アバルト史上初の電動化モデル、アバルト500eが日本上陸。BEVであることを最大限に活かし、唯一無二の魅力を持つ革新のエレクトリック・スコーピオン。スマートなBEVに、アバルトらしさはあるか。電動化の先にある新感覚のドライビングフィールを探したアバルト500eには、ブランドの哲学が電動化の時代を迎えても揺らぐことなく貫かれていた。(Motor Magazine 2024年1月号より)
サソリの毒気は電気を得て、新たなる刺激を生み出した
2023年5月のイタリアでの試乗ではバロッコのテストコースを全開で走り、びしょ濡れの路面コンディションも経験。中世の香り漂う街並みを滑り抜け、石畳というには荒れすぎた道も通った。日本では秋の都心の一般道と首都高速、圏央道と、ちょっとしたワインディングロードでも改めてハンドルを握り、と様々なシチュエーションで試乗してきた。そして心の中に残っているのは、“やっぱりアバルト500eは今この時点でもっとも楽しく走れるBEVだ”ということだった。
●【くるま問答】ガソリンの給油口は、なぜクルマによって右だったり左だったりするのか
まぁそうなるよな、と思う。何しろこのクルマは、誤解を恐れずに言えば、環境性能だとか航続距離だとか高速巡航性など、そういう諸々よりも、とにかくドライバーが日常的に“楽しい”“気持ちいい”を堪能できることを優先させた、目下のところ唯一のBEVなのだから。ほかにもっと速いBEVというのも存在するけれど、このクルマより走らせて素直に楽しい、おもしろいと感じるBEVは存在しないと思う。
それまでの僕はアバルトほど電動化がそぐわないブランドはないと考えていて、おそらく開発にあたったエンジニアたちも似た心持ちだっただろうと思っていたから、ずいぶん驚かされた。彼らは、内燃エンジンの存在なくしては語れない魅力を遠慮なしに放ちながら弾ける勢いでカッ飛んでいくクルマを手掛けてきた、いわば“モーター(=エンジン)ヘッド”たちだ。バッテリーとモーターで走るクルマは好まないだろう。僕はそう考えていたのだ。
ところが意外なことに、彼らには“時代だから仕方ない”という気持ちで電動化モデルに携わってきたような気配はまったくなく、ただただ楽しみながら開発を進めてきた空気があった。僕たちは、開発に携わった人が本当に仕事を楽しみながら手掛けたクルマはほぼ例外なしに彼らの狙いどおりに仕上がっている、ということを経験で知っている。アバルト500eが抜群に楽しいBEVに仕上がっているのも、当たり前と言えば当たり前なのだ。
開発にあたり、念入りにサソリ使いの調査をした
彼らはフィアット500eをベースに、いったいどうやって電動サソリを作り込んできたのか。開発をスタートさせるにあたって、実に様々なことを念入りにリサーチしたようなのだが、そのひとつとしてサソリ使いの生態調査を行ったところ、アバルト乗りたちはドライブ時間の8割をシティドライブ、郊外の気持ちいい道、ワインディングロードで過ごしている、という統計が出たのだという。彼らはそこに着目した。そして、重要なのは中間加速とハンドリング、という方針が定まった。
と、だいぶフロントヘビーになってしまったけれど、これらはこのクルマに関心を持つすべての人に知っておいてもらいたいことだ。現地でエンジニアたちの声を直接聞かせてもらった人間の責任として伝えておくべき、そう思ったからあえて記したのだ。
前回の試乗記でもお伝えしたが、フィアット版に対する+37psと+15Nmの増強は、各部のキャリブレーションと抵抗やロスの削減、可動接触面の改善、ハーネス内部の抵抗やロスの削減といった恐ろしく地味な作業を驚くほどたくさん積み重ねたことによるものだ。さらには最終減速比を9.6から10.2へと加速重視型に変えている。それらはもちろん、中間加速=コーナーからの立ち上がり加速を高めるためのチューンナップだ。
一方でシャシの方は、フィアット版の時点で重心の低さはもちろん前後左右の重量配分やホイールベース/トレッド比が極めて良好のため、バネレートとダンパーの減衰を少し締めた程度のチューンナップ。ただし、このクルマの車重や基本特性に合わせてブリヂストンと共同開発した、専用タイヤを履かせている。贅沢といえば贅沢だけれど、これがハンドリングとコーナリングのためであることは言うまでもないだろう。
そんなふうに明確な目的を持って濃くしたい部分を濃くしてきたアバルト500eは、まさしくエンジニアたちの狙いどおりのモデルになっている。発進加速が内燃エンジンのほとんどのモデルより鋭いのはBEVならでは、だ。
アクセルペダルを踏み込んだ瞬間の、瞬発力と加速力に圧倒される
アバルト500eが真価を見せるのは、街中を流すぐらいの巡航スピードからグッと加速していきたいとき、コーナーの頂点を抜けて鋭く脱出したいとき。アクセルペダルをキックしたその瞬間、ズバッ! と強力な加速を見せてくれるのだ。そのときの瞬発力、加速力、刹那のときめきは、このクラスのクルマには太刀打ちできるものがないほど。
BEVでいうなら車格が似ていてトルクで勝るプジョーe-208と較べても、ICE版でいうなら誰もが認める超痛快コンパクト、アバルト595/695と較べても、間違いなく上まわっている。20→40km/hと40→60km/hが695よりそれぞれ1秒速いというデータも、60→100km/hが1秒近く速いというエンジニアから聞いた話も、そのまま身体で理解できる。
6000時間=およそ2年半の時間をかけて創造したサウンドジェネレーターによるレコードモンツァエキゾーストの音色が気持ちよく跳ね上がることも手伝って、加速時の心のレブカウンターの上昇っぷりも結構なものだ。有り体に言うなら、胸がすく、背中が軽くゾクッとする、気持ちはスカッと晴れ渡る。要は最高に気持ちいいのである。
コーナーでの振る舞いも実に見事だ。ノーズは素早く滑らかに曲がりたい方向へ正確に向かい、旋回中はずっと安定、出口でのアンダーステアも驚くほど少ない。動きのしなやかさではe-208にかなり近く、コーナーでの安定性と旋回スピードの速さでは595/695を上回ってる。それと強力な立ち上がり加速がタッグを組むのだ。ワインディングロードなどでは695をコーナーごとに引き離していくだけの実力を、きっちりと見せてくれるのである。
これは紛うことなきアバルト。アバルトの哲学に沿ったクルマ以外の何者でもない。クラスを越えた速さがあるし、強烈に楽しいのだ。異端と誹られようと何と言われようと、BEVならではの持ち味を「楽しい」と「気持ちいい」の部分で炸裂させているようなこのクルマが、僕はとっても好きだ。(文:嶋田智之/写真:根本貴正 Motor Magazine編集部)
アバルト500e Turismo 主要諸元
●全長×全幅×全高:3675×1685×1520 mm
●ホイールベース: 2320mm
●車両重量:1360kg
●モーター最高出力:114kW(155ps)/5000rpm
●モーター最大トルク:235Nm/2000rpm
●駆動方式:FWD
●バッテリー種類・総電力量:リチウムイオン・42kWh
●WLTCモード一充電EV走行距離:303km
●タイヤサイズ:205/40R18
●車両価格:6,150,000円
[ アルバム : アバルト500e Turismo はオリジナルサイトでご覧ください ]
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みんなのコメント
低回転からトルクフルなBEVで8速ATはかなり無駄な装備のように思います。
固定ギアで十分だと思います。
静かになるのはいいことですね。