どんなクルマ?
text:Motohiro Yamazaki(山崎元裕)
【画像】S60 T6ツインエンジンAWDインスクリプション 全38枚
photo:Masanobu Ikenohira(池之平昌信)
まずは改めて、現在のボルボ車を体系化してみよう。
ボルボが「レンジ」と呼ぶボディ・タイプは、S=セダン、V=エステート、クロスカントリー=Vをベースとして車高を高めたクロスオーバー、XC=SUVの4タイプ。
そして車格を表す「シリーズ」は、上から90、60、40の各々が設定されているが、S40は2012年を最後に生産が中止され、またS90は2017年に現行モデルが500台の限定車として導入されるが、以後再度の販売は行われていない。
V、クロスカントリー、XCはすべてのシリーズが日本でも幅広いラインナップで用意されているのとは対照的に、日本で購入できるボルボ製のセダンは、今回紹介するS60に限られるというのが現状なのだ。
確かに現在の自動車マーケットを見ても、世界的なトレンドはSUVであり、クロスオーバーにあることは間違いのないところだ。実用的なラゲッジルームと高い機能性、そして自動車の電動化が進む中で、とりわけSUVは自動車のパッケージングとしては最も魅力的な存在といえるのかもしれない。
だがその一方で、家族が各々自動車を必要とするアメリカのような市場では、セダンが必要とされていることもまた事実。ボルボもまたそれを熟知しており、大きな市場の近くでそれを生産するのが最も効率的だというポリシーのもと、このS60をアメリカのサウスカロライナ州に設立したチャールストン工場で行うことを決定している。
またアメリカはディーゼル車の比率が極端に少ない市場であることから、この工場ではディーゼル車の生産も行われない。つまりS60にはガソリン車と、ツインエンジンと呼ばれるPHEVの両パワーユニットのみが組み合わされることになるわけだ。
ボディ・サイズ 全幅1850mm
今回試乗したS60は、そのPHEVのシステムを搭載した「T6ツインエンジンAWDインスクリプション」。
日本での新型S60の発表時には、さらに高性能な「T8ポールスター・エンジニアード」が限定車として導入されたのだが、その台数はわずか30台。それは一瞬で幻の限定車となってしまった。
つまりボルボのセダン、しかも高性能なセダンを待ち続けたカスタマーは、日本にも数多く存在したのだ。
ドイツの御三家ではなく、あえてボルボというブランドを望むカスタマーは、はたしてそれにどのような魅力を感じ、また熱望するのだろうか。それを知ることもまた、今回の試乗の大きな目的の1つだった。
簡単に試乗したT6ツインエンジンAWDインスクリプションのスペックを紹介しておこう。まず気になるボディ・サイズは、全長×全幅×全高で4760×1850×1435mm。
これは先代のS60と比較して全長では125mm長い設定で、同時にホイールベースも95mm長い。一方全幅と全高は、各々15mm、45mm小さな数字だ。
最小回転半径は5.7m。まずは外観から想像するとおりのサイズ感、そして取り回しの良さは期待できると考えてよいだろう。
上質なシート/広い後席
ホイールベースが延長されたことで、キャビンの空間も特に後席まわりでは大きな余裕が生まれた。特にニー・クリアランスは、先代がわずかに15mmだったのに対して、新型は51mm。
シートの座り心地は前後ともに素晴らしく、パーフォレーテッド・ナッパレザーを用いるフロントの電動シートには4ウェイのランバーサポート機能やマッサージ機能も備わるほか、シート構造自体は上級モデルのS90と同様のものとされている。
フロントに搭載されるエンジンは、1968ccの直列4気筒DOHC 16バルブ・ターボ&スーパーチャージャー。
さらにエンジンと8速ATの間には最高出力で46ps、最大トルクで16.3kg-mを発揮するエレクトリックモーターが組み合わされており、これはパワーブーストを始め、バッテリー充電用のオルタネーター、エンジンのスターターモーターなどの役割を担う。
最高出力と最大トルクは、それぞれ253ps、35.7kg-mの最大トルクを誇る。とりわけ印象的なのは、1700~5000rpmまでの領域において、完全にフラットに最大トルクが発揮され続けられること。このパワーユニットによる駆動輪は前輪だ。
さらにリアアクスルにはもうひとつのエレクトリックモーターが搭載され、87psの最高出力と24.5kg-mの最大トルクで後輪を駆動することで、駆動システムはAWDとなる。
どんな感じ?
96のセルに分割されたバッテリーは、車体の中心下部、すなわちセンタートンネルの部分に配置されている。その電力量は34Ah。充電時間は200Vの普通充電で2~3時間で、フル充電からなら約45kmのゼロエミッション走行が可能になるという。
このS60はもちろん、ボルボの最新プラットフォーム、SPA=スケーラブル・プロダクト・アーキテクチャを使用して設計されたもので、最初から電動化への対応も考えられていたため、バッテリーを効率的にこの位置に搭載することができた。もちろんそのための特別な強化策も万全に行われている。
さっそくS60 T6 AWDインスクリプションのドライブを始めよう。
まず誰もが感動するのは、やはりその造形の美しさだろう。先代のS60もセダンとして非常に魅力的な、まとまりのあるスタイルを実現していたことを思い出すが、新型のデザインは、さらに面構成の美しさを強く主張した実にダイナミックなものだ。
とりわけ印象的なのは、ボディ・サイドを流れるプレスラインとウエストラインのコンビネーション。リアドアからリアフェンダーに向けて一気にボリューム感を増す造形は、フットワークの力強さを見る者に印象づけてくれる。
アッパーラインも同様に美しい。ボディ・サイドからは、近年流行の4ドア・クーペのシルエットにも見えるスタイルだが、しかしながらルーフラインは後席まできちんと高く描かれており、トランクルームもまたその存在を主張する。
インスクリプションの車内は?
フォーマルな場にも、そしてもちろんさまざまなライフスタイルの足として、美しさのみならずユーティリティの高さを外観から感じさせるデザインといえるだろう。
試乗車のインスクリプションは、T6シリーズの中では上級グレードに位置づけられるモデルだけあり、キャビンの上質感や装備内容には、物足りなさを感じることは一切ない。
フロントシートはサポート性に優れ、センターコンソール上にはこのグレードの専用装備となる、スウェーデンのオレフェス製クリスタル・シフトノブが、それが操作される瞬間を待っている。
センターコンソールには、ナビゲーションのほか、このクルマのさまざまな機能を管理する9インチ・サイズのタッチスクリーンがレイアウトされ、直感的な操作が可能だというのだが、短時間の試乗では昔ながらの物理スイッチの方が便利に思える。とはいえこれは時間が解決する問題なのだろう。
本来ならば可能なはずのスマートフォンとの統合も、今回はそれを行わないまま返却の時間を迎えてしまった。
プラグイン・ハイブリッド・システムには、エンジンやミッションのキャラクターを好みに応じて、EV走行を優先する「ピュア」、エンジンとエレクトリックモーターを効率的に使い分ける「ハイブリット」、そして両者のパフォーマンスをフルに使用する「パワー」、4輪に常時最適なトラクションを配分する「コンスタントAWD」という4つのドライブモードが搭載される。
コーナリングが得意
ドライブを始めてわずかな時間で先代モデルからの違いを感じたのは、シャシーの進化だった。
新型S60にはフロントにダブルウイッシュボーン、リアにインテグラルアクスルを使用したマルチリンク式サスペンションが採用されている。
驚かされるのは、そのサスペンション剛性の高さだ。
試乗車の走りには十分なしなやかさが感じられたし、コーナリングでは正確で確かな手応えを持つステアリングとの組み合わせ、そしてエステートよりさらに好印象を強めた剛性感とともに、スポーツカー並みのダイナミックな走りさえ楽しむことができるのだ。
ここで大きな特長としてクローズアップされてくるのが、最大トルクで24.5kg-mを0~3000rpmまでフラットに発揮してくれる、リアのエレクトリックモーターの存在。このリアからのトラクションが、コーナーからの脱出時には実に効果的なのだ。
「買い」か?
ピュア・モードを選択して体験したEV走行も、常にナチュラルなフィーリングに徹していた。
ブレーキからの回生にどれだけの不自然さがあるのかは最初から気になっていた問題だったが、あえて指摘されなければそれは気づくことがないほどのものといえたし、先行して導入されたV60の同モデルと比較しても、違和感はかなり解消されてきたのではないかと思える。
エステート=ワゴンやSUVでなければならない理由を考えるよりも、セダンを選ばない理由をもう一度考えてみたい。
今回の試乗ではリアのトランクルームなど、さまざまな実用性をチェックしてみたし、また世界最高ともいえるボルボの安全装備の数々にも改めて感動させられた。
ライフスタイルの変化で、もはやSUVやエステートの必要がなくなったというファミリー。そしてクルマの基本はやはりセダンにありというカスタマーには、ドイツ御三家の同クラス車に加えて、ぜひこのボルボS60を選択肢のひとつに加えていただきたい。
S60 T6ツインエンジンAWDインスクリプション スペック
価格:779万円
全長:4760mm
全幅:1850mm
全高:1435mm
最高速度:-
0-100km/h加速:-
燃費:13.7km/L(WLTCモード)
CO2排出量:-
車両重量:2010kg(電動サンルーフ車:+20kg)
パワートレイン:直列4気1968ccターボ+スーパーチャージャー+モーター
使用燃料:ガソリン
最高出力(エンジン):235ps/5500rpm
最大トルク(エンジン):35.7kg-m/1700-5000rpm
最高出力(前モーター):46ps/2500rpm
最大トルク(前モーター):16.3kg-m/0-2500rpm
最高出力(後モーター):87ps/7000rpm
最大トルク(後モーター):24.5kg-m/0-3000rpm
ギアボックス:8速オートマティック
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