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エリオ・カストロネベス、4度目となるインディ500制覇の鍵は“ラインを変えても戦えるマシン”

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エリオ・カストロネベス、4度目となるインディ500制覇の鍵は“ラインを変えても戦えるマシン”

 21回目のインディ500出場だったエリオ・カストロネベス(マイヤー・シャンク・レーシング)がついに4勝目を挙げた。インディ500は昨年に続き2回目のチャレンジだったアレックス・パロウ(チップ・ガナッシ・レーシング/CGR)は2位。ゴールでの2台の差は0.5秒以下とわずかだが、インディ500においてウイナーと2位の違いはとてつもなく大きい。

 最後に勝敗を分けたのは、バックマーカーたちの作るタービュランスだった。今シーズンに向けてはエアロパッケージのレギュレーション変更が行われ、ダウンフォースが増やされている。マシン下面でより多くのダウンフォースを稼がせるパーツ類を用意し、空気が上面をスムーズに流れるようにさせることでマシン同士が近づいて走れる状態を作り上げることが指向されており、それは狙いどおりに達成されていた。

届かなかった残り6周。チームの戦略を悔やむ佐藤琢磨「ライバルたちと満タンのフレッシュタイヤで戦いたかった」

 レースの土壇場、ゴールまで20周を切ってから、ハイペースで続いていたトップ争いは、バックマーカーたちが作る長い列へと急速に近づいていく。その差がまだ大きいころは、先頭を走るパロウにアドバンテージがあった。しかし、カストロネベスは少しずつ自分のマシンに当たる風が変化してきていることを感じ始めていたのだろう。彼はパロウの前には出ず、あえてその走りを見続けて、最良のタイミングを待ち続けていた。

 連なって走るバックマーカーたちが作る乱気流は、トラフィックのなかをパロウより速く走れるマシンを持っていたカストロネベスに有利に働いていた。なぜかと言えば、豊富な経験を活かした彼が、コーナリングラインをいろいろ変えても走ることが可能なものにマシンを仕上げていたところが大きいからだ。前後のライバルたちの動きに対応してラインを変えても、ラップタイムが落ちないマシンを手に入れていた。

 ゴールまで10周ちょっとの186周、パロウがカストロネベスをパス。事実上のトップに立つ。彼らの後ろには事実上の3番手を走っているパト・オワード(アロウ・マクラーレンSP)がいた。カストロネベスはここですぐにパロウを抜きにかからず、パロウの背後に留まり、いったんオワードを引き離すことにフォーカスする。トップの2台はポジションを入れ替えながらのバトルも可能だが、3番手はほとんど手を打つことができない。今年のレースはそういう戦いになっており、パロウとの一騎討ちに持ち込むことに決めたのだ。

 残り7周(194周目)、カストロネベスは“もう、オワードは絡んでくることはできない”と踏んだのか、アタックを開始し、パロウを抜いて先頭へ。しかし、その2周後の196周目にパロウが再びトップを奪い返した。

 彼らはこの後すぐ、燃費ギャンブル作戦が奏功せず、193周目にトップの座から陥落したフェリックス・ローゼンクビスト(アロウ・マクラーレンSP)に追いついた。バックマーカーが勝敗を左右することになりそうな雰囲気も出てきてはいたが、まもなくローゼンクビストはピットロードへ。優勝争いに水を差すべきではないと、チームが彼を呼び込んだのだった。

 これでパロウが逃げ切るかと思われたが、残り2周(199周目)となった直後のターン1でアウトからパロウを捉え、カストロネベスが再逆転。トップに躍り出る。一気に突き放しにいく態勢に入ろうとするが、それは不可能だった。

「ファイナルラップをトップで迎えるのは、得策ではない」と考える者は多いのだが、カストロネベスはその1周前に勝負に出た。“あと1周待ってパスすれば、もう相手に逆転のチャンスはない”とも考えられる状況だったが、あえて1周前にアタック。それを成功させた。

 先着を目指す2台が199周目のターン4を立ち上がると、目の前にはメインストレート上に6台以上が連なっているバックマーカーの集団が。まもなく追いつくと、マシンに当たる気流は乱れた。「あの瞬間、僕は(逆転可能な)2番手ではなく、8番手ぐらいに埋もれてしまった。もう、抜き返すチャンスは来なかった」(パロウ)。その後、ファイナルラップのバックストレートでパロウはカストロネベスに近づくこともできず、そのまま2位のチェッカーを受けた。

 カストロネベスは絶妙のタイミング、あのラップで決めるしかないパスを見事に成功させた。あまりにも偉大な記録である“4勝を挙げた、4人目のドライバー”となったのだ。彼の戦い方は、昨年の佐藤琢磨のものに似ていた。上位で淡々と燃費セーブを続けつつ、トラフィックでのマシンに磨きをかけ、トップに出たときのスピードについても戦いながら確認し、最後の最後で勝負に出る。これで勝利をつかんだのだった。

「この数年間、IMSAのスポーツカーで戦っていた。それが大きく役立った。新しいマシンで戦うことで、マシンへの理解、速くさせるためのノウハウをインディカーとは違うマシンで培ったことが、今年は大きく役立っていたんだ」とカストロネベス。若いチームメイトであるジャック・ハーベイから質問攻めに合い、それらに答えることでも、彼はより一層今年のインディカーのエアロに対する理解を深めることができたようだった。

■琢磨は燃費作戦が裏目
 その琢磨は、今年も最終的には優勝争いに絡んでいけるかも……という走りを見せていた。5列目アウト側の15番グリッドからのスタートだったが、そこまでの戦いを可能にしたのは、燃費をセーブして走っていた第1スティント終盤に最初のフルコースコーションが出され、すでに1回目のピットインを済ませていた多くのライバルたちの前に出られたことも大きく味方していた。

 だが、もう少しのスピードをなかなか獲得できず、歯痒い戦いが続いていたのも事実だった。それを見たチームは、“スピードで優勝をもぎ取るのが不可能なら、燃費作戦というギャンブルに出よう”という決定を下す。琢磨はコクピットからそのアイデアが実現不可能であることを何度も説明し、反対の意向を述べ続けたが、琢磨の主張が受け入れられることはなかった。

 そして、心配していたとおり、ゴールまであと6周となった時点で燃料切れに陥り、194周を終えてピットロードへ。これで琢磨は、トップから14番手までダウン。そのままゴールするしかなくなった。

「燃費作戦の採用を決める少し前、僕は6~7番を走っていました。カストロネベスのすぐ後ろのポジションでした」と、琢磨はレース後に悔しさをあらわにした。

「ピットストップがまだ2回残っていたんです。それはセッティングを変えるチャンスが2回あったということで、タイヤも新品を2セット投入する用意ができていたのですから、それらを行って、上位のドライバーと勝負したかったですね。戦いたかったのに戦えなかったのが本当に悔しいです」

 チームのピットが選んだストラテジーには納得できないという様子で、琢磨らしからぬ不完全燃焼のインディ500となってしまった。琢磨陣営が採った燃費ギャンブルの作戦が成功し、優勝するためには、数周のフルコースコーションが必要だった。そのイエローが少しでも長くなりすぎると、同じ作戦を採って琢磨より前を走っていたローゼンクビストに優勝の振り子が大きく傾くという状況でもあった。

 つまり、ローゼンクビストの燃料タンクが空っぽになって彼がピットに向かい、琢磨がトップを譲り受けたところでフルコースコーションが出る=昨年のようにスロー走行のままチェッカーフラッグとなるという場合にしか勝てないという、少々楽観的すぎるアイデアだった。残念ながら、これは作戦ミスとの評価を受けても致し方ないだろう。

 ニュータイヤ+燃料フルリッチのオーソドックスなバトルを続けていたら、琢磨はオワードのあたりでのフィニッシュができていたのではないだろうか。それは4位。オワードを下し、パジェノーとのバトルでも勝てていたら、3位フィニッシュとなっていたはずだった。


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