ひとつのステージの中でも路面状況が大きく変わり、ラリーカーが走行するたびにコーナーの“インカット”部分のグラベルが路面に掻き出される影響でグリップレベルも激しく変化することから、ターマック(舗装路)ラリーのなかでもとくに難しいイベントとして知られる『クロアチア・ラリー』で、日本人ラリードライバーの勝田貴元は総合6位入賞を果たした。
イベント後、オンラインによる合同取材に応じた勝田は、WRC世界ラリー選手権でのライバルであり友人でもあったクレイグ・ブリーンの事故死というショッキングな出来事から間を置くことなく開催された同ラリーを振り返るとともに、ワークスノミネートを受け3台目の『トヨタGRヤリス・ラリー1』をドライブすることになる次戦ラリー・ポルトガルに向けた意気込みを語った。
トヨタ連勝、エルフィン・エバンスが2021年以来の勝利。勝田貴元は6位/WRCクロアチア
■シェイクダウンでの感触は悪くなかったが、SSではグリップが不足
勝田曰く、やはり今回のラリーは通常のラウンドとは雰囲気が違うなかでのスタートになったといい、彼自身も切り替えるのは簡単ではなかったようだ。それでも、「グリーン選手のためにも、皆でしっかり最後まで走りきる」という想いを胸に競技に集中していった勝田だったが、競技初日の金曜は路面の見きわめの難しさからうまくリズムに乗れず、ラリーの序盤からタイムを失う展開となった。
この要因としてはレッキと呼ばれるステージの下見走行が雨の中で行われたことや、路面状況の面で不利になる後方の出走順だったことによるグリップ不足などが挙げられたが、オーバーシュートやSS5でのスピンもそのひとつとなった。
また、SS6では雨が降ることを見越してMスポーツ勢と同様にウエットタイヤを履いて山岳ステージに臨んだが、予想に反して路面が乾いておりこの選択が裏目に。このミスチョイスによりさら40秒ほど遅れを取った。当時の判断について、勝田としてはすでに大きくタイムを失っていたことから「トライできることはトライしてみよう」と、トヨタ勢でただひとり雨用タイヤを投入したという。
また、この判断の裏にはSS5とSS6をつなぐ山岳地帯のロードセクション(リエゾン区間)で電波が入らず、ステージ開始前にチームのエンジニアと情報交換ができなかったことも関係している。今大会で優勝したエルフィン・エバンスを含む勝田のチームメイト3人がドライタイヤを選択したのは、SS6開始1時間前の時点でトヨタのクルー全員に対して「スリック(ドライタイヤ)で行くべき」という情報が入っていたためだ。それにもかかわらず勝田を動かしたのは、ライバルチームの姿だった。
「準備としては僕たちもドライで行く方向で用意していました。ただステージのスタート時間を待っている間に(オット・)タナク選手がレインタイヤを付け始めていて、もしかしたらMスポーツには何かしらの情報が入っているのではないか、と。それに対して自分たちはまったく情報が得られていない状況で、さらに僕としてはすでに結構なタイムを失っていたこともあって、賭けじゃないですけど雨が降っている可能性に賭けて自己判断でレインを履きました」と勝田は説明している。
改善を進めるなかで迎えた土曜日については、ダンパーに不具合が発生。デイ2の午後は急きょ本来使用しないダンパーを使っての走行になったと振り返った勝田は、「そこでかなり(ペース的に)苦戦してしまった部分がクロアチアでの大きな課題のひとつだったかな」と続けた。
■第5戦ポルトガルは攻めのアプローチに
もとのダンパーに戻した最終日のデイ3は、セットアップの改善が進みフィーリングも良くなった影響もあり安定してステージトップ4、トップ5タイムが記録できるようになった。最終パワーステージでも4番手タイムを刻みボーナスの2点ポイントを獲得した。
過去2戦のメキシコ、スウェーデンでデイリタイアを喫した後、今戦はその悪い流れを断ち切るべく“抑える”まで行かずとも“見ながら”の走行でラリーを進めた勝田。彼はクロアチア・ラリー全体を振り返ったとき、次のように語っている。
「今回はとにかく走り切ることを最優先に、一線を超えないところで走り、最後までしっかりゴールまで運ぶことができました。(パワーステージのSS20は)4番手タイムで2ポイントを加算できたので、そこはひとつポジティブな点だと思っています」
「全体としてはそういった形で総合6位でフィニッシュしたのですけど、ミスとかロスタイムをなくしていくことでより良い総合順位でのフィニッシュにつながると思うので次のポルトガルはまたちょっと違ったアプローチで、思い切っていけたらなと個人的には考えています」
5月11~14日に開催されるWRC第5戦ポルトガルは、勝田にとって2年連続で4位となっている好相性のグラベル(未舗装路)ラリーだ。昨年は最終ステージまで続いたダニ・ソルド(ヒョンデi20 Nラリー1)との接戦に敗れ惜しくもポディウムフィニッシュを逃している。“三度目の正直”での表彰台獲得、それが3台目のGRヤリスで出走する次戦の目標だ。
「雨さえ降らなければ非常に良い出走順で金曜日からスタートできるので、とにかくそこで稼げるだけ稼げるように、最初から良いスタートダッシュを切れるように集中してテストを行い、良い状態でラリーに入れるようにしたいです」と語った勝田。
「(マニュファクチャラー)ポイントが関係してくる立場で走ることになるため、そこはしっかりとチームとミーティングをして、どういったアプローチで走っていくのかをちゃんと決めてからになりますが、個人的にも好きなラリーのひとつなので自分のベストをとにかく尽くして、少なくとも表彰台には登りたいと思います」
「また、そこをターゲットにさらに上を目指していくという気持ちで、状況にもよりますが、それぐらいの気合を入れてポルトガルに入っていきたいと思ってます」
過去2戦の悪い流れは断ち切れたか、という質問に対し「間違いなく断ち切れた」と力強く肯定し、「ポルトガルに向けて非常にいい流れで(クロアチア・ラリーを)終えることができた」と答えた勝田。TGR WRCチャレンジプログラム一期生として世界に挑戦する彼のラリー・ポルトガルでの活躍にしたいところだ。
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