最高出力680psの燃料電池コンセプト
驚くほどの勢いで、電動化技術の開発を進める韓国のヒョンデ。彼らは、環境対策だけに注力しているわけではない。
【画像】680psのFCVコンセプト ヒョンデNビジョン74 トヨタ・ミライとホンダ・クラリティも 全122枚
水素で電気を生み出して走行する、燃料電池車のヒョンデix35を筆者が試乗させてもらったのは9年前。極低温水素タンク、LH2の自動車利用を検証するためのプロトタイプだった。
その時は英国の高速道路を走ったが、流れへついていくのに十分なパワーは発揮していたものの、余裕を感じられたわけではなかった。燃料電池の出力は低く、短時間の加速時以外は非力感が常に漂っていた。
しかし、それは過去の話。今回試乗したNビジョン74の最高出力は680psもある。走る実験室という性格ではix35と同じだが、今回は思う存分サーキットを走り回れるという。望めば、痛快なドリフトも決められるらしい。
直線的なシルエットに、ヘッドライトを包む四角いフロントグリル。レトロな雰囲気のNビジョン74だが、見どころは外観だけではない。
ドイツ北西部、ビルスター・ベルク・サーキットで開かれたNデイと呼ばれるイベントの、主役を務めるのに不足ない。コンセプトカーだが運転も可能だ。
2022年初頭にヒョンデが画像を公開すると、筋肉質なデザインがインターネット上で話題になった。デロリアンへ似ているように感じるが、仕上がりには訴求力がある。実際、このスタイリングが生まれた理由はデロリアンへリンクしているという。
ベースはキア・スティンガーでツインモーター
会場に来ていた技術者のアルバート・ビアマン氏に直接お会いでき、裏話を聞かせてもらった。BMW M社からヒョンデ・グループへ移籍した66歳のドイツ人エンジニアは、既に開発部門トップの地位を退いている。
それでもまだ同社には属しており、エグゼクティブ・テクニカル・アドバイザーという役職にある。彼によれば、本来、Nビジョン74はヒョンデとして生み出されたわけではないらしい。
「これのベース車は、キア・スティンガーでした」。と笑みを浮かべながらビアマンが説明する。
「(デロリアン風の)デザインは、ずっと後になって与えられています。アイデアは別のブランドが発端で、(ヒョンデの高性能ブランドの)Nではなく、上級ブランドのジェネシスのためでした」
「新システムの開発に向けて、実際に機能するメカニズムを搭載したプロトタイプを作る必要がありました。既存モデルをベースにすることになり、キアのスティンガーがグループ内で最も求めるサイズへ近いとわかったんです」
その結果、キア・スティンガーをベースに、高出力の燃料電池システムを搭載したプロトタイプが3台誕生した。駆動用バッテリーは既存のヒョンデ・ネッソと呼ばれるSUVと同じ、62.4kWhの容量を持つ。駆動用モーターは340psのものが2基載っている。
モーターの位置は、前後ではなくリア側の左右。ボディは写真の通りクーペをまとった。
記憶が曖昧になるほど激しい加速
ビアマンによれば、プロジェクトの主な目的は左右に搭載された駆動用モーターを同時に制御し、仮想的なリミテッドスリップ・デフを検証すること。ヒョンデは、キアEV6 GTが発揮する585ps以上の最高出力を実現させたいと考えている。
「実働するプロトタイプが完成したのは2年前。ヒョンデのテストコースで初めて運転した時は少し不自然で、正直怖かったですね。しかし現在は、メカニカルLSDと同様なフィーリングを得ていますよ」
筆者は早速、Nビジョン74のステアリングホイールを握ることが許された。多くのコンセプトカーは運転可能だといっても低速域に限られ、運転席に座った印象を確かめられる程度に過ぎない。しかしこのクルマは異なる。
ビルスター・ベルク・サーキットの高速コーナーを、全開で駆け抜けられるという。別のドライバーは、タイトコーナーでドリフトを披露させていた。筆者は、もう少し控えめにしておいたけれど。
助手席に座った技術者は、スタビリティコントロールをオンのまま、スポーツ・モードまで試していいと話す。車内にはロールケージが張り巡らされ、乗り込むのは少々大変。キア・スティンガーがだった面影はまったくない。
シートベルトを締めて発進。ピットレーンの出口からアクセルペダルを蹴飛ばした途端、激しい加速に襲われた。前後の記憶が曖昧になるほど。
オーバーステア状態へ自然に移行
ヒョンデによれば、0-100km/h加速を4.0秒以下でこなすそうだが、実際の感覚としてはそれより遥かに速い。アクセルペダルへのレスポンスも、極めて鋭い。
多くの燃料電池車とは異なり、水素から作られた電気は直接には駆動用モーターへ送られない。1度、駆動用バッテリーを介するという。
燃料電池の出力は85kWで、駆動用モーターが最高出力を発生させるのに充分な電気は供給できない。しかし、強力な出力を持つ駆動用バッテリーへ継続的に電気を供給してくれる。量産仕様とする場合、航続距離は595kmになるらしい。
Nビジョン74の車重は2t近いそうだが、ピレリPゼロ4Sタイヤが生み出すグリップ力は凄まじい。まったく不安感なく、高速コーナーをハイスピードで処理していく。低速コーナーでは、不満ないトラクションで加速させる。
リアタイヤ左右の挙動は、ソフトウエアによって制御されているという感覚がない。速度やタイヤへ掛かる負荷が高まると、オーバーステア状態へ自然に移行していく。
燃料電池の技術もさることながら、トラクション管理の巧妙さにも唸らされる。サーキットを4周走り込んで気になった点といえば、感触の曖昧なブレーキペダルくらい。パワフルな駆動用モーターが生み出すスピードに、すっかり夢中になってしまった。
デザインはジウジアーロのポニーが原点
さて、このNビジョン74のクラシカルなスタイリングだが、創業間もない頃のモデルから影響を受けたのだという。1974年のトリノ自動車ショーに出展された、ヒョンデ・ポニーだ。
量産化されたのは4ドアサルーンのみだったが、クーペボディのコンセプトモデルも並んでいた。スタイリングを手掛けたのは、イタルデザイン社に在籍していたジョルジェット・ジウジアーロ氏だった。
クーペのポニーは生産に至らなかったものの、スタイリングは悪くなかった。ジウジアーロは、後に依頼を受けたデロリアンDMC-12へ、そのデザインを展開させるほど。
ヒョンデのデザイン部門を率いるイ・サンヨプ氏は、ポニー・クーペのスタイリングがNビジョン74の原点にあると説明する。ルーフからリアガラスへのシャープな面展開や四角いグラスエリア、奥まったフロントグリルなどが、その特徴だという。
かなり注目度の高いコンセプトモデルであることは間違いないが、Nビジョン74が量産化されることはないようだ。ビアマンは次のように話す。
「EGMPプラットフォーム上で、このプロポーションを維持することはできません。デザインを変えるか、新しいバッテリーを開発する必要があるんです」
ヒョンデNビジョン74 コンセプトのスペック
英国価格:−
全長:−
全幅:−
全高:−
最高速度:249km/h以上
0-100km/h加速:4.0秒以下
航続距離:643km
電費:−
CO2排出量:−
車両重量:−
パワートレイン:−
駆動用バッテリー:62.4kWh
急速充電能力:−
最高出力:680ps
最大トルク:91.6kg-m
ギアボックス:−
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みんなのコメント
デロリアンよりデロリアンっぽさがある。
グローバル開発が中心の海外メーカーはいいね。
貧困アジアばかり見てるメーカーはどんどんチープになる