この記事をまとめると
■2024年6月からアメリカ・ニューヨーク州の一部地域でロードプライシングが実施される
年末年始は適用外でした! そんな高速道路の「休日割引」で料金はどれくらい安くなるのか?
■ロードプライシングはロンドンでも実施されており、適用範囲も導入当初よりも拡大されている
■コンパクトな都市ならばクルマの流入制限という意味でロードプライシングは効果的だ
治安悪化が渋滞を招いたニューヨークでロードプライシング導入
先日、アメリカ・ニューヨーク州・ニューヨーク市で一般的にはロードプライシングと表現したほうがわかりやすい、「中央業務地区通行料(CBDT/Central Business District Tolling)」が導入されると報じられた。2024年6月から実施予定となっており、対象地区はマンハッタン地区となり、そのなかでもダウンタウンとミッドタウン地区といった商業地域に限られるとのことである。対象地区を通行する全車両が原則徴収対象となり、報道では乗用車で15ドル(約2300円)、トラックで24~36ドル(約3700円~約5500円)になるとのことである。
報道では当該地区は慢性的な渋滞などもあり、平均車速が11kmほどになっているとのこと。渋滞緩和及び大気汚染や地球温暖化抑止といった目的で導入されるようである。
また、筆者の私見では、ここのところニューヨーク市内の治安悪化が目立っており、地下鉄の駅や車内での犯罪も多発しており、公共交通機関が十分機能していないとの報道が目立っている。そうなると、郊外からの通勤者などが自家用車でマンハッタン島を訪れるケースも目立つことで交通渋滞がより深刻にならないようにするためにも効果を発揮するのではないかと考えている。
筆者は1980年代末期に初めてニューヨークを訪れている。当時の地下鉄車内には日本でいうところのサラリーマンやOLなどの姿は見られなかった。現地で知り合った同年代の日本人が5番街の有名宝石店で買い物をするとのことで同行し、買い物をした帰りにそこの宝石店の手提げ袋を持って地下鉄に乗ると、同じ車両に乗車していた現地の人から「こんなものを持って乗っていたら襲われるよ」と注意されたことがある。
通りに出てみると、郊外の住宅街における日本でいうところの自治会単位でチャーターした通勤用バスのバス停がたくさんあり、郊外に帰るビジネスマンが夕方乗り込む光景を見ていた記憶がある。
いまのニューヨーク市内は当時かそれ以上に治安が悪化しているというので、マイカー通勤が増えていることは容易に察しがつく(リモートワークが進みオフィスの空室も目立っているようだが、全員が自宅で仕事をしているわけでもない)。
また、対象地域はかなり限定的な地域となっている。1980年代後期、まだ大学生だった筆者は現地で知り合った日本人の大学生と一緒にセントラルパークから自由の女神のあるリバティ島へ向かう船の乗り場まで歩いたことがあるが、それほど負担なく歩くことができる距離だったことに驚いた。
地下鉄は、同じ線路を複数の路線が島の中心部にてマンハッタン島内を縦方向に走っている。そのため、両サイドへ向かうときには基本的には最寄り駅はないので結構歩くことになる。日本の東京ほど地下鉄路線が網の目のように張り巡らされていないのである。
こうなってくると、狭い地域内であってもクルマがあったほうが移動は格段に便利ということもあるが、日本と根本的に違うのは治安上の問題もあり、どこでも歩きまわるということが難しく、渋滞がひどくなっているのではないかと考えている。いまさら、抜本的な地下鉄路線の拡充などはできないし、治安回復もままならないなか、渋滞緩和のためロードプライシングが導入されたようである。
すでにマンハッタン島外からマンハッタン島に入るときに利用するトンネルや橋の一部は有料となっているのだが、流入量を減らす効果はあまりなかったようだ。今回、ロードプライシングが導入されてもたいした効果は期待できないという地元の人のコメントが紹介されていた。円換算すると、乗用車で2300円といっても、マンハッタン島ではラーメンも食べられない金額なので、確かに目に見えた効果は期待できないかもしれない。
すでに一定の効果を挙げていたロンドンでは適用範囲を拡大
イギリスの首都ロンドンでは、排気ガス規制に適合しない車両への通行料となる「ULEZ(超低排出規制ゾーン/Ultra Low emission Zone)」の適用範囲拡大への大規模抗議が一時話題となっていた。そもそもすでに基準未達成車両の所有者に対し日額12.50ポンド(約2400円)の徴収が2019年より導入されているが、今回はその適用範囲を市の中心部だけではなく郊外までに広げたことで物議を醸している。
なお、イギリスではロンドンだけではなく、イギリスのほかの主要都市でも同じような制度が導入されていくのではないかとの報道もある。
気をつけたいのは、筆者が訪れたニューヨーク(マンハッタン地区)、パリ、フランクフルトなどの先進国主要都市は、東京と比べると街がコンパクトなことに驚かされた(基本クルマでしか移動できないロサンゼルス市などはエリアが広大すぎるが)。東京はそれこそ江戸のころから世界的にも大規模都市となっていたが、普段、東京23区内をチョロチョロ移動している限り、あくまで筆者個人としては、東京でいわれる都心部レベルだけを見ても、欧米の主要都市は東京都心部よりも負担も軽く徒歩で移動可能で「コンパクトな街だなあ」という印象を受けた。
東京都心部よりもコンパクトとなれば自動車の流入量を調整する意味でもロードプライシング導入をすすめる動きもやむを得ないとも感じてしまう。
しかも個人差はあると思うが、いまどきの東京都内はバブル経済のころに比べれば渋滞発生もかなり限定的なように感じている。首都高速をはじめ周辺での道路整備が進み、都心を単なる「通過点」として流入してくる車両を減らしていることも大きい。
しかし、それよりも「失われた30年」ともいわれるほど経済が停滞したことも影響しているようにも感じている。少なくとも、ニューヨークのマンハッタンのように、平均車速が11kmというようなヘビーな渋滞状況が街なかで起こっているという印象は東京にはない。
交通渋滞は時間など多くの損失や、地球環境への負荷も高まってしまうのでけっしていいこととはいえない。ただ、少し前にタイの首都バンコクを訪れると、コロナ禍前のようなヘビーな渋滞が戻ってきていた。時間がかかり、タクシー料金も高くなってしまうのだが、「渋滞が戻ってきた」と、バンコク名物でもある渋滞の本格復活に嬉しくなってしまった。
ロンドンの適用範囲拡大や、ニューヨーク市の予定どおりのロードプライシング導入、そしてバンコクの本格的な渋滞の復活、いずれもそれだけ経済活動がコロナ禍前レベルへ順調に回復しているバロメーターのように見える。それに対して東京を見ると……、渋滞が少ないのが道路網などインフラ整備や都市開発などのおかげであることを信じたい。
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