運転席から犬の様子が確認できる場所に乗せられるクルマを選ぶ
愛犬を安全快適に乗せるには、どんなクルマがいいか? すぐに思いつくのは、ステーションワゴン、ミニバン、SUVなどではないか。とくに大型犬を乗せる場合は、大型車、室内やラゲッジルームの広いクルマじゃないと……と考えがちだ。ここ25年、毎日のように愛犬をクルマに乗せ、月に1~2回は長距離、宿泊を伴うドライブ旅行に出かけてきた経験からすれば、それは正しくもあり、そうでもないといえる。
まず、愛犬とドライブするときの乗車人数だ。わが家のように夫婦2名なら、セダン、そして軽自動車だっていい。今どきの軽自動車はホンダN-BOXのように後席広々、シートアレンジによっていかようにでもラゲッジスペースを拡大できるからだ(フルフラットアレンジに限る)。
が、愛犬とのドライブは家族大集合で4~5人乗車となると、車種は限られてくる。犬は乗り心地が良く静かで、エアコンの風も届きやすい後席に乗せるのが基本だが、4~5人乗車ともなれば中大型犬を後席に乗せるわけにいかず、ワゴンやSUVのラゲッジルーム、または3列シートミニバンの3列目席、あるいはオデッセイのように3列目席を床下収納すれば、大型ワゴンのようなフルフラットラゲッジスペースにアレンジした拡大ラゲッジスペースに乗せることになる。
注意したいのは、ドライブ中、犬は幼児と同じような配慮が必要ということ。つまり、飼い主の目の届く場所に乗せる。愛犬の様子をチェックしやすくなるとともに(暑い時期は車内での熱中症などが心配)、お互い、つねにアイコンタクトすることで飼い主も愛犬も安心してドライブを楽しめるのだ。
となると、3列シートミニバンの2列目ベンチシート仕様の3列目席、ミニバンのラゲッジルームは不適切。2列目ベンチシート、3列目席のシートバックが壁のようになり、ラゲッジルームから飼い主を、室内からラゲッジルームを見通せないからだ。もし3列シートミニバンの3列目席に愛犬を乗せる前提なら、2列目席は左右席の間に空間のあるキャプテンシートが望ましい。それなら愛犬が3列目席に乗っても運転席、助手席まで見通せてアイコンタクトが可能。2列目席の家族にさわってもらうこともできるはず。
どうしてもステーションワゴンやSUVのラゲッジルームに愛犬を乗せざるをえない場合は、ラゲッジフロアに振動、ショックを吸収するクッションを敷いてあげるのは当然として、犬が立った状態で室内を見通せるかをチェックしたい。後席シートバックが高すぎて見えない、というなら、5:5または6:4分割の後席シートバックの片側を倒すしかない。そうしてあげないと、アイコンタクトができないだけでなく、エアコンの風も届きにくく、安全、快適なドライブにはなりにくいのだ。
もっとも、ステーションワゴンやSUVでも、後席が4:2:4分割で、中央の2部分のみ、トランクスルーを兼ねたアームレストになればそこにすき間ができ、ラゲッジルームと室内でアイコンタクトが可能になり、エアコンの風も届きやすくなるから理想的。
犬が乗るスペースよりも大切なのは犬にとっての乗り心地
と、ドッグフレンドリーカーの資質についていろいろ書いてきたが、ドッグライフプロデューサーとしても仕事をしているボクの経験から言えば、愛犬と安全快適にドライブするためには、じつはもっと大切なポイントがある。それは、スペースよりも走行時の乗り心地の良さ、姿勢変化のなさ、静かさ、エアコンの効きのよさ、後席エアコン吹き出し口の装備、後席とラゲッジフロアの低さなどだ。
犬は車内でどこかにつかまることができず、シートの上に乗っていようが、キャリーケースの中にいようが、カーブなどでフワフワ、グラグラすると体が滑って落ち着かず、爪を出して踏ん張るため、ストレスの原因になる。だから乗り心地のフラットさ、カーブ、加減速時などでの姿勢変化の少なさはとても重要なのである。
乗り心地をよくすると、姿勢変化が大きくなる……なんていうのは昔の話。今ではマツダのG-ベクタリングコントロールなど、たとえ背の高いSUVでも、カーブなどでのグラつき、姿勢変化をエンジンをはじめとする巧みな制御で安定方向にもっていける機能はいくらでもある。
犬が乗車する場所にエアコンが効くかも大切な要因
今年の夏は猛暑だったが、暑い時期に愛犬をクルマに乗せる場合は車内温度にも気をつかう必要がある。なにしろ犬は1年中毛皮を着ていて基本的に暑がり。エアコンの効きのいい、犬の乗車場所の空調環境のいいクルマを選ぶことも大切。実際、エアコン作動時でも前席と後席~ラゲッジルームでは5度以上も室内温度が違ったりする。インパネにのみエアコン吹き出し口があるクルマなら、なおさら効きが重要(一部の輸入車、軽自動車はエアコンの効きでは不利)。
なので、ボクとしてはエアコンの効きのよさと合わせ、犬の乗車場所となる後席以降のエアコン吹き出し口がドッグフレンドリーカーの必須装備だと思っている。あわせて犬が後席に乗るとしたら、ミニバンやSUV、スペース系軽自動車などにあるリヤサイドウインドウブラインドもあればなおよし。直射日光を遮り、車内温度の上昇を抑えてくれるとともに、犬の嫌がる外からの干渉も防げるからだ。
中大型犬場合は乗降性も考慮したクルマ選びを
そして犬が乗る後席、ステーションワゴンやSUVの場合はラゲッジルームフロアの低さもチェックポイント(スライドドアミニバンならステップの低さ)。飼い主が抱っこして乗せられる犬なら高くても問題なしだが、中大型犬を自身で乗り降りさせる場合は、後席、ラゲッジルームともに低ければ低いほどいい。
たとえばアテンザワゴンの後席座面地上高は約55cmと素晴らしく低い(一般的なセダン、ワゴンで約60cm、SUVだと約70cm)。わが家の足腰が弱ったシニア犬のラブラドールレトリーバーのマリア(12歳)も無理なく乗り降りできる高さなのである。
一方、ステーションワゴンでラゲッジルームから乗り降りさせる場合は、まず開口部に大きな段差がないか? あると乗降時に足をひっかけてしまう危険性がある。つまり、掃きだしフロアが理想。また、フロアの高さはこちらも低いに越したことはない。世界のステーションワゴンのラゲッジルーム開口部地上高は約62cmで、それ以下が望ましい。ボクの知る限り、ステーションワゴンでもっともラゲッジフロアが低いのはホンダ・シャトルの54cmだ。そのほかの車種でラゲッジルームのフロアが低いのはトヨタ・シエンタ49cm、ホンダ・フリード48cm、ホンダN-BOX48cm(いずれもFF)などである。
シートやフロアの低さは、愛犬が若く元気で、ジャンプ力のあるうちはあまり気にならないだろうが、犬は人間の6~7倍のスピードで歳を重ね、10歳で人間の60~70歳に相当。愛犬が6~7歳以上なら(1台のクルマに3~5年乗るとして)、シニア犬になり、足腰が弱ったときのことも考えたクルマ選びも必要だ。
雪道や悪路に強いSUVも、ドッグフレンドリーカーとしての魅力あり。犬は雪が好きだし、白銀の世界へのドライブも安心安全。悪路の先にある、愛犬と楽しめる絶景スポットにも踏み込みやすいからだ。
最後に、ドッグフレンドリーカー選びで悩んだら、純正ドッグアクセサリーが充実したブランドから選ぶ、という方法もある。一例を挙げれば、ホンダ、ボルボ、トヨタ、VWなどが充実している。ボルボ、マツダは犬用カート(エアバギー)を用意し、コット部分を後席に固定できる(ISO FIX)好機能がある。
また災害時、犬連れで避難所に入れないこともあるが、そんなときのために車中泊しやすく、AC100V/1500W電源が使え、給電も可能なPHV、PHEVを選ぶのもいいかもしれない。
最新のドッグフレンドリーカーは以下の通り(わが家の自称自動車評論犬!? のラブラドールレトリーバー・マリアとジャックラッセル・ララによる選定)
マツダ・アテンザワゴン
(快適性、安定感、静かさ、乗降性、犬の乗せ場所の自由度、空調)
ボルボXC60
(快適性、安定感、静かさ、雪道対応。XC90、V90はドッグアクセサリーの充実度、空調も)
ホンダ・ジェイドハイブリッド
(快適性、安定感、静かさ、空調、ドッグアクセサリーの充実度)
三菱アウトランダーPHEV
(快適性、安定感、静かさ、空調、雪道&災害時対応)
ホンダ・オデッセイHV
(快適性、安定感、静かさ、乗降性、犬の乗せ場所の自由度、大容量ワゴン化できるシートアレンジ性、空調、災害時対応)
ホンダN-BOX
(乗降性、犬の乗せ場所の自由度、ドッグアクセサリーの充実度)
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