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ベントレーのオープンホイール・レーサー 親子で仕上げたT1プロトタイプ・シャシー 後編

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ベントレーのオープンホイール・レーサー 親子で仕上げたT1プロトタイプ・シャシー 後編

V8エンジンの前にルーツ式スーチャー

ベントレーT1用プロトタイプ・シャシーには、ルーツ式スーパーチャージャーが搭載された。V8エンジンのフロント側に組まれ、クランクシャフトの回転でコンプレッサーを回す仕組みだ。

【画像】ベントレーのオープンホイール・レーサー ブロワーと最新のコンチネンタルGTも 全68枚

エンジンの回転数に制限が出るものの、ブースト圧は得やすい。排気量が6.2Lもあるため、問題にはならないと考えたのだろう。2基並んだ2インチのSUキャブレターが、盛大に空気を吸い込む。

吸気の取り回しは、マシンを手掛けたリンカー・エンジニアリング社の技術者を悩ませた。製作を依頼したバリントン・イースティック氏は当初、インジェクションやターボチャージャーも検討したという。結果として、最良の選択だったと思う。

トランスミッションは、ベントレーRタイプ・コンチネンタル用のクロスレシオ4速マニュアル。搭載位置の関係でゲートは反転しているが、ピボットリンケージでドライバー側では通常のパターンに戻されている。

それ以外の部分は、1960年代後半の仕様。ボディはコーチビルダーのモーリス・ゴム社製。ホイールはミニライトを履き、タイヤはダンロップ・レーシングだ。

1976年、バリントンは完成したTタイプ・スペシャルをシルバーストーン・サーキットでデビューさせるが、トランスミッション内のシャフト破損でリタイア。翌年、同じベントレー・ドライバーズ・クラブのレースに参加すると、トップタイムを記録した。

ポールポジションでスタートを切ったが、雨が降り出し、ボール・ナット式の曖昧なステアリングとアンダーステアが彼を悩ませた。結果的にはクラッシュしている。

数年前に買い戻したTタイプ・スペシャル

Tタイプ・スペシャルはスーパーチャージャーが取り外され、リビルド。フェンダーとヘッドライトが取り付けられ、ナンバーを取得し公道を走った。

「父は仕事用のかばんを載せて、このクルマでロンドンの高速道路を走っていました」。息子のベン・イースティック氏が回想する。

1981年にバリントンはクルマを売却してしまったが、近年ベンが買い戻している。「当初の父の計画では、ベントレーとしてTタイプ・スペシャルでのル・マン出場を考えていました」

「ロールス・ロイスがベントレーを買収し、モータースポーツ活動から距離が置かれていた時代です。ベントレー・ドライバーズ・クラブのメンバーは、レースで活躍できる強いブランドだと信じていたんです」

「ところが父は病気になり、最終的に手放しました。それを聞いたわたしは、いつか買い戻そうと考えていると、父へ伝えました。子供の頃から一緒に過ごしたクルマで、幼い頃の多くの写真にも写っています」

「15年前に発見した売値は、300万ポンド。自分のジャガーDタイプを手放す必要があり、決心できなかったんです」

「数年前に、もう一度売りに出ているのをインターネットで見つけました。オーナーが誰なのかは、追跡していたのでわかっていました。彼は購入時と同じ金額で売ると、申し出てくれたんですよ」

「2007年までのオーナーはコンクール・イベントへ出展していましが、あまりお金は掛けなかったようです。そのおかげで、オリジナル状態が維持されたのでしょう」

ボディ塗装はオリジナルのブルーのまま

Tタイプ・スペシャルがイースティック家へ帰ってきたのは、2017年3月。ベンのジャガーを世話している、オックスフォードの北にあるクラシック・パフォーマンス・エンジニアリング社へ直行した。

「最初にオイルやフルード類をすべて交換。まずサーキットを走れる状態に仕上げました」。と話すのは、レストア作業を請け負った同社のジェームズ・ワディントン氏だ。

8月には、ブロワーを外した状態でベントレー・ドライバーズ・クラブのイベントに出場。30年ぶりのシルバーストーン・サーキットで、スペシャル・シャシーは予選を2位で通過した。一度トップに出るものの、エンジンがオーバーヒートし4位で完走している。

「12月の寒い雨の日にもテストを行い、元のセットアップを確認しました。それから、すべてのボルトとナットを外してレストアしています」

「サスペンションや安全に関わるすべての部品は、ひび割れがないか検査し、表面を加工し直しています。配線類は引き直し、シャシーは再塗装。ボディは当初仕上げられた、ジャガーのミッドナイト・ブルーのままです」

「アメリカではボディサイドにステッカーが貼られていました。ですが、幸運にも塗装は殆ど傷んでいなかったんです」。ワディントンが振り返る。

当初積まれていたRタイプ用のトランスミッションは、200馬力程度にしか対応できなかった。ベントレーのレストアではアキレス腱の1つといえ、このスペシャル・シャシーの場合も2019年と2022年にダメージを受けているという。

親子2代で完成したレーシングカー

「そこで自社で設計し、ギアとシャフトを作り直しました。シャフトを支持する、金具も追加しています。太いトルクでシャフトがずれて、ギアが駄目になるのを防ぐために」

エンジンはオリジナルのままだったが、ワディントン達はブロックを強化するストラップを設計した。ルーツタイプのスーパーチャージャーもオリジナル。部品の一部は、マシンを最初に仕上げたリンカー社の創業者が保有する、倉庫で発見された。

ワディントンが続ける。「スーパーチャージャーを組んだのに合わせて、回転数全域で燃料を正しく供給できるよう、キャブレター部品の開発もしています。リンカー社では、そこまでは実施されていませんでした」

レストアでは、ラック&ピニオン式のステアリングラックも組み込まれた。「1960年代のロールス・ロイスとベントレーは、GM社の協力を受けていたので、それを選んでいます」。とベンが説明する。

「父も1978年シーズンに向けてラック&ピニオン式への変更を考えていましたが、実現しませんでした。オリジナルのボールナット式はジャガーのサーボとともに組まれ、公道での走行には適していたようです」

Tタイプ・スペシャルは、親子2代を通じて見事に完成した。息子のベンは、2021年8月に開かれたベントレー・ドライバーズ・クラブのイベントの1つで優勝を掴んでいる。「最高でしたよ。ベントレー側からの祝福も受けることができました」

協力:クラシック・パフォーマンス・エンジニアリング社、スクランブラー社

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