30年前のSを超える充足感は得られるか
今から30年ほど前、AUTOCARの長期テスト車にメルセデス・ベンツSクラスが加わっていた。W140型のS 500だった。シルバーのボディで、エンジンは5.0LのV8。実際にステアリングホイールを握れたのは、一部の編集部員に限られた。
【画像】メルセデス・ベンツのフラグシップ 新型Sクラス 最上級のリムジン マイバッハも 全68枚
丁度その頃、ジャガーがデイムラー・ダブルシックスを発売。高級サルーン2台による比較試乗の企画が組まれ、筆者もSクラスを運転することができた。クルマを借りた晩に、現在の妻を助手席に乗せてドライブしたことが忘れられない。
その日以来、Sクラスへ恋に落ちてしまった。発表間もないフラグシップ・サルーンで、早々に直接比較を実現できたことは、自分の経歴として大きな成果にもなった。
そのW140型は筆者にとっての高級車、特にSクラスとしての基準を築いた。より速いモデルも、静かなモデルも、暮らしやすいモデルも存在した。だが30年前のSクラスを超えるほど、至福の充足感を与えてくれたクルマは今まで出現していない。
果たして最新のSクラス、W223型は、筆者の印象を塗り替えることができるだろうか。ブランドのフラグシップとして、同社が実現できるすべてが盛り込まれている。数か月を掛けて、じっくり味わうことが許されている。
オプション追加が不要なほどの充実装備
クルマの正式名は、メルセデス・ベンツSクラス S 580e L AMGライン・プレミアムプラス・エグゼクティブ。英国ではロングホイールベース版の最上級グレードに当たり、プラグイン・ハイブリッド(PHEV)でもある。
駆動用モーターだけで、最長101kmが走行可能とうたわれる。筆者の自宅にはBEV(バッテリーEV)用の充電器が備わっており、長距離移動時はガソリン代を節約できる。静かなEVモードで、静かなクルージングにも浸れるはず。
メルセデス・ベンツ側は、ボディとインテリアのカラーコーディネートのほか、オプションを追加することも提案してくれた。そこで本来の趣を壊さない範囲で、僅かに個性を加えてみることにした。
ボディは、セレナイト・グレーメタリック。インテリアは、ブラック・レザーを指定した。特に悩むようなものではなかったけれど。しかし、オプションは何も追加していない。感心するほど標準装備が充実していて、付け足す必要がなかった。
30年前のW140型に備わっていて、新しいW223型にないものといえば、V8エンジンだ。2022年の末に登場予定にあるメルセデスAMGのSクラスには、搭載されるはずではある。
長期テスト車のS 580e Lに載っているのは、3.0L直列6気筒ガソリンエンジンで、最高出力は367ps。そこへ、150psの電気モーターが組み合わされている。
28.6kWhと大きな駆動用バッテリー
駆動用バッテリーの容量は、28.6kWhとPHEVとしては大きめ。ベントレー・フライングスパー・ハイブリッドのものと比べると、2倍以上の容量を持つ。驚くほど長い、EVモードでの航続距離を実現させている。
そのかわり、車重は2385kgと重い。大型ラグジュアリー・サルーンだから、その他のカテゴリーより重さが足かせに感じられる割合は低いといえるが。
また、駆動用バッテリーの影響で荷室容量は10%ほど削られている。充電ケーブルを積むと、そのぶんの容積も取られてしまう。
S 580e Lには、PHEVとしては高速な急速充電能力が備わっている。最高60kWにまで対応し、20分で10%から80%まで電気を蓄えることが可能。ただし最近の英国では、高速道路の急速充電器の利用料がガソリン並みに高いのだけれど。
新しいSクラスの装備で、賢いと感じているのがステアリングホイール裏のパドル。通常は9速ATのシフトチェンジに用いるのだが、回生ブレーキの効きの強さを変更することもできる。必要に応じて、ドライバーが選べるのだ。
効きの強さには3段階あり、標準モードではエンジンブレーキ程度。右側のパドルを引くと、回生ブレーキが弱くなり惰性走行するようになる。左側のパドルを引くと、ブレーキペダルを殆ど踏む必要がないほど強くなる。
筆者は、最も効きの強いモードが好み。下り坂で航続距離が増えていく様子は、見ていてうれしい。
メルセデス・ミー・アプリにも対応
最新モデルらしく、メルセデス・ミーというアプリにも対応する。ユーザー登録を済ませれば、リモートで自分のクルマと接続し、システムを起動して車内の温度を事前に調整することができる。リビングのソファーから、ナビの目的地登録もできる。
自宅の駐車場へ、自律的に駐車させることも可能らしい。オーナーとしての体験を高めてくれるのかは、実際に試してみないとわからないが、興味深い機能だ。
いずれにしても、最新のメルセデス・ベンツSクラス PHEVとの暮らしが楽しみなことは間違いない。
セカンドオピニオン
長期テストのSクラスにはまだ乗れていないものの、以前の試乗では好印象を抱いている。特にドライブフィールには魅了されてしまった。
多くの技術が搭載され、システムは複雑で車重は重い。それでもSクラスは、このセグメントで最も運転したいと思えるほど、突出した完成度のモデルだと思う。 Matt Prior(マット・プライヤー)
テストデータ
価格
モデル名:メルセデス・ベンツSクラス S 580e L AMGライン・プレミアム・プラス・エグゼクティブ(英国仕様)
新車価格:11万3880ポンド(約1901万円)
テスト車の価格:11万3880ポンド(約1901万円)
オプション装備
なし
テストの記録
燃費:19.2km/L
故障:なし
出費:なし
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みんなのコメント
絶対的には加速はいいんだろうけど、どちらか選択できるならやはりV8の方だろうなあ。
それは世界中何処に行っても共通