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「乗りやすいスーパースポーツの究極形」完全新規モデル、ヤマハ『YZF-R9』はなぜ生まれたのか?

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「乗りやすいスーパースポーツの究極形」完全新規モデル、ヤマハ『YZF-R9』はなぜ生まれたのか?

2024年10月26日、ヤマハ発動機は、全日本ロードレース選手権最終戦が開催されている鈴鹿サーキットで新型スーパースポーツ『YZF-R9』の実車を日本初公開。まったく新しいそのモデルは、どのような背景で生まれたのか? その詳細をお届けしよう。

◆R6に負けないポテンシャルと、R7のような扱いやすさ
この日、鈴鹿サーキットの本コース上では、決勝グリッドを決める予選が繰り広げられていた。JSB1000では、「YZF-R1」を駆る岡本裕生選手(YAMAHA FACTORY RACING TEAM)が唯一人4秒台を切る2分03秒856で、また、ST600では「YZF-R6」の長尾健吾選手(TEAM KENKEN Ytch)が、やはり唯一10秒台に突入する2分10秒861で、各クラスのポールポジションを獲得。激しいタイムアタック合戦を制することになった。

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熱気を帯びた午前の走行スケジュールが一段落し、しばしの静寂が戻ったタイミングを見計い、日本初公開となったモデルが「YZF-R9」である。ヤマハファンブースのステージ上には、企画推進部の兎田潤一さんと、同モデルのプロジェクトリーダーである津谷晃司さんが登壇。そこに元MotoGPライダーの中野真矢さんがMCとして加わり、R9にまつわるトークショーが催された。

そのやりとりの中から、R9の素性が垣間見られる兎田さんと津谷さんの言葉をいくつか紹介しよう。

まずは、なぜこのモデルが開発されたのだろうか?

兎田:「R6とR1のスペックがあまりに高くなり、普通のライダーを置き去りにしてしまった感は否めません。それは性能面でも価格面でもそうなのですが、だからと言って、スーパースポーツを棄てたくはありませんし、その世界に嘘をつきたくもない。そこで、R6に負けないポテンシャルがありながらも、YZF-R7のような扱いやすさもあるモデルを企画したところが出発点です。言わばR9は、乗りやすいスーパースポーツの究極形と言えます」

津谷:「R6やR1のライディングには、独特の緊張感がともないます。それを緩和するため、いかにアクセシブル(とっつきやすい)であるか、そして、いかにアフォータブル(手の届く価格)であるかをキーワードに、開発が始まりました。ディメンジョンやアライメントは、スーパースポーツのセオリーに則ったものでありながら極端すぎず、たとえばまず、ライディングポジションがアクセシブルです。ハンドル位置はR7と同じくらいですし、ステップ位置を下げることによって、このカテゴリーのモデルとしては、足元もゆったりしています」

◆フレームはR9専用にして、完全なる新作
エンジンやスイングアームは、『MT-09』のものがベースになっている一方、フレームはR9専用にして、完全なる新作である。

津谷:「当初は、MT-09にカウルを装着して開発が始まりました。それはそれで一定のレベルにあったとはいえ、果たしてそれをスーパースポーツと呼んでいいのかと自問自答。MT-09はそのキャラクター上、軽快なハンドリングに仕立てられていますが、R6を仮想ライバルにするR9の場合は、しっかりとフロントに荷重を掛けられるようにしたい。すると、必然的にハンドルはセパレートタイプのものをトップブリッジ下にセットすることになるわけですが、MT-09ベースの車体だと、実用面ではハンドル切れ角がまったくなくなってしまいます。また、剛性面でも物足りなさが出てくるため、結果的に新作になりました」

MT-09よりも剛性に優れ、R6よりもしなやかな特性を持つ重力鋳造のアルミデルタボックスフレームは質量にも優れ、ヤマハの歴代スーパースポーツ最軽量となる9.7kgの単体重量を実現。それを支えるサスペンションもまた、新世代のものとなる。

津谷:「Rシリーズを名乗る以上、足まわりも最先端、あるいは最高峰であるべきと考えました。事実、R9に採用されたサスペンションは、2025年型のR1と共通のもので(セッティングは異なる)、さらに言えば、中須賀選手や岡本選手が乗っているファクトリーマシンの仕様とほぼ同じ構造です。生産車はその用途を踏まえ、フルボトムの領域を調整しているに過ぎません」

R9は、前後にKYB製のサスペンションを装備する。フロントは、43mm径の倒立フォークで、もちろんフルアジャスタブルでのセッティングが可能だ。左右それぞれのフォークにベースバルブが追加され、オイルの流入や圧力を最適化することによって、ストローク時のレスポンスが向上。リアにも極低速域のストロークを司るスイングバルブが組み込まれ、ストローク感と、それにともなうフィードバックがより明確になっているという。これらはいずれもKYB独自の技術であり、ヤマハと共同で開発が進められた。

◆R9はれっきとしたスーパースポーツであり、レーシングDNAを忘れていない
R9は扱いやすい。しかし、れっきとしたスーパースポーツであり、レーシングDNAを忘れていない。トークショーの中、そんな言葉が兎田さんからも津谷さんからも聞かれた通り、欧州ではすでにレース仕様が発表されている。

津谷:「日本ではまだ出られるレースがありませんが、2025年のワールドスーパースポーツ選手権に参戦することが決まっています。このクラスは近年縮小傾向にありましたが、レギュレーションの変更によって、参戦できる車両が拡大。それを踏まえ、欧州の拠点と協力しながらレースベース車も並行して開発してきました」

そう聞くと、R9もまた、ライダーのスキルと走るステージを選ぶマシンとして送り出されそうなものだが、欧州仕様のスペックを見ると(日本仕様は未発表)、水冷直列3気筒エンジンの最高出力は119ps/10000rpmであり、これはMT-09と同じである。つまり、R6のような超高回転型になっているわけでも、R1のようなパワーが追求されているわけでもない。

兎田:「R9の役割のひとつとして、ライダーが成長できるモデルというものがあります。スーパースポーツの頂点に至るための厳しく、険しいルートがR6とR1だとすると、その急登をなだらかにしてくれる別ルートが、このR9。たとえるなら、そういうイメージです。目指すところは同じでもカバーする範囲が広く、クルーズコントロール等の快適性も備えているところが特徴です」

津谷:「成長という言葉には、マシンを育てるという意味もあります。スタンダード状態では、誰が乗ってもとっつきやすい一方、レース専用パーツを用意することでエキスパートライダーの要求にも応えてくれるからです。カスタムやチューニングを通し、ポテンシャルを引き上げる余地があるのが、このR9というモデルです」

◆親しみやすいスーパースポーツは価格も期待を裏切らない
そんなふたりが、トークショーに集ったファンと、今後のユーザーに向けて、こうメッセージを残してくれた。

兎田:「ハイスペックなマシンに憧れがあり、速く走れるようになりたい。でも自分に扱えるか不安。そんなライダーがたくさんいらっしゃるかと思いますが、R9に乗ると、スーパースポーツに対して自信が持てるようになり、ライディングの楽しさを堪能できるはずです。ぜひ一歩踏み出し、そして目覚めて頂きたいですね」

津谷:「ヤマハとしても個人としても、スーパースポーツに対する愛を深く持っていて、こういうモデルがすごく好きなんです。このカテゴリーをもっと盛り上げていきたいですし、幅広い層の方々に乗って頂ける親しみやすさが備わっていますから、楽しみにお待ちください。価格も期待を裏切らないものになるはずです」

では一体、どれくらいの価格になるのか。欧米各国のサイトでは、すでに明らかになっており、EUでは1万3499ユーロ(164.5円/ユーロ換算で約222万円)と発表。MT-09 SPが1万2799ユーロ(同換算で約210万5000円)であるため、その上げ幅はイメージよりもかなりリーズナブルと言っていいのではないだろうか。日本におけるMT-09 SPが144万1000円であることを踏まえると、150万円前後でリリースされることを期待したいところだが、果たしてどうなるか。いずれにしても、YZF-R9の登場によって、新たなファンライディングの世界が開かれることになる。

こうしてR9がアンヴェールされた翌日、2024年の全日本ロードレース選手権の全日程が終了した。JSB1000クラスではR1がランキング1位と2位を、ST600クラスではR6がランキング1~3位を獲得。R9は、そのモデルコンセプトとして、「Re-DNAed Supersport」を謳っているが、そこにはレースとサーキットで育まれ、引き継がれてきたDNAが確実に宿っているはずだ。

●主要スペック(欧州仕様)
全長×全幅×全高:2070mm×705mm×1180mm
シート高:830mm
ホイールベース:1420mm
装備重量:195kg
燃料タンク容量:14リットル
エンジン:水冷4ストロークDOHC4バルブ直列3気筒
排気量:890cc
最高出力:119ps/10000rpm
最大トルク:9.5kgf・m/7000rpm
トランスミッション:6段リターン
キャスター角:22.35度
トレール量:94mm
フロントサスペンション:43mm径テレスコピックフォーク
リアサスペンション:リンク式モノショック
フロントトラベル:120mm
リアトラベル:118mm
フロントタイヤ:120/70ZR17
リアタイヤ:180/55ZR17

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