予選4番手、決勝も4位で惜しくも表彰台こそ逃したが一時は3番手を走行。長く低迷が続くCERUMOに明るい兆しが見えた一戦となった。昨シーズン限りでドライバーを退いた立川祐路監督の下、新体制で2024年シーズンを迎えたTGR Team KeePer CERUMOのふたりのドライバー、石浦宏明と新加入の大湯都史樹が、4月14日(日)に岡山国際サーキットで開催されたスーパーGT第1戦岡山の決勝レースを振りかえる。
■公式練習でのトラブルからV字回復
2024年スーパーGT第1戦岡山『OKAYAMA GT 300km RACE』走行全車総覧 GT500
Q1とQ2を走った各ドライバーのベストラップを足した“合算タイム”で決勝グリッドを決定する、今季から導入された新しいスタイルの予選にて2列目4番手を確保した38号車KeePer CERUMO GR Supra。ホンダから移籍してきた大湯のアタックでQ1では2番手タイムを記録した38号車だが、直前の公式練習ではパワーステアリング関係のトラブルに見舞われ多くの時間をピットで過ごすこととなっていた。
GT500クラスで2番目に少ない26周。ポジション12番手に終わった同セッションからサスペンションのジオメトリ変更を含めセットアップを大きく変え、これが奏功し決勝の4位入賞につながる予選での好ポジション獲得に至るわけだが、大湯曰くこれらの変更によってクルマは格段に扱いやすくなったという。
「(公式練習で)ちゃんとアタックできていなかったというのもあるのですが、それにしてもだいぶ良くなったなという印象でした。持ち込みのセットを外していた部分がかなりあって、そこを修正できたのが良かったです」
「簡単に言ったらオーバーステアが減りましたね。それまではオーバーすぎてブレーキもまともに踏めないような感じでした」
KeePer CERUMO GR Supraはシーズンオフのテストからトヨタ陣営の中でも後れを取っていた。その要因のひとつには前年チームランキング12位(トヨタ/GR陣営6チーム中5位)に終わったことで優先権が陣営内での2024年型の最新パーツのデリバリー順が遅くなってしまい、最終版のパッケージでの走行時間が少なくなってしまっていたことが背景にある。
また、トラブルやテスト走行時の天候面にも祟られ「充分なテストができていなかった」と大湯は語る。「雨が降ったりとか、正直セットアップなんなりを含めてあまり自信を持てていませんでした」
「その部分を修正できたのはすごく良かったですし、フィードバックはもちろんしてるのですが、結局どうするかを決めるのはエンジニアなので、エンジニアと分析と判断が非常に良かったのではないかと考えています」
■抜きにくい「難しい」状況下でSTANLEY CIVIC TYPE R-GTをオーバーテイク
昨シーズンまで在籍したホンダのマシンと今季ドライブするGRスープラを比較したときの印象として、大湯は両陣営の車両特性の雰囲気が「近くなった」と感じている。このオフにメーカーを移った彼の視点では、昨季2023年はどちらかといえばダウンフォースで走るホンダのクルマと、メカニカルグリップで走るトヨタ車という印象があったのに対し、今シーズンのマシン『ホンダ・シビック・タイプR-GT』と『トヨタGRスープラ』は特性が似てきたように映るという。
なお大湯は、前年仕様のGRスープラと2024仕様では前者のほうが乗りやすく、後者はやや難しさを感じると述べた。印象的だったのは、直後に放たれた「乗りやすいだけがすべてじゃない」という言葉だ。クルマの競争力はもちろん、トヨタ/GRを含め各メーカーがドラバビリティの向上にも力を入れるなか、今季仕様のGRスープラは以前よりも扱いにくい特性を持ちながらも、ドライバーがマシンのパフォーマンスを引き出しやすい傾向にあるのかもしれない。
そんなGRスープラを駆り、スタート時の4番手から3番手にポジションを上げて石浦にバトンをつないだ大湯はCERUMOでの初戦を終えたあと、「(チームとしては)2023年以前を見ると大きな進歩があるというか、ワンステップ踏めたなという結果を出せたので良かったです。反対に2、3番手に対してはちょっと惜しかった部分があるので、そういう意味では悔しさもあります」と決勝を振り返った。
18周目に牧野任祐がドライブする100号車STANLEY CIVIC TYPE R-GTをパスして3番手に浮上した大湯は、その勢いで関口雄飛がステアリングを握る39号車DENSO KOBELCO SARD GR Supraの攻略を図った。しかし近づきはすれどオーバーテイクには至らず、ピットインのタイミングを迎え29周目にドライバー交代のためピットロードに進路を向けた。
岡山国際サーキットはもともとオーバーテイクが困難なトラックではあるが、今回はその傾向がいっそう強かったと大湯は見ており、そのなかで自身の仕事をやりきたったことに手応えを感じている。
「全車が結構ダウンフォースをつけている状態だったからか、(近づくと)急にダウンフォースがなくなる感じがあり、結構抜きにくい状態でした」
「そういう難しい状況ではあったんですけど、その中で1台抜けたっていうのは良かったことですし、何回か『行けるかも』みたいなところもありました。その状態で3番手で(石浦に)バトンを渡せたというのは内容として良かったかなと思います」
「結果的には4位で、もうちょっと欲しいところではあるのですけど、上々の滑り出しなんじゃないかなと思います」
■リタイアの危機! 視界不良と戦った石浦
2021年第6戦オートポリス(2位)以来、ひさびさの表彰台獲得が見えてきた矢先、KeePer CERUMO GR Supraはピット作業で右フロントタイヤの交換に手間取り、同じタイミングでピットインしていた100号車STANLEYに逆転を許してしまう。実質4番手でコースに戻った38号車はその後、石浦のドライブでポジションをキープ。優勝した36号車au TOM’S GR Supraから21秒差の4位でフィニッシュした。
「ちょっとタイヤ交換で時間が掛かって遅れちゃったんですけど、そこからは前も後ろもつかず離れずという感じでしたね」と自身が担当した後半スティントを振り返った石浦。
「クリアな状況では結構ペースを上げられる瞬間もあったのですが、巡り合わせがあまり良くないことが多く、せっかく追いついても(GT300との絡みで)離れてしまったり。途中だと千代(勝正/23号車MOTUL AUTECH Z)かな。結構いいペースで(後ろから近づいて)きたのですが、こっちのタイヤ的に後半の方がいいんじゃないかなと思っていたので、そこだけしのげばという感じでした」
65周目に導入されたフルコースイエロー(FCY)の解除後はグリップが良好で、僅差で2番手で争う39号車DENSOと100号車STANLEYに詰め寄っていった石浦。「最後、もしかしたら前の2台と勝負ができるかも」と考えていたというが、直後にGT300クラスの集団と遭遇しチャンスを逃すことに。集団をかわしていくなかでは何度か軽い接触もあったという。
またKeePer CERUMO GR Supraはレース終盤には予期せぬトラブルでリタイアの危機に瀕していた。「ボンネットの手前側がちょっと開いてしまい、前が見えなくて……」と石浦は状況を説明した。
「それくらいで収まってくれて良かったですけど『大事になったらどうしよう』とか『リタイアになっちゃったらどうしよう』と心配していたので、そういう意味ではなんとかゴールできて、そこは良かったと思います」
最後に「戦闘力的には大湯も3番手でピット入ってきてますし、すべてが噛み合えば表彰台に行けたと思うので、ちょっと悔しいところもあります。ただ、久しぶりに戦える手応えを感じられて楽しかったです。この先がちょっと楽しみですね」と石浦が語るように、ドライバー両名が自信を掴んだ様子のTGR TEAM KeePer CERUMO陣営。再浮上を期する名門チームがこの結果を足がかりに今季こそ復活を果たせるのか、注目したいところだ。
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