アウディがマッティア・ビノット(元フェラーリF1チーム代表)をF1プロジェクトのトップに起用したことは、彼にとって願ったりかなったりだった。ビノットは、ドイツのメーカーのF1プログラムの完全な指揮権を与えられるが、それは彼がシャシーとエンジンの両部門を統括するテクニカルディレクター兼チーム代表としてフェラーリに在任していたときのパワーを反映している。
2023年の初めにビノットに代わってフレデリック・バスールがチーム代表に就任し、フェラーリの技術体制はより伝統的な形式に戻った。ビノットは、チームを完全にコントロールできる場合にのみ、グランプリの世界への復帰に関心を持っていたため、彼とアストンマーティンの交渉は実を結ばなかったと考えられている。
ザイドルとホフマンの解雇に見える、アウディの厳格な組織運営。F1での将来を見据え内紛は許されず
アストンマーティンの会長であるローレンス・ストロールは、チーム代表のマイク・クラックやテクニカルディレクターのダン・ファローズを含む現在のスタッフの誰よりもビノットを優先するつもりだったが、ストロールは重要な事柄の最終決定権を自身が持ち、断固としてビノットの地位よりも上に立つことを明確にしていた。
これによりアストンマーティンの扉は閉じられたが、別の扉がアウディによって開かれた。現在ビノットは、2026年のマシン・プロジェクトをできるだけ早く始動させるために、今後5カ月で強固な人的体制と技術体制をまとめ上げるという時間との戦いに直面している。
■ビノットの味方だったサインツ
今季限りでフェラーリを放出されるカルロス・サインツの獲得は、ザイドルには不可能な任務であることが証明されたが、ビノットのアウディ加入により同社がサインツを獲得するチャンスは非常に大きくなった。というのも、サインツはビノットがチームを率いていたときにフェラーリに加入し、ちょうど2年前のシルバーストンで、ビノットとシャルル・ルクレールの関係が悪化したときも、ビノットの味方であり続けた。
サインツは明らかにイタリア人エンジニアのファンであり、ビノットがフェラーリで素晴らしい仕事をしていたと感じている。サインツはビノットがチームを完全にコントロールできる場合にどのように仕事をするか知っているため、ザイドルとホフマンの間の争いが延々と続いていた以前に比べ、今ではアウディを検討する傾向がかなり強くなっているかもしれない。
またサインツは、メルセデスのパワーユニット(PU)が導入される場合にアルピーヌに加入するという考えを気に入っていたが、近年に何度もリーダーシップに変更があったことを懸念しているようだ。そのため、アウディとの契約が彼の可能性のリストに戻ったとも考えられる。
同時に、ビノットはマラネロから大量に人材を採用するためにできる限りのことをするつもりだ。彼が最初に引き抜いたスタッフは、彼が着任するより前からアウディに加入した。そのうちのひとりに、フェラーリのエンジン部門で14年間過ごし、F1エンジンコンセプトの責任者にまで到達したウォルター・チッテリオがいる。チッテリオは、実際に数カ月前に開発パフォーマンス内燃機関の責任者としてアウディに加入したが、ビノットによる組織再編後はすぐにエンジンスタッフの責任者になる予定だ。
そのため、ビノットとアウディの交渉は数カ月前から続いていたと考えられている。チッテリオが、元ボスが同じように来ることを知らずに動いた可能性は低く、今後数週間のうちに他のPUエンジニアがフェラーリからアウディに移籍すると広く予想され、同様に一部のシャシーエキスパートも同じルートをたどるだろう。
しかし今のところの優先事項は、今後2シーズンにわたってニコ・ヒュルケンベルグ(ハース→ザウバー/アウディ)とレースをさせるべく、サインツを獲得することだ。アウディがF1での野望を達成するためには、最初から可能な限り最高のラインアップを持つことが重要になるためだ。
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