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ベントレーのオープンホイール・レーサー 親子で仕上げたT1プロトタイプ・シャシー 前編

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ベントレーのオープンホイール・レーサー 親子で仕上げたT1プロトタイプ・シャシー 前編

驚異的に速いTタイプ・スペシャル

「シフトゲートは見ないでください!」。現オーナーのベン・イースティック氏がエグゾーストノート越しに叫ぶ。

【画像】ベントレーのオープンホイール・レーサー ブロワーと最新のコンチネンタルGTも 全68枚

「シフトパターンは通常と同じです。ゲートの配置は上下逆で、見ると混乱するだけです」。彼の助言の通りだった。これまで経験した変速で、最も集中力が求められた。シフトレバーは重く、まるで古いトラックのもののようだ。

クラシックなベントレーの4速MTですら、もっと直感的に手を動かせたと記憶している。だが1度感覚を掴めば、シフトレバーを自然に押し込めるようになり、緊張も解けていく。

シンクロメッシュの効きが良いとは感じられないが、トランスミッションが温まるにつれて、ダブルクラッチを踏んで2速へ軽快に落とせる。がっしりした手応えは変わらないけれど。

このTタイプ・スペシャルほど、ユニークなベントレーはないだろう。実際のところ、どのギアを選ぶかはさほど重要ではない。1500rpmを超えると、55.2kg-mという太いトルクがフラットに湧出される。目立ったピークも感じられない。

クルマの重さは、ドライバーと燃料を含めても約1.1t。ギアに関係なく、驚異的に速い。

ロールス・ロイスのプッシュロッドV8エンジンは、5000rpm以上回さない方が良いといわれるが、今回はさらに1000rpm上限が低い。2.88:1のファイナルレシオと、今回の狭いサーキットという組み合わせには好都合といえる。

フロントに載る6.2LスーパーチャージドV8

フライホイールは軽く、慣性は小さい。1速での発進には、バランスを探るような丁寧さが求められる。スーパーチャージャーが組まれていているが、回転は滑らかだ。内部構造の軽さが発揮されている。

わずかに右足へ力を込めると、素晴らしい体験が待っていた。リアタイヤを空転させ、スキール音と白煙を放つだけの余力が常に控えている。

ストレートを矢のように直進し、ブレーキングやコーナリングでも、進路が乱れることはない。キャスターとキャンバー角を調整し、僅かにトーアウトにすることで、アンダーステアの軽減を検討中だという。

とはいえ、6.2LのスーパーチャージドV8エンジンがフロントに載ることを実感するほど、フロントタイヤが押し出されることはない。このクルマを手掛けたイースティック親子の狙いは、見事に達成できているように思える。

サーキットの短いストレートで勇気を振り絞れば、2速でレッドラインに飛び込む。試しに手早く3速や4速に入れてみても、変わらず速い。トルクが太い証拠だ。

ブレーキは、シルバーシャドウ用のソリッドディスク。パッドが鳴きながら、まっすぐにスピードが絞られる。制動力に不安はない。過去にサーボが追加されたこともあるというが、必要なさそうだ。

ステアリングは正確で、走り出してしまえば快活に操れる。ステアリングラックは、現在はGM社製のラック&ピニオン式が組まれている。オリジナルのボール・ナット式だったら、曖昧に感じたことだろう。

シルバーシャドウ・スペシャル・シャシー-2

ダンロップのレーシング・タイヤは数周走ると温まり、一層操縦性が高まる。ペースを速めると、巨大なケータハム・セブンのような雰囲気があることに気づいた。1960年代のF1マシンが履いていた、ウェットタイヤならより近いだろう。

しかし決定的な違いがある。ボディが明らかに大きく、長いフロントノーズがそれを強調している。ベンによると、全長と全幅は古いインディマシンと変わらないそうだが、コンパクトには感じられない。

大柄な理由を探ると、SSSC-2というシャシー番号に辿り着く。シルバーシャドウ・スペシャル・シャシー-2の頭文字を取ったものだ。

このTタイプ・スペシャルを作ろうと考えたのは、ベントレー・ドライバーズ・クラブに属していたバリントン・イースティック氏。1970年代初頭、自身のベントレーMk VI スペシャルのほかに、何か手を加えるクルマがないか探していたという。

そんな時、ロールス・ロイス・シルバーシャドウとベントレーT1用のプロトタイプ・シャシーが、プロモーションの一環として2台作られたことを知る。モノコック構造に独立懸架式サスペンション、ディスクブレーキを備えていた。

驚くことに、彼はその1台を譲ってもらえないか尋ねたらしい。そして、答えはイエスだった。

ロールス・ロイスの当時のマーケティング・ディレクター、ジョン・クレイグ氏を通じ、会長のデイビット・プラストフ氏も承認。1100ポンドで、バリントンはアルミニウム製6.2L V8エンジンを含む、ベントレーT1用シャシーのオーナーとなった。

レーシングカー・コンストラクターの元へ

プロトタイプ・シャシーを手にした彼は、どうクルマを仕上げるか悩んだ。当初は、コーチビルダーのアラン・パジェット氏へ意見を仰いだが、彼のアイデアの実現には予算的にも技術的にも難しいことがわかった。

そこで、レーシングカーのコンストラクターで名を馳せていた、リンカー・エンジニアリング社へ相談。バリントンがロンドンの西、スラウの街で経営する砂糖工場の裏手にあり、ローラGTやGT40が組み立てられる様子を目にしていたという。

リンカー社へ届けられたプロトタイプ・シャシーは、フロントとリアのサブフレームが除去。ボックスセクションのスペースフレーム構造となるよう、置き換えられた。

サスペンションも、セルフレベリング機能付きのストラット式から変更。フロントがダブルウイッシュボーン式でリアがトレーリングアーム式になり、コイルオーバー・ショックが組まれた。

ブレーキディスクとキャリパーは残されたが、高油圧システムではなく、一般的な前後に分かれた2重回路システムへ変更。マスターシリンダーを介して、前後のバランスを調整することが可能となった。ハンドブレーキと、クラクションも残されている。

V8エンジンには、バリントンも愛したベントレー・ブロワーの精神を受け継ぎ、スーパーチャージャーが組まれた。息子のベンが振り返る。「彼はベーン式のブロワーを組みたかったようですが」

この続きは後編にて。

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