モータースポーツだけでなく、クルマの最新技術から環境問題までワールドワイドに取材を重ねる自動車ジャーナリスト、大谷達也氏。本コラムでは、さまざまな現場をその目で見てきたからこそ語れる大谷氏の本音トークで、日本のモータースポーツ界の課題を浮き彫りにしていきます。
第2回は、『電気自動車時代を前にして、自動車メーカーによるレース活動が抱えているジレンマ』がテーマです。自動車社会が100年に一度の変革期を迎えていると言われる今、モータースポーツも変わるべき時が来ているのかもしれません。
2019/20フォーミュラE第3戦:ギュンターが最終ラップまで繰り広げられたバトルを制し初優勝
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■ドイツ名門が揃ってEV製品化に積極的なのはなぜ?
BMW、アウディ、メルセデス・ベンツ、ポルシェ、そしてフォルクスワーゲン。近年、ドイツの自動車メーカーは精力的に電気自動車(EV)の製品化に取り組んでいます。
かつては「1回の充電で走行できる航続距離が短い」「充電に長い時間がかかる」「車両価格が高い」などの指摘を受けてきたEVですが、ドイツでは80~100kwhという大容量バッテリー(ニッサン・リーフは最大で62kwh)を搭載したモデルが続々と登場して、400km以上の航続距離を実現。
充電時間も30分以下で80%程度まで充電できる急速充電タイプが登場し始めています。ドイツ製EVの場合、価格は1000万円前後が主流ですが、バッテリー価格の低下に伴って、今後はお手軽なモデルも徐々に登場することでしょう。
ドイツの自動車メーカーがEVの製品化に積極的なのはなぜでしょうか? ヨーロッパでは、CAFE(Corporate Average Fuel Efficiency: 企業別燃費基準)といって、自動車メーカーごとの平均CO2排出量に規制がかけられています。
しかも、その規制値は極めて厳しく、2021年にはガソリン車の燃費換算で24.4km/L、2030年には34.9km/L程度になるといわれます。これだけの低燃費をエンジン車で実現するのは不可能に近く、これがEVの製品化に拍車を掛ける理由のひとつとされます。
またアメリカや中国などでは主要メーカーに、EVもしくはFCV(燃料電池車)を一定の比率で販売することを義務づけたZEV(Zero Emission Vehicle)規制が存在していることも、EVへのシフトを加速させる要因となっています。
■エンジンが消えるEV時代に、ドイツ勢がフォーミュラEに参戦するメリットは?
そうした動きに呼応して、フォーミュラEに参戦する自動車メーカーの数は急速に増えています。現在エントリーする12チーム中、大手自動車メーカーと縁の深いエントラントはなんと9チーム。しかも、そのなかにはポルシェ、メルセデス・ベンツ、BMW、アウディとドイツの名門メーカーがずらりと揃っています。
こんなことは、かつて隆盛を誇ったグループCレースでもなかったほど。自動車メーカーの“フォーミュラE熱”には驚かされるばかりです。
どうして、ドイツの自動車メーカーは熱心にフォーミュラEに取り組んでいるのでしょうか?
かつてクルマのキャラクターは、エンジンによって決まるとさえ言われていました。では、EV時代を迎えて自動車からエンジンが消えると、なにが起きるでしょうか?
クルマから個性が失われ、どのメーカーのEVを買っても同じということになりかねません。これは、ブランド性に頼って高級車を販売してきたドイツ車メーカーにとって死活問題ともいえる事態です。
そこで彼らはEVにも自分たちの遺伝子を残そうとして必死になっています。ポルシェのEV『タイカン』は、外観も運転感覚も911にそっくり。BMWは先進テクノロジーを全身にまとったEVのi3をリリースし、スポーツ4WDのクワトロで長い歴史を有するアウディは、ダイナミックな走りが楽しめるeトロンでEV市場に打って出ました。
メルセデス・ベンツが先ごろ発売したEQCが快適性や安全性を売り物にしているのは当然のことです。
おそらく彼らは、そうした努力を補強するためにフォーミュラEに参戦しているのでしょう。フォーミュラEで成功を収めて、自分たちがEV技術でも最先端にあることを世に知らしめたい。
もしくはエコカーとして認識されることの多いEVでレースを行うことにより、そのダイナミックな走りを印象づけたい。そんな思いがフォーミュラE参戦の背景にあるようです。
とはいえ、EV市場はまだまだ極めて小さいのが現状です。2018年のグローバルなEV市場はおよそ130万台でしたが、ほとんどのドイツ・メーカーにとって、EVの売り上げ比率は1%に満たない数字。その程度の少量生産モデルのために、巨額なプロモーション予算は割けません。
フォーミュラEの主催者は当初よりこのような状況を鑑み、メーカーのコスト負担を最小限に抑える努力をしてきました。各チームが独自に開発できる領域をドライブトレイン系に限り、車体やバッテリーなどをワンメイクとしているのはこのためです。
また、市街地でレースを行なったり、様々なイベントと抱き合わせでレースを催すのは、既存のモータースポーツに関心のなかった層を呼び込むためと考えられます。
EVの購入を検討するのは、長年のモータースポーツ・ファンよりは環境問題などに関心が強い層が中心でしょう。フォーミュラEの主催者は、この辺を見越してイベントの性格を決めていると考えられます。
今後、フォーミュラEの焦点は各メーカーがいかにして自分たちのブランド性をアピールできるかに移ってくると予想されます。この場合、当然コストは増大しますが、それに見合ったパフォーマンスがプロモーション面で発揮されれば、自動車メーカーはフォーミュラEに留まるでしょう。
果たして、フォーミュラEの人気が高まるのが先か、それとも自動車メーカーがシリーズへの投資に耐えられなくなるのが先か……。今後しばらくは主催者側と自動車メーカーのガマン比べになりそうな気がします。
【Profile】大谷達也 Tatsuya Otani/自動車ジャーナリスト
エンジニア職を経験後、自動車雑誌編集部で新車情報やモータースポーツに関する記事を編集・執筆。2010年からフリーランスとなり、ハイパフォーマンスカーの試乗記事の執筆を中心に、自身の経歴を活かした環境技術や最新モデルの新技術の解説にも定評がある。モータースポーツ記者会会員。
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