2015年2月1日、日産は、アメリカのフットボール、第49回スーパーボウルのコマーシャルタイムにル・マン24時間レースを始め、2015年世界耐久選手権(WEC)に参戦する「NISSAN GT-R LM NISMO」を発表した。
アメリカのフットボールチームの頂点を決定するスーパーボウルは、全米で大きな注目を浴びるビッグイベントだが、2015年はニッサンが「父親と共に」のコマーシャルとともにWECマシン、GT-R LM NISMOを発表する舞台となった。
ニッサンが開発したLMP1マシンは、なんと3.0L・V6型ガソリン・ツインターボエンジンをフロントに搭載し、エネルギー回生システムを組み合わせたフロントエンジン/前輪駆動マシン(正確には4WDだが)だった。じつは、すでにアメリカで行なわれているテスト走行で撮影されたスクープ写真や動画がWEBに掲載されているが、今回の発表の前からコックピットが後方にあるデザインを見てフロント・エンジンではないかと噂されていた。噂は本当だったのだ。
マシンの設計はデルタウイング、ZOED-RCを設計したベン・ボウルビーで、GT-R LM NISMOのテクニカル・ディレクターとなっている。プロジェクトはニスモ・グローバルヘッドオブブランド兼マーケティング&セールス担当のダレン・コックスが責任者になっており、デルタウイングのプロジェクト以来ボウルビーとの縁は深い。
世界耐久選手権参戦プロジェクトを発表した2014年5月、コックスは「既存のマシンとは違った形で参戦する、ロードカーの技術にも応用できるような新しい技術や革新的でエキサイティングなアプローチを取る」と語っていたが、フロント・エンジン搭載はまさにその通りといえる。
ニスモの宮谷正一社長は「これこそがいままでになかったワクワクと言えます。持続可能であることが私たちの最重要項目であり、ル・マンの技術規定はその点において新しいアイディアを追求する自由度があります。ル・マン24時間レースにおける我々の最高記録は総合3位であり、まだやり残した仕事が残っています。お客様、従業員そしてファンの皆さんのためにも、やるからには勝ちたいし、勝つための知見があると思っています。競争は他に類を見ないほど厳しく、この挑戦には身震いする思いです」と語っている。
2014年秋からアリゾナでスタートしたGT-R LM NISMOのテストプログラムは、アメリカ南部の温暖な気候のもと、2月の第1週もテキサスのサーキット・オブ・ジ・アメリカズで続けられている。
テスト風景のスクープ画像では、フロントタイヤが大径、幅広(14インチ幅)で、リヤタイヤは小径で9インチ幅と狭く、メイン駆動が前輪であることを示している。前輪の方がブレーキ荷重が大きく、ブレーキエネルギー回生に有利であること、空力的に有利なためにこのレイアウトを選んだと考えられる。リヤのタイヤが細く、エンジンもトランスミッションもないので、後方の気流の抜けが他のマシンより優れ、それだけリヤのダウンフォースを大きくすることができるわけだ。
ハイブリッド・システムは、現時点ではまったく触れられておらず、未公表だがフロントにエンジン&トランスミッションと回生用発電機、リヤに左右独立駆動モーターを備え、駆動とトルクベクタリングを行なうといったレイアウトと推測できる。
なお、エキゾーストは、ボンネット上部の左右、つまりコックピットの前面に設けられており、これは軽量化と空力対策と考えられる。エンジンはフロント・ミッドに前後逆の縦置きで、フロントアクスル上に横置きトランスミッション&ジェネレーターがレイアウトされている。
ニスモ・チームのドライバーは、まず最初にマルク・ジェネ選手が決定した。スペイン出身のジェネ選手は、ル・マン24時間レースでアウディのLM P1クラスに8回参戦と豊富な経験を持つドライバーだ。ニスモチームは3台体制といわれており、今後他のドライバーも次々と発表されるはず。
またニッサンのLM P1パートナー企業として、TAGホイヤー(時計メーカー)、モチュール(オイルメーカー)、ミシュランが決定した。ミシュランはGT-R LM NISMOのために専用のタイヤを開発するという。画像からも明らかなように、他のマシンとは逆にフロント・タイヤがより大径で、フロントの荷重が大きいことを意味しており、専用タイヤが必要という事情があると推定される。
ニッサンの当時の副社長、アンディ・パーマー氏は、2014年5月に、ロンドンのオールド・トルマン・ブリュワリー(古い製酒工場を改装したギャラリー)で行なわれた発表会で、ル・マン24時間レースの主催者であるACO(フランス西部自動車クラブ)会長のピエール・フィヨン氏と共に登壇し、「私たちは今日この会場で記者会見を行なっていますが2015年は祝賀会を開きます」と語っている。その約束は実現するのだろうか?
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