LC(イケてるファストバック度:★★★★★☆)…隠れた(?)名ファストバッククーペ。ヘッドランプやテールランプの複雑な造形に目が行くが、わずかな曲線を描くバックラインは、伸びやかで美しい。サイズを存分に生かしたデザインだ
■輸入車ファストバック図鑑
欧州は半世紀前から、ファストバックの震源地だったが、ワゴンやそれに続くSUVブームに押され、一時は日陰の存在に。
それを救ったのが、2005年のメルセデスCLS(4ドアクーペ≒ファストバック)と、それに続くアウディA5およびA7スポーツバックのヒットだった。
欧州におけるファストバックの復権は、日本同様、セダン離れに原因がある。
もはやフォーマルなセダンを選ぶ理由がなくなるなか、SUVでは実現できないスポーティな走りと、カジュアルでスタイリッシュなスタイリングを両立させるには、ファストバックが最適だった。
全高を若干抑え居住性や積載性を犠牲にすることで、ライトな実用的スポーツカーの役割も担う。
ドイツ勢に続いて、現在激しくファストバック化を進めているのがフランス勢だ。今やフランス製高級セダンの需要などない。
そこでプジョー/シトロエンは、SUVに軸足を置きつつ、スタイリッシュな5ドアファストバックを用意するようになった。それがセダンに代わり、フラッグシップモデルの地位を与えられている。
なかでも注目すべきはシトロエンC5Xとプジョー408。どちらもホイールアーチガードを装着し、SUV風のデザインに仕立てることで、よりアクティブなイメージを演出している。
プジョー 408(イケてるファストバック度:★★★★☆☆)…日本には未導入だが、こちらもクラウンクロスオーバーと同じく、SUV風のファストバックだ。ラインは直線的でシャープなイメージ。スタイリッシュだが、素直すぎて、造形に深みが足りない気がしないでもない
それはまさに、クラウンクロスオーバーの方向性そのもの!
期せずして日仏ほぼ同時に、同じ答えが出た。今後ファストバックは、SUVと微妙に融合しつつ、進化していく可能性が高い。
我ら古典的カーマニアとしては、シュッと速そうなカッコと適度な実用性を両立させたファストバックこそ、次期主力戦闘機の有力候補ではないか!?
私がごく最近、BMW3シリーズからプジョー508に乗り換えたのも、それが理由だ。もう後席に人が乗ることは稀。
荷物もさほど積む必要なし。よりスポーティでイケてるクルマで、おっさんライフを輝かせたいのだ! 涙。
■結論!
スタイリッシュなファストバックは、古典的カーマニア最後の桃源郷かもしれない! スポーツカーはムリでも、4枚ドアファストバックなら現実的! おっさんマニアはまだ死なんぞぉ!
【番外コラム】海外のファストバックスポーツカーは百花繚乱!
AMG GT。FRレイアウトのファストバック・スーパースポーツ。5ドアの「GT 4ドアクーペ」も登場した
欧州ではセレブのパーソナルな乗り物として、ハイパフォーマンススポーツカー需要が旺盛だ。
それらは、スポーツカーの2大勢力であるノッチバッククーペ(カブリオレ含む)とファストバッククーペに二分されるが、優美なファストバッククーペがやや優勢。
ドイツ御三家やジャガー、アストンマーティンといったプレミアムブランドは、ファストバックの高級スポーツカーを多数ラインナップし、速さとゴージャスさを競っている。
BMW M4。巨大化したキドニーグリルばかり注目されるが、典型的なスタイリッシュ・ファストバッククーペ
アウディ eトロンGT。ポルシェ・タイカンと兄弟関係にある、4枚ドアのEVグランツーリスモ。見事なファストバックだ
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