日本でも2020年モデルとして5月から予約が開始され、10月以降デリバリーされるというBMWの超巨大クルーザー「R18」に、イギリス人ジャーナリストのアダム・チャイルド氏がドイツで早速試乗。
1802cc水平対向2気筒という、規格外のエンジンがもたらす走り&味わいとは?
1920年~1930年の古典デザインと、巨大ボクサーエンジンを融合した「R18」
【関連写真19点】1802ccの排気量も、1920~1930年代風デザインも規格外!BMW R18を写真で解説
1920年代~1930年代のBMW製ボクサー・マシンにインスパイアされたBMW R18は、まるで博物館から転がり出してきたようなデザインだ。
いや、1934年のR7プロトタイプのように「アールデコ調」にも見えるデザインは、芸術作品のようだ、と言ってもいいだろう。
カーボンウイングを装着したBMW M1000RRのように闘志をむき出しにするわけでもなく、ハーレーダビッドソンのように派手なクロームで飾り立てるわけでもない──しかし、熱心なスポーツバイク好きにもR18のエレガントな姿は訴えるものがあるのではないだろうか。
これほど世界にインパクトを与えるクルーザーモデルはそうそう無い。
実に見事なデザインだが、このR18の排気量はBMW史上最大の1802cc、車重は345kgもあるのである。「……さすがに、大きすぎるんじゃないか?」そんな疑問を抱えつつ、ドイツに向かい180マイル(約290km)の試乗を行った。
低回転域で巨体をグイグイ走らせる空油冷1802cc水平対向2気筒エンジン
とにかく巨大なエンジンである。
この空油冷1802cc水平対向2気筒エンジンのシリンダーボアサイズは107.1mm、ピストンは私の手と同じくらいの大きさである。
ギヤボックスや吸排気系を含めたエンジン重量は110.8kg。ラグビー選手か、屈強なドアマンと同じくらいの重さである。
クルーザーモデルらしく、最高出力と最大トルクは低めの回転域で発生させる設定だ。ピークパワーはわずか4750rpmで91馬力、3000rpmで16.1kgmの巨大なトルクを生み出す。
史上最大の排気量であるだけでなく、史上最大にトルクのあるボクサーエンジンで、2000~3000rpmの間でも15.2kgmを超えるトルクを発揮するのだ。
こうしたスペックは巨大な見た目を裏切ることのない数値だが、トルクとパワーはアメリカの某Vツインクルーザーと比較するとわずかに劣る。
比較的低いシートに足を乗せると、まずエンジンに目を奪われる。突き出たシリンダーヘッドの一つ一つに圧倒されるような迫力があり、バイクに座ったままでこれだけのエンジンが視界に入ってくるというのは非常に異質な感じだ。
半面、ステップに適当な体勢で足を乗せていると、スネが巨大なシリンダーに近づき走行中に熱さを感じることも……。試乗時には土砂降りの雨に見舞われたが、おかげで濡れたブーツとジーンズを乾かすのに役立った(笑)。真夏にどれだけの熱が発生するのかは興味深いところだ。
なお、右シリンダーと左シリンダーはオフセットしており、右シリンダーの方が後方に位置する。それもあって、リヤブレーキペダルはシリンダーのほぼ真下というなんとも言えない場所にあるのだが、ただクセがあるだけで、それがR18の魅力をさらに引き立てている。
水平対向2気筒エンジンのバイクに乗ったことのない人は、R18に乗って走り出すと驚愕するかもしれない。スロットルを回すたび、バイクが左に押し出されていくからだ。
しかし、繰り返しになるが、このクセにも拍手だ。R18らしい魅力となっているからだ。
フィッシュテールのツインエキゾーストは見た目ほど音が良くないのが残念だった。最新の環境規制・ユーロ5に準拠しなければならないのはわかっている。
スロットルを大きく開けたときにはゴロゴロと唸るのだが、これだけ大きくてカリスマ性のあるエンジンだけに、音にも期待していたのだ。
犬や年金生活者を怖がらせるようなストレートパイプのアメリカンVツインみたいな音がほしいとは思わないが、「R18らしい何か」が音にも表現されていれば……と思うのだ。
ロック&ロールという名前のライディングモード
パワーデリバリーはスムーズで、「レイン」、「ロール」、「ロック」という名前も個性的なライディングモードの違いも実感しやすい。
スロットルをちょっとくすぐるだけで加速するので、クルーザーらしい走りをするのなら3000rpm以上回す必要はない。ピークパワーは4750rpmだが、そこを超えるとパワーはゆるやかに下降していき、5500rpmを過ぎたあたりでソフトなレブリミッターに当たる。
100km/hで2200rpm、120km/hで2500rpm。この領域では実に快適でスムーズだ。135km/h以上……3000rpmに近づくあたりから振動が出始め、4000rpm以上回すと振動が目立つようになってくる。
クルーザーモデルでは重宝するクルーズコントロールが標準装備されていないのは非常に残念だ。
ちなみに、ライディングモードの「レイン」……はそのままだが、「ロール」は他のBMW車における「ロード」、「ロック」は「スポーツ」に該当するもの(ライディングモードによって変更されるのは、エンジン性能と出力特性だけで、トラクションコントロールやABSの作動レベルには作用しない)。
各モードにおけるスロットルレスポンスとパワーは顕著な差がある。
「レイン」は非常にソフトで無気力だが、これほど排気量のあるエンジンにとってはただのギミックではない。濡れた路面で有効に役目を果たす。
「ロック」は反応が良く、ダイレクトでありながらもシャープすぎない好印象のセッティングだ。
345kgの車重でもまったく破綻しないR18の車体構成
シャシー開発チームとデザインチームも悩んだことだろう。
「110kgある1802ccのエンジンをクルーザーシャシーに搭載するんだ。リヤショックは隠したいな。ホイールはフロント19インチ、リヤ16インチで。ああ、ホイールベースは長くしたいけど、扱いやすさも兼ね備えていなきゃね」なんて、わがままな注文をまとめなければならなかったのだから。
とはいえ、このバイクの車重が345kgという事実から逃れることはできない。
走り出せば重量感はそこまで感じないし、BMWというメーカーだからこそ、それが可能だったのだろう。が、巨大なピストンが動いている様子を常に腹の下で感じるし、巨体であることを常に意識したうえでコーナリングスピードを決める走りが必要だ。
コーナリングは「曲がる」というよりは、泥水に飛び込むカバのように転がり込んでいく。大きなフロントホイールの上に乗って、横に転がしていくイメージである。
ステップが可倒式ということもあって、地面に接地し火花を散らすくらいでは限界を感じさせず、近くの生け垣に突っ込んだり、民家を壊したりするようないから安心だ。
サスペンションは比較的ベーシックなセットアップとなっている。フロントフォークの調整はできないが、ショックの吸収性は良好。全体としてやや硬めではあるが、フロントとリヤが連携のとれた挙動を見せるのも好印象だ。
(大型クルーザーの中には、フロントセクションとリヤセクションを別々の開発チームが造ったのではないかと思うほど、チグハグな動きをするものもある)
ライディングポジションも快適で、ハンドルバーの幅は広すぎず、狭すぎず、振動などは全く気にならない。
ただし長時間乗っていると、サスペンションの硬さが気になってくるので、本格的な長距離ツーリングに出かける前には、アクセサリーカタログを開いたり、アフターマーケット製品を調べたりして、快適なシートを探してみようと思う。
345kgの巨体を受け止める強力なブレーキ
BMWがR18にフロントブレーキに300mmのツインディスク&4ピストンキャリパーをしているのは伊達や酔狂ではない。345kgの車重があるバイクを止めるのは、3人乗りしたBMWの200馬力級スーパースポーツ S1000RRを止めるのに匹敵するくらい難しいことだからだ。
フロントブレーキレバーの操作でリヤブレーキも連動する機構を備えるが、その際のリヤブレーキの作動感は強めだ。
ブレーキの信頼性は高く、かなりハードな使い方をしてもタレる気配はなかった。無論、ABSは標準装備されている。ABSの作動感に関しては、フロントはそれほど違和感はないが、リヤはかなり介入が早い。
最新のBMW製バイクにしては珍しく、ABSはバンク角連動の「コーナリングABS」ではない。
低回転域を多用しのんびり走るようなクルーザーモデルには不要という意見もあるかもしれないが、R18のような超重量級バイクの場合は「コーナリングABS」の方がいいようにも思う。
1802ccもの巨大なエンジンだけに、エンジンブレーキ・マネージメントシステムも搭載されている。
素早いダウンチェンジの際にリヤがロックするのを防いでくれるものだが、乗っていてもその効果を感じることができる。エンジンブレーキの効力を減少させてくれるので、2ストロークマシンのようなフィーリングで面白いようにコーナーを駆け抜けることができる。
トラクションコントロール(走行中にもオン/オフ操作も可能)は、それ自体でも十分スライドやホイールスピンを防いでくれるが、ABSのようにバンク角連動ではなく、今となってはシンプルな制御だ。
だがやはり、プレミアムな価格帯のBMWである以上、バンク角連動のトラクションコントロールを備えていてほしかった。
ここが気になるR18
試乗前に気になっていたのは、燃費と航続距離だ(燃料タンクは16L)。左右に張り出した各シリンダーは巨大で、ロンドンのバスのような空気抵抗があるはず。加えて、重量も忘れてはいけない。きっと恐ろしい燃費を叩き出すだろう、と思っていたのだ。
しかし、運河をゆくボートのようにゆっくりと回転するエンジンの燃費は、実際にはそれほど悪くなくなかった。BMWは50マイル・パー・ガロン(約21km/L)を超えるといっていたが、ミュンヘンの南からオーストリアに向かって高速道路と山岳路を混ぜた180マイル(約290km)の走行では、54マイル・パー・ガロン(約23km/L)を記録した。
計算上は、航続距離は200マイル(約320km)を超えることになる。
個人的には、クルーザーモデルのバイクには燃料計や航続距離表示があった方がいいと思う。旅路の計画を立てやすいからだ。
しかし、残念ながらR18は燃料警告灯がついているだけだ。
警告灯が点いて慌てて給油場所を探したり、走行開始して10マイルくらい走った後に点灯したりするのは、本当、憂鬱なことなのに……。
R18の「バリュー・フォー・マネー」
このような内容を踏まえ、価格に対する価値を考えてみたい。
ふたつの見方がある。
ひとつは、1万9000ポンド(約260万円) するにもかかわらず、クルーズコントロールすらついていない、一人乗りのクルーザーであるというネガティブなもの(その上、豊富なオプションや純正アクセサリーがとても心をくすぐってくるので、オーナーとなったらそれ以上にお金を使ってしまいそうだ)。
もうひとつは、ハイエンドのBMWブランドのバイクを購入したという所有感だけでなく、今までにない全く新しいジャンルのバイクを手にしたという満足感を得られるというポジティブなものだ。
しかし、「クルーザー」というカテゴリー上の共通点のみとなるが、他メーカーのモデルと比較してみると、価格はいい落とし所とも言える。
BMW自身のK1600B(1600cc直6エンジンのクルーザー)よりは安いし、ハーレーダビッドソンでいえばソフテイルのデラックス、インディアンではビンテージダークホース、トライアンフではロケットIIIあたりと競合するが……それ以前に、R18はライバル不在のモデルと言えるだろう。
また、BMW製に限らず1000ccのスーパースポーツモデルが2万ポンド(約275万円)を超えるのが割と当たり前になっている昨今、極端に高いというわけではなく、妥当なところではないか。
しかし、悩みの種は膨大なアクセサリーパーツである。
ローランドサンズやバンス&ハインズとのパートナーシップでデザインされたパーツ群に、BMWらしい機能オプション──R18はあなたの想像力を自由に働かせるための真っ白なキャンバスとなる。「吊るしでいい」というオーナーは極めて少数だろう。
そうした展開を「マーケティングによるイメージ戦略だ」とあざ笑う人もいるかもしれないが、簡単にカスタムでき、パーソナライズが可能というR18の車両構成は「巧妙」としか言いようがない。
BMW R18総評
現在、市場に出回っている他のどのモデルとも異なる、このようなドラマチックなクルーザーを生み出したBMWには賞賛の拍手しかない。
クルーザー市場は何十年もの間、似たようなVツインモデルでガチガチになっていたが、BMWは巨大なボクサーエンジンという新たな世界観を見せてくれた。1920年代~1930年代をイメージした古典的デザインと(露出したシャフト・ドライブなどの仕上げは特に素晴らしい)、2020年生まれの現代的なパフォーマンスを発揮するボクサー・エンジンの融合だ。
しかも、一日中コーナーを走り回って楽しむこともできる。確かに重く、左右に揺れ、高回転で振動はあるが、コレは「欲しくなる」。
もう、燃料計&航続距離表示がないこと、クルーズ・コントロールが標準装備されていないことなどの不満は許すことにしよう(笑)。
BMWが2008年にS1000RRでスポーツバイク市場に飛び込んで定位置を築いたように、R18もまたクルーザー市場において同様の結果をもたらす可能性を秘めている。伝統的なクルーザーメーカーにとっては、脅威となる存在だろう。
BMW R18主要諸元
[エンジン・性能]
種類:空油冷4ストローク水平対向2気筒OHV4バルブ ボア・ストローク:107.1mm×100.0mm 総排気量:1802cc 最高出力:67kW<91ps>/4750rpm 最大トルク:158Nm<16.1kgm>/3000rpm 変速機:6段リターン
[寸法・重量]
全長:2440 全幅:964(ミラー含む) 全高:1232(ミラー含む) ホイールベース:1731 シート高690(各mm) タイヤサイズ:F120/70R19 R180/65B16 車両重量:345kg 燃料タンク容量:16L
[日本仕様価格]254万7000円~
試乗レポート●アダム・チャイルド 写真●BMW まとめ●上野茂岐
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みんなのコメント
今ならロケット3Rが心引かれるかな。