大きくわけて「独立懸架」と「車軸式」がある
クルマのカタログスペックを眺めていると、様々なサスペンション形式があることに気付く。マクファーソンストラット、ダブルウィッシュボーン、マルチリンク、トレーリングアーム、ド・ディオン、トーションビーム、リジッドあたりが、市販車に使われている主な形式だろうか。
ともあれ、こうしてカタカナ語を並べていても、その区別はつけづらい。
そこでまずは日本語の表記で大きく2つの形式にわけられることから覚えていきたい。その2つとは「独立懸架」と「車軸式(車軸懸架)」だ。「独立懸架」は左右のサスペンションがそれぞれストローク(伸び縮み)できるもので、「車軸式(車軸懸架)」は片方が伸びると反対側が連動して縮んでしまうという仕組みとなっている。※ホンダ・オデッセイのマクファーソン式(フロント)・車軸式(リヤ)サスペンション
サスペンション形式でいうと、リジッドとド・ディオンが車軸式で、それ以外は独立懸架に分類される。もっとも、FF車のリヤサスペンションに多く使われているトーションビームは左右のアームをビーム材でつないだ形状で、ビーム部分のしなりによる左右独立懸架であるが、その見た目や機能面から車軸式に分類されることもある(事実、ホンダはトーションビームのフィットなどを「車軸式」と表記している)。
なお、いまや車軸式を四輪(前後)に使っている乗用車はスズキ・ジムニーやジープ・ラングラーくらい。クロカン4WD車かFF車のリヤに使われていることがほとんどだ。それでも、多くのFF車がトーションビームを使っていることから、リジッド式のサスペンションは本格的な4WDを示す形式となりつつある。
そして、いわゆるモノコックボディのSUVではない、フレームを有する本格的なクロカン4WDの場合、フロントサスペンションはダブルウィッシュボーンになることが多い。
※トヨタ・ランドクルーザーのフレームとダブルウイッシュボーン式フロントサスペンション
というのも、多くの乗用車でフロントに使われているマクファーソンストラット式は、ダンパーとスプリングを一体としたストラットアッシーがサスペンションアームを兼ねる構造で、そのアッパー部分を止めるボディは路面からの入力を受け止めることになる。※ホンダ・アコードハイブリッドのストラット式サスペンション
つまり、フレームとボディが別構造のクロカン4WDでは成立させることが困難で、クロカン車やトラック、特殊車両などのフレーム構造で独立懸架というとダブルウィッシュボーンというのは定番だ。ダブルウィッシュボーンにはスポーティなイメージがあるかもしれないが、そうとは限らないのであった。
形式ごとに特性はあるがそれだけでクルマの性能は語れない
そのダブルウィッシュボーンは、タイヤ&ホイールの固定されるアップライトと呼ばれるパーツを上下のアームで支えて位置決めするもので、ストロークしてもタイヤと路面の関係(キャンバー角)が変わらないのが利点とされている。が、それは上下のアームが同じ長さであるときの話で、現在のようにロアアームが長くなっているレイアウトでは、それなりにキャンバー変化は発生する。※マツダ・ND型ロードスターのダブルウイッシュボーン式フロントサスペンション
それでもマクファーソンストラットに対して、アドバンテージがあると言われるのは、ダンパーがサスペンションアームを兼ねていないために動きがスムースであるという部分が大きい。
余談だが、アフターパーツなどで「倒立ダンパー」という構造もあるが、これはダンパーの剛性を高めるためのものであって、マクファーソンストラットでは有効だが、あえてダブルウィッシュボーンに倒立ダンパーを使うメリットはないといえる。
名前のとおり、複雑な事情を持つのがマルチリンク。これはストラット、トレーリングアーム、ダブルウィッシュボーンという各方式に分類されない、複数のサスペンションアームを持つ独立懸架式サスペンションの呼び名。
その内容としてはトレーリングアーム式をベースに横方向にアームを追加したようなものから、ダブルウィッシュボーンの上下アームをそれぞれ分割したような形状まで様々で、マルチリンクという言葉だけでは、どのような素性を持つサスペンションなのか判断できないといえる。
とはいえ、アームが多く構造が複雑なのはコストアップ要因であり、それはサスペンションにコストをかけたという作り手の意志を感じるという点において注目に値するといえるだろう。
逆にいうと、カタログにどのようなサスペンション形式が書かれていたとしても、それだけで車両としてのパフォーマンスがわかるほど単純な話ではない。
さすがに前後リジッドともなれば舗装路でのハンドリングにアドバンテージが少ないことは想像できるが(それを補ってあまりあるラフロードでの信頼性がある)、マクファーソンストラットやダブルウィッシュボーンといったサスペンション形式によってハンドリングや乗り心地を想像することは難しく、あまつさえ優劣を判断しようとするのはおすすめできない。
(文:山本晋也)
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