アストン マーティンDBS スーパーレッジェーラ
今回のクルマを選ぶに当たり、何台もの候補が挙がった。それぞれにもっともな理由があった。しかし議論を深めていくと、そのラインナップには見逃せないほど大きなギャップが存在していることも見えてきた。
【画像】世界に誇るべき英国車 アストンDBSから日産キャシュカイまで 英編集部選の5台 全139枚
つまり、アストン マーティンDBS スーパーレッジェーラに並ぶほど最高の英国車は、他に存在しないのだ。優雅でありながら適度にワルな、V型12気筒エンジンをフロントに搭載したグランドツアラーだ。
そのルーツを辿れば、1960年代のDB5へつながり、さらに遡れば1920年代の初の量産モデルへ結びつく。1世紀を通じて、自らのDNAを進化させてきたといえる。
あるいは、過去何度も実行され磨き込まれてきたレシピの、最新で最適な解釈によって生み出されている。これは、ジャガーやベントレー、モーガン、ロールス・ロイスといったブランドにも当てはまることではあるけれど。
バッテリーEV(BEV)へのシフトが進み、大排気量エンジンはもうすぐ終演を迎える。史上最高傑作といえるスーパー・グランドツアラーは、現役引退の節目が近づいている。
最新のDBSには、ドイツ由来のコンポーネントも少なくない。725psを発揮する5.2L V12ツインターボ・エンジンに、8速オートマティックのトランスミッション、多くの電子デバイスなどは、ドーバー海峡を超えて届けられている。
しかし、このDBSという威風堂々とした仕上がりは、英国のゲイドンでなければ達成が難しかったはず。まごうことなきアストン マーティンだ。
国としてのアイコン フェラーリの好敵手
AUTOCARでは2018年にDBSへ試乗し、満点の評価を与えている。正直なところ、筆者はその采配へ完全に賛同できるわけではない。
ボディの大きいアストン マーティンは若干扱いにくくもあり、英国の公道を運転していると気を使い疲れてしまう。グランドツアラーとしては、ベストな印象ではないだろう。
それでも、このクルマが大好きだということに変わりはない。むしろ4年後の今は、もっと惚れ込んでいる。
カーボンファイバー製のクラムシェル・ボンネットや、リアへ流れるグラマラスなラインは、これ以上良くしようがないと思えるほど美しい。DB3から着想を得たフロントマスクは歴代の定番といえるものだが、嫌いな人は少ないはずだ。
動的能力の仕上がりも素晴らしい。鮮明で好感触なステアリングは、技術者のマット・ベッカー氏が手掛けたもの。在任期間は短かったが、彼の技術力がしっかり落とし込まれている。
しなやかな乗り心地と、調整しろの広い操縦特性というバランスも、清々しいほどに優れている。フェラーリ812スーパーファストほどのシャープさは備わっていないが、不満を感じることはない。
国としてのアイコンでもあり、フェラーリの好敵手。これ以上の英国車を、筆者は思いつくことができない。 Richard Lane(リチャード・レーン)
日産キャシュカイ(デュアリス) e-パワー
日産はしばしば、思慮深く他社とは異なることを実行する。大きく目立つことはないかもしれないが。その好例といえるのが、シリーズ式ハイブリッドを人気の中型SUVへ搭載した、新しいキャシュカイ(デュアリス) e-パワーだ。
1.5L 3気筒ターボエンジンをボンネット内に搭載するが、フロントタイヤとはつながっていない。キャシュカイを走らせるのは190psの駆動用モーターのみ。それでいて、バッテリーEV(BEV)やPHEVがはらむ課題や弱点から開放されている。
e-パワーで優れている点は、BEVと同等の洗練されたアクセルレスポンスを実現していること。回生ブレーキの強さも変更できる。
2030年か2035年にハイブリッド搭載モデルが販売終了を迎えるまで、駆動用バッテリーやモーターにアップデートを加えながら、e-パワーは生き残る予定にある。BEVへの移行を滑らかにするように。
熱効率にも優れ、ブレコンビーコンズ国立公園のチャレンジングな道を積極的に走らせても、燃費は17.0km/L前後をコンスタントに維持。普通に一般道を運転している限り、18.0km/Lを超えることも珍しくない。
発進加速の勢いも、まるでBEVのように鋭い。右足の力加減へ正確に反応しながら、スピードを高めていく。
サイズと品質、価格のベストなバランス
試乗車には、新世代のインフォテインメント・システムが搭載されていた。現在はトップグレードのみの採用だが、追ってすべてのキャシュカイへ普及する予定にある。
タッチモニターが中心のインターフェイスではあるが、メニュー構造は理解しやすく操作性はいい。描かれるグラフィックが少々漫画チックではあるものの、表示自体はクリアで読みやすい。
インテリアの設えも褒められる。グレートブリテン島の中西部にある、日産サンダーランド工場の製造品質の高さを物語っている。
もちろん、改善を求めたい部分はゼロではない。ステアリングホイールのレシオは丁度良く、重み付けも良好ながら、もう少し路面からの感触が欲しい。回生ブレーキから摩擦ブレーキを伴う移行時には、制動力に若干の段付きがある。
サスペンションには、もう少し落ち着きが欲しい。特に低速域での路面の凹凸が苦手な様子。細かな入力は、巧みにいなしているようではあるが。
それでも、e-パワーのパワートレインはシームレスでサイレント。この洗練性は、ベントレーに並ぶのではないかとさえ思う。
利便性を重視したSUVでありながら、日産としてはドライバーズカー寄りの楽しい走りも実現している。スポーティと呼べる程ではないが、ブレコンビーコンズ国立公園のワインディングで、その事実を再確認することができた。
2021年の発売以来、大きな成功を収めていることにも納得だ。日産キャシュカイ e-パワーは、適度なサイズと品質、価格という、ベストなバランスにある。
アストン マーティンDBSと日産キャシュカイのスペック
アストン マーティンDBS スーパーレッジェーラ(英国仕様)
英国価格:25万7000ポンド(約4266万円)
全長:4712mm
全幅:1968mm
全高:1280mm
最高速度:339km/h
0-100km/h加速:3.4秒
燃費:7.1km/L
CO2排出量:295g/km
車両重量:1845kg
パワートレイン:V型12気筒5204ccツインターボ
使用燃料:ガソリン
最高出力:725ps/6500rpm
最大トルク:91.6kg-m/1800−5000rpm
ギアボックス:8速オートマティック
日産キャシュカイ(旧デュアリス) e-パワー(英国仕様)
英国価格:4万980ポンド(約680万円)
全長:4425mm
全幅:1838mm
全高:1635mm
最高速度:168km/h
0-100km/h加:8.5秒
燃費:18.9km/L
CO2排出量:119-123g/km
車両重量:1728kg
パワートレイン:直列3気筒1498cc自然吸気+電気モーター
使用燃料:ガソリン
駆動用バッテリー:1.85kWh
最高出力:190ps(駆動用モーター)
最大トルク:33.5kg-m(駆動用モーター)
ギアボックス:シングルスピード
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