台風が関東地方にまもなく直撃! 台風や線状降水帯によって短時間に大量の雨が降ると排水が追いつかず、道路上に水が溢れ出してしまう。そこで、冠水路の走行がクルマに与える悪影響や冠水してしまった場合の対処法を紹介しよう。
文:入江 凱/写真:写真AC、Adobe Stock/出典・引用:JAF
【台風直撃緊急情報】豪雨で道路がヤバい! クルマが冠水してしまった場合にどうすればいいのか?
※2022年8月の記事を再掲載しています
■冠水したらそのくらいの水深まで走れるのか?
この程度の水深でも、足回りはダメージを受ける。特にハブベアリングのサビが発生するリスクが高まり、サビを放置すると異音が出たり、腐食が進むとアクスルシャフトが損傷したり、ホイールが外れたりすることもある
まず、ご自身のお住いの地域の道路に危険が迫っていないか、国土交通省の「道路防災情報WEBマップ」などで事前にチェックしておこう。
道路防災情報WEBマップ
自分の地域のハザードマップを確認して大雨の際に氾濫、冠水しやすい場所を調べておこう
次に冠水してしまった道路を走らないのが鉄則だが、クルマが問題なく走ることができる水深はどのくらいまでなのか? 実際に冠水路を走行した実験をJAFが行っているのでご紹介しよう。
JAFでは冠水したアンダーパスを想定した全長30mのコースを用意し、セダンとSUVの2車種による走行の可否を検証した。水深は30cmと60cm、進入速度は10km/hと30km/hと条件を変えながらテストが行われた。
実験によると、水深30cmであればセダン、SUVともに走りきることができた。しかし、水深60cmになるとセダンは10km/hでの進入した場合は多少の走行はできたものの、最終的にはエンジンが停止してしまった。
エンジンルームの位置が高いSUVにおいては、10km/hでの進入であれば走りきることができたが、30km/hではナンバープレートが歪むほどの衝撃を受けるとともに10mでエンジンが停止してしまった。
冠水路走行テスト(JAFユーザーテスト)
ちなみに、水深30cmとは成人男性の場合、おおよそ膝下くらいの水位、水深60cmは腿のあたりがつかるくらいと考えればいいだろう。
ただし、この実験結果は一例であり、車両の設計やさまざまな条件によって結果は異なってくるため30cmというのは一つの目安と考えておこう。
実際には冠水時に正確な水深を計ることはできないし、水の中に落下物などがある可能性もある。道路が冠水したら、安易に「これぐらいなら大丈夫」と自己判断をせず、進入しないことが原則だ。
■冠水路を走った時に発生するトラブルは?
冠水したらクルマはどうなるのか?(Teerapong Yovaga@Adobe Stock)
JAFの実験でも示されているが、クルマのエンジンが停止してしまった原因はエアインテークと呼ばれる空気の取り入れ口からエンジン内部にまで水が入り込んでしまったことが大きな原因。
エンジンは圧縮した燃料と空気の混合気を燃焼させることで作動するが、エンジン内部に水が入ってしまうと適切に圧縮が行えず、最悪の場合はエンジン内部が破壊されてしまうウォーターハンマー現象と呼ばれる重大なトラブルを招く可能性もある。
他にも冠水路へ進入したり、冠水路の中で動けなくなってしまうことで不具合を起こしたり、乗員に危険を招く場合がある。いくつか具体例を紹介しよう。
■タイヤ
タイヤが完全に水没してしまうレベルの水深になると、浮力によって車体が浮いてしまい、しっかりとタイヤが接地できなくなり、クルマを動かすことができなくなる恐れがある。水の流れが急な場合、そのまま流されて高い所から落下したり、河川などの危険な場所に流されてしまう危険性がある。
■マフラー
クルマの床面と同程度の高さにあることが多いマフラーはエアインテーク同様に水が浸入しやすく、その水がエンジン内部に進入してしまい、エンジン停止やウォーターハンマー現象が起きる恐れがある。
■ドア
水の中でエンジンが停止しまった場合、はじめにドアを開けて脱出を試みるはずだ。しかし、水深がドアの下端を超えてしまうと外からの水圧がドアにかかり、高さが増すほどに開けるのは困難になっていく。
形状にもよるが、一般的にドアの半分ほどの高さにまでなってしまうと内側から開けることが難しくなると言われている。たとえスライドドアであっても、開ける時に一度外側にドアを押し出す必要があることと、ドア自体が重く大きいため、強い水圧がかかると開かなくなる。
■電気系統
床面を超える浸水があった場合、電気系統がショートして電動スライドドアやパワーウインドウが操作不能になる恐れがある。
また、ハイブリッド車や電気自動車では駆動用バッテリーなどがシート下やトランク下、センターコンソールの下といった車体の下部に置かれていることも多い。防水対策は施されているものの、大量の水が浸入してしまえば故障は避けられない。当然、故障すればガソリン車同様、エンジンがストップしてしまう。
■クルマが冠水路にハマってしまった時の対処法
高架下やアンダーパス以外には地下駐車場なども水が流れ込んで冠水しやすいので注意が必要だ
危険を伴うと認識しつつも、実際には冠水路をなんとか走り抜けようという人がほとんどだろう。そんな現実を鑑みると、クルマが冠水路にハマってしまった場合の対処法は絶対に知っておくべきだ。
まず心してほしいのは、時間が経てばさらに水かさが増すかもしれない状況でそのまま車内に残っているのは危険ということだ。冠水路にハマって動けなくなったら、まずはエンジンを停止して安全に脱出することを考えよう。ドアが開かなかったとしても、水深が窓の高さより低く、パワーウインドウが生きていれば窓を開けて脱出を。
電気系統がショートしてパワーウインドウが作動しない場合は、市販の脱出用のハンマーなどを使って窓を割って脱出しよう。脱出ハンマーは事故に遭った際などに外れなくなったシートベルトを切断する機能が付いていることが多いため、常備することをお薦めする。
ただし、フロントガラスに飛散防止などを目的とした特殊なガラスである「合わせガラス」が使用されている場合は、ハンマーを使ったとしても粉砕することはできず、脱出できるほどの穴を開けるのも困難だ。
水圧によってドアが開かず、パワーウィンドウも動かなければ脱出用ハンマーなどを使い窓ガラスを割って脱出する。ただし、合わせガラスは割ることが難しいので要注意
フロントガラスが割れなかった場合、サイドやリアのガラスを割って脱出するようにしよう。ただし、一部の車種ではフロント以外のドアガラスにも合わせガラスが採用されていることがあるので、事前にディーラーに確認しておくといいだろう。
水圧でドアも開かず、窓ガラスを割ることもできない場合、車内に水が満ちるのを待つしかない。車内に水が入ってくるのは不安だろうが、車外と車内の水の高さが同じになると圧力差がなくなり、ドアは開くようになるので、落ち着いてシートベルトを外すなど、脱出の準備をしながら圧力差がなくなりそうなタイミングを見計らい、強くドアを押し開け脱出しよう。
また、水が引いた後の対処にも注意が必要だ。一度浸水したクルマのエンジンをかけたりするのは重大な故障や車両火災、感電を招くため絶対にNG。エンジンをかけずに、ディーラーやロードサービスに連絡をとり、さらに発火のリスクを回避するためにバッテリーのマイナス端子を外しておこう。
注意してほしいのはハイブリッド車や電気自動車。これらに使われている高電圧のバッテリーは大変危険なので絶対に触らないようにしよう。
■一度水没してしまったクルマはもう廃車?
冠水路を走ったら、一度、整備に出すことが理想。冠水路を走ったことを告げ、特に足回りとエンジンルームのチェックは入念にしてもらおう
程度にもよるが、残念ながら一度水没や浸水してしまったクルマを元のように乗るのは難しい……。エンジンや電気系に不調が発生しやすくなることはもちろんのこと、車内に独特の臭いが残ってしまったりもする。
道路に溢れ出た水は雨水だけでなく、排水溝やマンホールから溢れた汚水や河川の泥、場所によっては海水などが含まれていることもあるからだ。また、目に見えない金属部分の腐食が進んでしまったりすることもある。
修理費用は高額となるうえに、水没や浸水の影響を完全に取り除くことは難しく、ある程度修理をしても「どこにいつ不具合が出るかわからないクルマ」ということで、水没したことがあるクルマは、その他の修復歴のあるクルマ以上に中古車の買い取り業者には避けられる傾向がある。
水害の場合は車両保険に加入していれば、補償の対象となるが、保険会社やプランによって補償内容が異なるため、加入前に確認をする必要がある。
線状降水帯が頻繁に発生するなど、今まで水害とは無縁と思われてきたような地域でも水害が発生している昨今だけに、今まで車両保険には加入していなかったという人も今後は加入を検討することをお薦めする。
【画像ギャラリー】もしクルマが冠水してしまったら対処法教えます!(6枚)
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