2021年1月18日、菅義偉前総理が施政方針演説で「2035年までに新車販売をすべて電動車(電気自動車(EV)、燃料電池車(FCV)、ハイブリッド車(HV)など)にする」と宣言したことで、自動車業界に激震が走ったというのはまだまだ記憶に新しいところです。経済産業省は乗用車の普及については2035年に100%、商用車は小型車の新車については2030年までに20~30%、2040年までに電動車、脱炭素車100%、大型車は2020年代に5000台を先行導入し、2030年までに2040年の電動車普及目標を設定することを目指しているそうです。
そこで今回は、各社の電動車移行への戦略を見てみることにしましょう。そしてガソリン車が本当になくなってしまうのか、検証してみることにしましょう。
ガソリン車は消えるのか? 2035年には本当に日本の新車販売は100%電動車になるのか??
文/松崎隆司、画像/トヨタ、日産、ホンダ、AdobeStock
■電動車100%転換に意欲を見せるホンダ
日本メーカーのなかで、いち早く電動車への全面的な移行を発表したのはホンダです。
ホンダの三部(みべ)敏宏社長は2021年4月23日、就任後初の記者会見で「ホンダに関わるすべての製品と企業活動を通じて、カーボンニュートラルを目指します」と宣言し、国内メーカーとしては初めて、全四輪車を電気自動車(EV)と燃料電池車(FCV)にするとし、エンジンとの決別を表明しました。
ホンダの三部社長、2021年の就任会見で「先進国全体でのEV、FCVの販売比率を2030年に40%、2035年には80%、そして2040年にはグローバルで100%を目指します」と語った
ホンダは2030年時点でのEV・FCV販売比率の市場別目標は、北米と中国が40%で日本は20%。いずれも2035年には80%まで高める計画です。2021年1-12月の世界販売に占める電動車(EV、HEV、PHEV、FCV)の比率は13.5%で、これを2040年には世界で販売する四輪車をすべてEVとFCVにするようです。
脱エンジンは、とりわけ日本市場では劇的な変化となります。それは日本ではハイブリット車(HV)が環境対応車として評価され普及しているためで、三部氏は日本での電動化比率を引き上げる方策について「HVを増やすのが現実的な『解』だ」と認め、2030年時点では「HVを含めて100%電動車」とすることを目指しています。
ホンダがEV・FCVによる脱エンジンを目指す背景には、欧米や中国当局がEV中心の電動車シフトに規制強化を進めているからです。
英国では2030年、米国のカリフォルニア州では2035年までにガソリン車・ディーゼル車の新規販売を禁止し、カナダのケベック州では2035年までにガソリン車の新車販売を禁止、EUも規制を強化する方針を打ち出し、中国政府も「2035年をめどに新車販売のすべてを環境対応車にする方向で検討する」と発表しています。
三部氏は「電動化事業で収益を上げられる構造を作れた会社が生き残れる」と断言し、2020年10月には1964年から参戦してきたF1からも(2021年シリーズを最後に)撤退。FCVやEVをなどの将来のパワーユニットやエネルギー領域の研究・開発のために経営資源を重点的に投入していくそうです。
2022年4月にホンダが発表した、日本市場におけるEV発売スケジュール。まずは2024年の前半に、商用軽EVを発売、その後、軽自動車、SUVへと続く
「ホンダに当たり前は期待されていない」と、研究開発費に2021年から6年間で総額5兆円を投じ、EV専用工場の新設も検討し、さらに2020年代後半には独自の次世代電池の実用化を目指すそうです。さらに今年に入ってからはEV化を加速するため、EVの専門事業部門を設立することを発表しました。
■社長交代で電動化を加速させるトヨタ
いち早くEVの大量生産に成功した日産は、2030年代早期より、主要市場である日本、中国、米国、欧州に投入する新型車をすべて電動車両にする計画です。
2010年に小型EV「リーフ」を市場に投入し、すでに世界累計販売台数で50万台(国内では15万台)を販売し、その後も2022年5月に日産アリア、2022年6月に日産サクラを投入し、2023年2月には次世代全個体電池を搭載したコンセプトカーの実車モデル「マックスアウト」を公開しました。
2023年2月2日、日産自動車は、BEVの2シーターオープン、「Max-Out(マックスアウト)」の実車を、横浜の日産グローバル本社ギャラリーで公開した
2021年からの5年間で約2兆円を投資し、電動化を加速し、2030年度までにEV5車種を含む23車種の新型電動車を投入し、グローバルの電動車のモデルミックスを50%以上へ拡大。全固体電池を2028年度に市場投入するそうです。
また2026年度までにEVとe-POWER搭載車を合わせて20車種導入し、各主要市場における電動車の販売比率を欧州で75%以上、日本で55%以上、中国で40%以上、米国で30年度までに40%以上(EVのみ)を目指していくという事です。
日産サクラは2万2000台を販売、「使える軽EV」として多くのユーザーから支持を集めた
業界最大手のトヨタは、その発言には波紋も大きいことから、これまでEVへの全面的移行には慎重な対応を取ってきましたが、もはやそんな流ちょうなことを言っている場合ではないようです。豊田章男社長は2023年1月、「どうしても最後はクルマ屋の枠を出ないクルマづくりに向かっていたと思う。電動化、コネクティビリティに関して私はもう古い人間だ」として、「一歩引くことが今必要だ」と判断して社長交代を宣言しました。
社長に指名された、これまでレクサスとガズー・レーシング部門を担当してきいた佐藤恒治執行役員は、「モビリティ・カンパニーへのフルモデルチェンジに取り組む」と、トヨタ変革の意気込みを見せています。
トヨタの豊田章男社長から、バトンを渡され、2023年4月より社長に就任予定の佐藤恒治氏。トヨタを【クルマ屋】から【モビリティカンパニー】へ生まれ変わらせる役目を背負う。エンジニア出身
■加速する小型トラックの電動化
トヨタは2021年12月14日、EV戦略を発表し、2030年のBEV(バッテリー式の電気自動車)年間販売台数を200万台から350万台(30車種)に上方修正し、レクサスが同年までに欧州、北米、中国でBEV100%をめざすことなどを発表しました。2022年5月にはSUVのbZ4Xを発売、同年12月にはEV15車種(bZ4Xを除く)を公開しました。走行距離は一充電で500km、世界各地の高出力充電にも対応し、DC急速充電では150kWに対応し、30分で80%まで充電できるそうです。
「EV専用プラットフォーム」はスバルとの共同開発で、スバルは2022年5月にソルテラを発売しています。
電動化に関する提携はスバルだけでなく、スズキ、ダイハツ、マツダなどとも進めています。
ちなみにスズキは2030年までに電気自動車の開発に2兆円を投じることを明らかにしています。主力市場のインドや日本に6車種を投入する計画だということです。
ディーゼルエンジンで日本や欧州の市場で活躍してきたマツダにとって海外でのガソリン、ディーゼルエンジン規制は大きな課題です。丸本明社長は「あらゆる電動化技術が必要だ。絞り込むのはリスクが高い」とっています。
そのような中で2021年1月に「マツダMX-30EV」を発売。さらに11月の中期計画のアップデートで30年のEV想定比率を25~40%と発表しました。
実は乗用車だけでなく、商用車のEV化も加速しているのです。国土交通省もそれを後押しために「事業用自動車における電動車の集中的導入支援」事業を22年からスタートしました。補助率は電気バスが車両価格の1/3、電気タクシー、電気トラック(バン)が1/4、燃料電池トラックが2/3、ハイブリットバス・ハイブリッドトラックが1/3、電気自動車用充電設備等が導入費用の1/2です。
こうした中で2017年に初の量産型電気小型トラック「eキャンター」の販売を開始した三菱ふそうは、2039年までに国内のすべての新型バス・トラックを電動化するようです。
トヨタ、いすゞ、日野自動車は2021年3月、小型トラックの分野でEV化やFCV化を進めるために業務提携(日野自動車は2022年8月に離脱)し、共同出資会社を設立しています。
いすゞはこのほか、2020年1月からホンダとFC大型トラックの共同開発を進めていますし、日野自動車は2021年4月には関西電力と提携して新会社を設立し、電動車導入の促進に力を入れています。商用車の電動化も進んできています。
■「ガソリン車がなくなることはない」
電動化の流れの中でクルマを取り巻く環境は大きく変わろうとしています。コンビニの店舗にもEVの充電器が次々に設置されています。ちなみにセブンイレブンで80店舗、ファミリーマートで700店舗、ローソンで205店舗設置されているそうです。
タクシー業界ではタクシーアプリ「GO」を運営するモビリティテクノロジーズが全国のタクシー事業者と連携して2031年までにEVタクシー2500台をリースで供給、充電器を2900台設置するといった大規模な実証実験を進める業界横断的なプロジェクトを発表しています。トヨタのbZ4Xや日産リーフ、日産アリアなどが採用されるそうです。
運送業界ではヤマト運輸が2017年から3トンタイプのeキャンターをすでに25台導入し、2022年8月からは日野自動車の日野デュトロZEVを500台の導入を進めているところです。2030年までにEVは2万台を導入する予定だそうです。このほか2023年度から日本通運が4トン以上のeキャンターを10台導入する予定(福岡、川崎では導入済み)です。佐川急便は30年までに7200台をEVに切り替えるようですし、日本郵便も23年1月末の段階でEVの軽四輪を2800台、二輪を7100台導入しているということです。
しかし大手の中古車販売業者は「電気自動車が普及したからといってガソリン車がなくなることはない」と断言します。
電気自動車は高速充電でも1時間以上かかり、航続距離は、ガソリン車では1000kmを超えるクルマもあるのに対して、電気自動車の場合は長くても500~600km、100km前後のものも少なくないですから、やはり長距離を走るような運送用のクルマを開発するには時間がかかるようです。ガソリン車を支えるインフラも依然として存続しています。
現在(2023年2月)国内メーカーが日本市場に投入しているEV
全国に約2万4000拠点あるガソリンスタンドも給油専業からコンビニや自動車関連サービス、生活インフラへと事業の多角化を進めていますが、依然としてロードサイドで給油事業を続けています。ガソリンスタンドの店舗数では約1万2000店舗と業界最大手のエネオスホールディングスの広報担当者は次のように語っています。
「既存のサービスに加えてセブンイレブンと提携してコンビニとの複合店などのライフサービスやモビリティーサービスの提供に力を入れ、実証実験などを進めています。電気自動車の急速充電器も2021年度には17基だったのを、2022年度には100基、2025年度には1000基に増やしていく予定です」
政府は2035年以降に発売される新車すべてを電気自動車にするよう指導していますが、ガソリン車の販売を規制しているわけではありません。徐々に移行していくことを期待しているようですが、その間にガソリン車のCO2をゼロにするような技術が開発される可能性もあるわけですから、ガソリン車にも少なからず大きな可能性があると考えておいたほうがいいのではないでしょうか。
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みんなのコメント
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現状雪国に住んでますが周りのおじさんたちも電気のメリットを感じないの一言。