EVの知識を、最新情報から「いまさらこんなこと聞いていいの?」というベーシックな疑問まで、ベテラン・ジャーナリストが答えていく連載。今回は欧州メーカーの特集です。
日本市場参入が遅かった欧州製EV
日本市場では、欧州からの電気自動車(EV)攻勢が活発に見える。ドイツの「BMW i3」が発売されたのは2013年秋で、日本市場へは2014年春に導入された。
日本の自動車メーカーがEVを市販したのは、2009年の「三菱i-MiEV」の法人向けリースが最初で、翌2010年には「i-MiEV」も一般消費者への販売を開始し、同年に「日産リーフ」が発売された。「i3」の発売は、それより数年後になってからのことだ。
ほかに、フォルクスワーゲン(VW)は、「up!」と「ゴルフ」のエンジン車をEVに改造した「e-up!」と「e-ゴルフ」を2015年から日本で発売すると2014年に発表した。だが、急速充電システムのCHAdeMOとの整合性をとることができず、断念している。その後、VWは「e-ゴルフ」を2017年秋に販売を開始した。EV専用車種となる「ID.4」を日本に導入したのは、2022年のことだ。フランスのプジョーが、「e-208」を日本で発売したのは2020年である。
以上のように、欧州全体としては、EVへの関心が高まってきたのは比較的最近のことといえる。
くじかれたディーゼル重視路線
欧州は、クルマの環境対策として、自動車メーカーごとの二酸化炭素(CO2)排出量規制を中心に動いてきた。そして2021年から、1km走行当たりの排出量を企業平均で95gとする対処方法を考えてきた。EU規制は、販売する車種ごとのCO2排出量を問うのではなく、販売するすべての車種の平均値で95gを下回らなければならないという厳しさだ。
対策の基本となったのは、ディーゼルターボ・エンジンを使った排気量の削減と、出力の低下を補う過給器との組み合わせを主体としつつ、ハイブリッドによるさらなる燃費の向上である。
既存のディーゼルターボ・エンジンをできるだけ活用しようとする考えは、欧州メーカーが補機用バッテリーの電圧を世界的な12ボルトから、36ボルトや48ボルトに変更することによるマイルドハイブリッド化に注目してきた様子からもうかがえる。
ところが、2015年にVWが米国市場でディーゼル車の排出ガス規制を偽装していたことが明らかにされた。公的機関での測定では規制値を満たすものの、実走行で急加速などした際に基準を上回る有害物質が排出され、それによって力強い加速を得られるようにした制御が発覚したのである。その影響は、VW車だけでなく、アウディなどVWグループ内に広く影響を及ぼした。
欧州がEVの積極導入に至った背景
こうして欧州メーカーはディーゼルに代わるものとしてEVを選ばざるを得なくなった。当時はまだ、動力源となるリチウムイオン・バッテリーの原価は高いとされ、量産さえ十分な見通しが立たない状況だったが、欧州各自動車メーカーは、やむを得ずEVへ舵を切った。そして、米国テスラが打ち出した“ギガファクトリー”と名付けるような大規模なバッテリー工場の建設に、各自動車メーカーやバッテリーメーカーなどが力を注ぐようになっていく。
EVの積極導入の背景にあったもうひとつは、欧州各国政府や自治体によるエンジン車規制への動きである。
2000年前まで、ディーゼルといえば、小型か商用車を中心とした原動機だった。しかし、ハイブリッドではなくディーゼルターボでCO2排出量を減らそうとした欧州の自動車メーカーが、高級車や高性能車にまでディーゼルターボを適用していくことにより、都市の大気汚染が悪化したのである。ロンドンやパリの街が、スモッグで覆われた写真が世界へ配信された。
新車販売の半数以上がディーゼル車となれば、ガソリン車に比べ排出ガス浄化性能で劣るディーゼル車の大気汚染への影響が拡大したのは当然だ。日本でも、クリーンディーゼルと呼ばれ販売されるディーゼル車の排出ガス性能は、規制値を満たしていても、数値はガソリン車より劣る。
各国の動きに並行し、EU(ヨーロッパ連合)も2035年にはハイブリッド車を含むエンジン車の販売を禁じることにした。
この措置については、昨2022年、一部についてはエンジン車も認める方針転換をしたとの報道があった。だが、それにはe-fuel(イー・フューエル)を前提とする条件が付く。そのe-fuelは、量産技術さえまだ確立しておらず、燃料価格も定かではない。それでも、欧州には、ドイツのポルシェをはじめ、イタリアのフェラーリやランボルギーニ、英国のマクラーレンやロータスなどスポーツカーメーカーがあり、それらがすべてEVにできるかどうか、それは製造の問題だけでなく、運転の醍醐味も含めどこまで実現できるかの見通しはまだなく、一部の救済措置といった意味でしかない。
先日来日した、メルセデス・ベンツのオラ・ケレニウス会長は、「乗用車はEVが一番の選択肢である」と明言した。ガソリンエンジン自動車の祖であり、高級車だけでなく、Aクラスのような小型車も販売するメルセデス・ベンツからの発言は、重みをもつ。
こうして、欧州の自動車メーカーはEVへ舵を切り、先行する米国テスラや中国メーカーと雌雄を決する覚悟となったのである。
課題が積み重なったEV開発
一方、欧州でのEV化に偏りがあるのも事実だ。
急速なEVへの移行を強行したため、まだバッテリー原価が下がりきらない段階での車種構成は、高級車や高性能車が主体となる傾向にある。C02排出量規制が2021年にはじまっているため、もともと燃費の悪かった上級車種のEV化が優先されたこともあるだろう。
それによって、大量のバッテリーを車載しなければ航続距離が見込めず、その対処として、超急速充電器の設置が急がれている。ところが、高電圧かつ大電流を駆動用バッテリーが受け入れるため、あらかじめバッテリー温度を上げておく必要が出て、これがバッテリー劣化を早める原因になると懸念されている。
また、EV後の駆動用バッテリーの二次利用についても、開発が進んでいない。したがって、ある時点で急に廃棄バッテリーが増え、資源の無駄遣いや環境負荷を逆に高めてしまうことも想定される。
欧州市場での消費者目線では、価格の高い車種ばかりのEV化が目立ち、一般消費者の買えるEVの選択肢が限られるといった状況もある。日本の「日産サクラ」や「三菱eKクロスEV」に相当する選択肢を設けることができていないのだ。
20世紀にドイツのアウトバーンなどを指標として発展を遂げた高性能化という価値としては、欧州のEVが一気に名乗りを上げたといえそうだ。しかし、そのEV化は、急ぐあまりまだ地に足がついていないというのが実態だろう。EVはエンジン車と違うという原点を見極められなければ、適切なEV社会は訪れないのである。
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みんなのコメント
日本車に勝てない欧州が起死回生の手段として
EVを宣伝し始めたが、もともと大した技術の無い
欧州メーカーが高品質で航続距離の長いEVなど
作れるはずもなく、しかも欧州各国の足並みも
揃わないからEV化がなかなか進まない状況。
しかも急速充電→走行→急速充電を繰り返して
電池が早く劣化していくので、5〜7年程度で
100万単位の電池交換代が必要になる。さらに、
電池には有害金属など環境に悪い有害物質が
多く含まれているし、それらの再利用の技術も
確立されていない。欧州は早いうちに車のEV化を
撤回するだろう。白人が得意とする、自分達が
有利になるための勝手なルール変更が今回は
上手く行かない模様。
あと一部の国では水力発電などCO2フリー電源が使えることなどBEV導入に利点があった。
欧州でもそれが無い国では内燃機関の見直しもされている。