日本のタクシーが揺れている。「相乗り」と個人所有車を旅客事業に使うライドシェアとを解禁すべしというソフトウェア面での圧力と、旧来のセダン型タクシーの生産打ち切りというハードウェア面での転換である。さらに業界は「自動運転がタクシーを不要にする」との憶測に戦々恐々だ。日本の行政と利用者は、どのような判断を下すのだろうか。TEXT◎牧野茂雄(Shigeo MAKINO)
トヨタが開発したジャパンタクシーが道を走っている。クラウン・コンフォートの後継車であり、東京オリンピックまでには東京都内の多くの法人タクシーが同車に切り替わるらしい。個人的には「タクシーはセダンにかぎる」と思っているが、果たしてジャパンタクシーとはどんなものなのか。外観にはロンドンタクシー的な趣もあるが、その中身はどうなのか……。
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昨年末から私は、街中でジャパンタクシーを見つけたら手を挙げて止め、自身の後部座席試乗と乗務員さんの声を聞く作業を続けている。タクシー会社の幹部諸氏からは「車両費は高いけれど燃費がいい。燃料代はクラウン・コンフォートの半分」と聞いているが、実際に運転している人はどう思っているのか。それと、利用者としてこれから長いつき合いになる私自身の印象である。タクシー会社経営陣も乗務員も利用者もそろって満足なら申し分ないが……。現場の声はかなり冷ややかである。ジャパンタクシーの運転席で仕事をしている数十名の乗務員さんからのコメントをまとめると、以下のようになる。
まず燃費。乗務員さんたちは一様に「いい」と言っていた。国土交通省が定める乗務勤務1回あたりの最高乗務距離は東京都とその周辺では365km。少々遠方まで乗客を送り届けて営業区域内に戻ってきても「燃料は充分に残っている」と言う。ジャパンタクシーはLPガス仕様のハイブリッド車であり、人件費の次に比率が高い燃料費を抑える効果はあるようだ。
次にボディ。「ボディは小さいが取り回しはクラウンと変わらない」が大多数の声だ。「そのうち慣れるかと思ったら慣れの問題ではなかった。前輪がどのへんにあるのか、わかりにくい」とベテラン諸氏。「神楽坂の裏道には入りたくない」と、筆者を神楽坂で拾った方。神楽坂はその昔の遊郭街であり、京都のように細い裏路地が多い一画だ。「所詮はシエンタだ。クラウンは良かった」との声を聞いた。
次にパッケージング。運転席は「とにかく狭くて、シートのリクライニング角度が足りないから仮眠を取りにくい」と大多数の方々が指摘した。「寝るのも仕事のうちだからね。クラウンやセドリックは良かった」とベテラン勢の意見は一致している。運転席の背もたれに透明樹脂のパーティションを取りつけていることについては「ただ邪魔なだけ。この程度では後部座席から危害を加えられないで済むだろうという安心感はまったくない」とのこと。
後部座席についてはお客さんからの指摘があるそうだ。「深夜に1時間ほど乗ったお客さんから、シートが硬くて座りにくいと言われた」「BMWに乗っているというお客さんは、座った第一印象がドイツ車の硬さとはまったく別もので、クッションのない板に座っているようだと言われた」という具体例も聞いた。筆者自身も同意見である。少なくともクラウン・コンフォートの後席は「お客さんのため」のシートだった。ジャパンタクシーは座面の面圧が全体的に高く、お尻の山を押してくる。欧州車のシートはお尻の山を押さえない。
それと、ジャパンタクシーは車室床面が高く座席のヒップポイントも低い。個人的にはもう少しヒップポイントが高い方がいい。そのほうがアップライトに座れる。しかも背もたれのイニシャル角度がやや寝ているから、無意識のうちに姿勢保持しようと身体が調整し、それが疲れになる。40分ほど乗って不快になった。
もう一点、電動スライドドアは便利なようでイラつく場合がある。急に降り出した雨を逃れようとタクシーを止めたとき。ゆっくり開く電動ドアにはイラッとくる。
助手席についても乗務員さんたちは文句を言っていた。「物入れがないので普段は助手席の上に釣り銭箱などを置いておくが、助手席にもお客さんが座るとまったく置き場がない」「助手席の座面の両側面がツルツルの素材なので、強目のブレーキを踏むと置いておいた物が床に滑り落ちる」はベテラン2名の発言だ。
コックピットについては年輩乗務員が不満を語っていた。「ステアリングにハザードランプのスイッチが付いているので、直進時にお客さんを乗降させるときはいいけれど、ステアリングを切って歩道に寄せたときなどは一瞬、スイッチの場所がわからない」「同じ大きさの小さなボタンが並んでいるから、操作するときはいちいち視線を落とさないと操作できない」とはHMI(ヒューマン・マシン・インターフェイス)の問題である。
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