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自動車メーカーになった男──想像力が全ての夢を叶えてくれる。第3回

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自動車メーカーになった男──想像力が全ての夢を叶えてくれる。第3回

ナロー911Sは確かに京都・東京間を高いアベレージで走りきれるクルマだった。けれども、911を速く走らせて京都まで帰るにはそれなりの疲れを伴うのもまた事実だった。

あるとき富田は東京でアルファロメオ1300ジュニアを仕入れて、いつもの如く自走で京都まで走ることになる。それまでにも何台かアルファロメオを仕入れていた富田だったが、1300ジュニアは初めてだった。

自動車メーカーになった男──想像力が全ての夢を叶えてくれる。第2回

吹け上がりのいいエンジンはたちまち富田を虜にした。1600ccエンジンを積む他のアルファロメオより気持ちがいいとさえ思った。そのうえ、高速走行では安定しており、何よりメカニカルノイズが少なく、ポルシェより随分と静かだったという。

当時は、排気量の大きい方が絶対的に“偉い”時代だった。けれども、排気量が小さくても逆に気持ちよく楽しめるクルマがあることに富田が気づく。小さな排気量で大きな排気量のクルマを打ちのめすことができたら、それはそれで面白いんじゃないか。アルファに乗ってそう思い始めた富田は、徐々にチューニングの世界にも興味を持ち始めた。

そんな経験が後に、オリジナルチューニングブランドの展開へと繋がり、ひいては完全オリジナルカーの製造へと富田を導いていったのだった。

富田が東京から京都へと自走で帰ることにこだわったのは、単に乗ることが好きだったからだけではなかった。実際に自走で帰ったことで、その個体の程度が保証されることにもなった。逆に言うと、自走で帰ってしまう富田に東京の業者も下手なクルマを渡すことなどできなかった。“自走で京都”は極上の証、だったのだ。

とはいえ万事がポルシェやアルファのようにいくわけではなかった。とある日、日増しに増えた東京の友人たちと一緒に“変わったクルマ話”をしていると、そのうちの一人がロータス7を“預かっている”という。富田はすぐに見たいと言い出し、そのまま友人のガレージに向かった。

果たして、ガレージには本物のセブンがあった。座った富田は車高の低さに驚き、俄然、降りたくなくなった。“預かっているだけ”という友人を何とか説き伏せ、強引に買い取った。そして、スーツ姿のまま、そのまま京都へ帰ると言い出したのだ。

夜の9時過ぎ。富田は東名高速へ向かって走り出す。飛ばせば夜中の2時くらいには着くだろう。そう高をくくっていたら、突然、セブンが息を止めてしまった。うんともすんとも言わない。

ところは霞町の交差点付近だった。

スーツ姿のままセブンのエンジンルームを開けて覗き込んでいると、何やら巨大な影が迫ってくる。振り向くとそれはロールスロイス・クラウドIIだった。

セブンの後に停まったロールスから男性が降りてきて、声をかけてきた。

「故障かい? ボクの修理工場が近くにあるから、診てもらったらいい。このクルマ(セブン)なら治せると思うよ」

ありがとうございます! 富田はそう感謝しながら、薄明かりのなか目を凝らしてその男性を見つめてみれば、どこかで見た顔が……。俳優の夏木陽介氏だった。

夏木のクルマ好きは当時も有名で、なかでも英国車が好きであるということを富田も知っていた。それから二十年ほど後、舘 信秀氏(トムス創設者)の紹介で夏木と再開した富田は、このときの話を持ち出しもう一度深く感謝して盛り上がったという。

夏木の工場は東京タワーの近くにあったと富田は記憶している。工場のスタッフとも大いにクルマ談義で盛り上がったが、セブンが治ったら明日、自走で京都まで帰るというと工場の人たちは大いに驚いたらしい。英国車をよく知るプロが驚くほど、当時、それは本当に無茶な試みだった。

図らずもそのことは、翌日、証明されることになる。

翌日引き取りに来るからと夏木の修理工場を後にした富田は、京都の友人で当時しょっちゅう東京に来ていたという林 みのる氏(童夢創設者)に電話を入れた。ロータスの話をすると代わりに京都へ乗って帰りたいという。

京都で仕事のあった富田はこれ幸いとセブンを林に託し新幹線で戻った。ロータスに詳しい林のこと、心配せずともその日中には戻ってくるだろうと思っていたら、当の林から電話が入る。聞けば、まだ静岡らしい。クルマの調子が悪いのか?と質すと、風の巻き込みがひどくてまともに走れなかったらしい。

もう肌寒さを感じる頃だった。簡易型トップはあるけれど、サイドウィンドウはない。速く走れば冷たい風に方々からさらされるし、ゆっくり走れば排ガスを巻き込んで窒息しそうになる。仕方なく東名川崎で降りた林は、ジャンパーとゴーグルとガムテープを必死に探した。インターネットなどない時代の話だ。苦労であったことは想像に難くない。

やっと手に入れた林は、テープで隙間や首筋を覆って、ようやく静岡まで辿り着いたのだという。申し訳なく思った富田は、「明日、好きなクルマで迎えに行くから、とにかく名古屋まで走ってきてくれ」と林に頼んでいる。林のリクエストはBMW2002tiiだった。

名古屋で落ち合ってみると、長い髪の毛までガムテープで留め、風が入らないようにと首筋や手首までもテープでぐるぐる巻きにした林がいた。

富田は申し訳ない気持ちでいっぱいになったという。



リバイバルで何かと話題のアルピーヌA110。
その昔、日本における初代のブーム火付け役もまた富田義一だった──

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