再び感じた、へレスでの不思議な興奮
「今年もスペインGPを取材しよう」そう決めたのには理由がありました。
【画像】ぶら歩き。スペインGPの舞台裏を画像で見る(17枚)
わたし(筆者:伊藤英里)はMotoGPを取材していますが、予算の関係から、今や1シーズン20戦以上もある全てのグランプリの現地に行くことはとても難しいのです。そのため、仕事上の理由から、あるいは、自分の関心から、取材に行くグランプリをピックアップすることになります。スペインGPは、わたし自身の強い興味から、2023年に続き、取材に行くことを決めたグランプリでした。
2024年シーズンのMotoGPは、スペインで4度のグランプリが開催されます。ヘレス・サーキット‐アンヘル・ニエトで行なわれるスペインGP、バルセロナ‐カタルーニャ・サーキットで行なわれるカタルーニャGP、モーターランド・アラゴンで行なわれるアラゴンGP、そして、リカルド・トルモ・サーキットで開催される最終戦、バレンシアGPです。
昨年ヘレスへと赴いたとき、わたしはその雰囲気と観衆の熱情に圧倒されました。ヘレスのコースを囲む丘をぎゅうぎゅうに埋める観衆、天を衝くような歓声、そのどれもが初めて感じるものでした。
その後、取材に行ったカタルーニャGP、バレンシアGPの雰囲気とも違っていました。ヘレスに流れる空気は、ヘレスで感じられるものなのでしょう。その答え合わせをしたいと向かった2024年のヘレスは、やはりわたしに感銘を与えたのです。
2輪駐車場で上がる興奮のエキゾーストノート
スペインGPの金曜日、セッションの合間を縫って、広大なバイク用の駐車場に足を運びました。まだ金曜日だというのに、すでにたくさんのバイクが停まっており、ひっきりなしにバイクが駐輪場に入ってきます。そしてそのバイクがアクセルをあおり、エキゾーストノートを上げると、周囲も応えるようにエキゾーストノートを上げるのです。金曜日はとても良い天気だったので、彼ら彼女らの興奮とともに上がるエキゾーストノートが、青い空に吸い込まれていくようでした。
2輪駐車場の一角には、たくさんの物販のテントが立ち並んでいました。ライダーのグッズを売るエリアを抜けると、フードスタンドが続きます。そこでは鳥のもも肉や、大きなソーセージが大胆に焼かれていて、もうもうと激しい煙を上げています。その奥にはまさしく木のようなハモンセラーノの原木が見えました。やって来た人たちはフードスタンド脇に設置された席に座って、ビールを飲み、お肉にかぶりついているのです。
わたしもすっかりお腹が空いてしまって、イベリコ豚のサンドイッチをオーダーしました。長いバケットにイベリコ豚の生ハムが挟んであるだけの、とてもとてもシンプルなサンドイッチです。それなのに、ハムの塩気が素晴らしい調味料になっていて、たまらなく美味しい! この日の気温は20度程度でしたが、日差しが強いので、気を抜くと熱中症になってしまいます。サンドイッチの塩気が体に染み渡りました。
衰えぬダニ・ペドロサの人気
今年のスペインGPを取材していて、興味深かったことのひとつは、ダニ・ペドロサ選手の存在でした。その存在感を再確認した、と言ったほうがいいかもしれません。
ホンダのファクトリーライダーとして活躍し、2018年をもって引退したペドロサ選手は、現在、KTMのテストライダーとして貢献しています。テストライダーとは言っても、いまだ実力は健在です。そして、その人気もまた、衰えることはないのだと感じられました。
木曜日、パドックを歩いていると、ペドロサ選手を見つけたファンが歓声を上げて彼に駆け寄り、取り囲みました。あっという間にその集団は大きくなっていきます。現役ライダーさながらの人気ぶりです。囲み取材でも、スペイン人だけではなく、各国のジャーナリストの多くがペドロサのコメントを求めていました。もちろん、わたしもそのうちの1人でした。
ペドロサ選手は、土曜日のスプリントレースで、3番手でゴールしたライダーにペナルティが課されたため、最終結果として3位を獲得します。ワイルドカード参戦で3位を獲得したペドロサのため、KTMとMotoGPのプロモーターであるドルナスポーツは、パドックで特別なセレブレーションを行ないました。トップ3のセレブレーションはすでに終了していたからです。
3位のブロンズメダルを受け取ったペドロサ選手に、関係者と、パドックに残っていたファンから大きな拍手が送られました。「ダニー!」という声が、何度も何度も飛びます。ヘレスはペドロサの母国であるスペインであるとわかっていてもなお、ペドロサ選手の存在の大きさが感じられたシーンでした。
日曜日のMotoGPクラスの決勝レースでは、イタリア人ライダーのフランチェスコ・バニャイア選手とスペイン人ライダーのマルク・マルケス選手による、激しい優勝争いが展開されました。スペイン人ライダーのマルケスの優勝争いに、そして激しいバトルに、観客席からはメディアセンターまで響くほどの、大きな大きな歓声が上がっていました。
ヘレスの熱情は、不思議な興奮を掻き立てます。2回目のヘレスでも、それは変わりませんでした。
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