■優れたアイデアを採用しながらも、出るのが早すぎた車を振り返る
1997年に発売されたトヨタ「プリウス」は、世界初の量産ハイブリッド車として衝撃的なデビューを飾りましたが、その後は各メーカーもハイブリッド車を次々と発売したことで、いまではエコなグレードでは定番になりました。
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プリウスと同様に他車に先駆けて新技術や新装備を搭載し、その後、広く普及したケースもありますが、登場した当時は普及しなかったものも存在。
そこで、グッドアイデアながら登場が早すぎたモデルを、3車種ピックアップして紹介します。
●フィアット「600 ムルティプラ」
1956年に発売されたフィアット「600 ムルティプラ」は、同社の小型車「600」の派生車として誕生。
フィアット・600は1955年に発売。名車と呼ばれる「Nuova 500(ヌォーヴァ チンクエチェント)」に先駆けて登場し、経済的で4人の乗員と荷物を積んでも十分な速度で移動することを目指して開発された大衆車です。
当初、搭載されたエンジンは633ccの水冷直列4気筒OHVで、これをリアに搭載してリアタイヤを駆動するRRを採用。最高出力は22馬力ほどですが、わずか450kgと軽量な車体には十分なパワーを発揮。
そして、この600をベースとした600 ムルティプラは、全長3530mm×全幅1448mm×高さ1581mmと、現在の軽自動車よりも10cmほど長いだけと、非常にコンパクトなステーションワゴンタイプのモデルです。
600 ムルティプラ最大の特徴はシートレイアウトで、2列シートの4人、5人乗りだけでなく、3列シートの6人乗りをラインナップ。
全長がわずか3530mmで3列シートを実現するという、現在、日本で人気のあるコンパクトミニバンの元祖といっていいモデルです。
さすがに600 ムルティプラは、6人乗車ではパワー不足は否めなかったとみえ、その後、小型の多人数乗車は普及しませんでしたが、いまから60年以上も前に登場したことは高く評価されています。
なお、もうひとつの大きな特徴はデザインで、一般的なミニバンを前後逆さまにしたようなフォルムが、非常にユニークです。
●スズキ「アルト スライドスリムドア」
1979年に登場した軽ボンネットバンのスズキ初代「アルト」は、47万円という当時でも驚異的な低価格で発売されると大ヒットを記録し、軽ボンネットバンブームを巻き起こしました。
そして、1988年に発売された3代目では、3ドアハッチバックかつトールワゴンでもない普通の2BOX車ながら、運転席と助手席の両側スライドドアを採用した「アルト スライドスリムドア」をラインナップ。
アルト スライドスリムドアにはスライドドアのほかにも、シートをドア側に回転させて乗り降りをしやすくする「回転ドライバーズシート」も装備し、女性ユーザーに向けて乗降性の良さアピールしました。
しかし当時は、狭いところでも乗り降りがしやすく、横に駐車したクルマにドアを当ててしまう心配がないというスライドドアのメリットはあまり受け入れられず、また手動での開閉だったため、女性や年配の人による坂道での開閉が大変という声もあったようです。
そのため、標準車から約3万円高いスライドスリムドアが人気となることはありませんでした。
その後、スライドドアは運転席のみとなり、さらに運転席はスライドドアで助手席側は前後とも通常ドアという変則的なモデルも登場しましたが、4代目アルトからは採用されていません。
なお、後年プジョー「1007」が両側、トヨタ「ポルテ/スペイド」が助手席側スライドドアを採用して、一定の人気を獲得しましたが、スライドドアが電動化されたからでしょう。
■現在のミニバン像を確立したモデルとは
●日産「プレーリー」
1982年に日産は画期的なパッケージの5ドアワゴン「プレーリー」を発売。それまで多人数乗車が可能なワゴンというと1BOXバンをベースにしたモデルが一般的だったなか、ステーションワゴンタイプの乗用車は斬新でした。
プレーリー最大の特徴はセンターピラーレス構造の後席両側スライドドアで、前後ドアを開くと広大な開口部が出現し、後席へのアクセスや、大きな荷物を格納するにも便利な構造となっています。
また、リアサスペンションを工夫することにより超低床レイアウトによって、広い室内空間を実現。回転対座セカンドシートが備わる3列シート8人乗りや、折り畳み式後席の2列シート5人乗り、豪華な固定式後席の採用で快適性を重視した2列シート5人乗りをラインナップしていました。
さらに、バッグドアがバンパーごと開口する機構を採用し、荷物の積みおろしがしやすい4ナンバー登録の商用バンも設定。
プレーリーは現在のミニバンに通じるレイアウトの元祖といえる存在ですが、最大のセールスポイントのセンターピラーレス構造やバックドアの開口部を下げたことによるボディ剛性の低さが露呈してしまいました。
また、最高出力100馬力の1.8リッターと85馬力の1.5リッター直列4気筒エンジンでは、多人数乗車時の動力性能が低く、販売台数は低迷。
1988年に2代目へとバトンタッチした際に、センターピラーレス構造ではなくなり、オーソドックスなミニバンとなりました。
後にトヨタやダイハツ、ホンダがセンターピラーレス構造のスライドドアを採用して良好なセールスを記録しているため、プレーリーは先見の明があったといえるでしょう。
※ ※ ※
今回、紹介したように先見の明があったクルマは、ほかにも存在します。
たとえば、1981年に登場したホンダ2代目「アコード」と姉妹車の「ビガー」に搭載された、「ホンダ・エレクトロ・ジャイロケータ」は、GPSを使わないカーナビゲーションシステムです。
当時、アコードの最上級グレードが150万8000円(東京価格)の時に、ホンダ・エレクトロ・ジャイロケータは29万9000円、地図は別売りとなっており、高額すぎて普及せず、すぐに消えてしまいました。
しかし、こうした積み重ねがいまの技術を生んだきっかけになっており、現在採用されている多くの先進技術も、トライ・アンド・エラーで発展したといえます。
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みんなのコメント
これをオマージュして新型車出すと良いんじゃないかな。
エスクードも実は開発段階で当時のデザイン課長に見せて頂いて自慢されたが、私に先見の明が無く、おざなりの褒め言葉しか出なかった。本当に申し訳なかった。
スズキらしくクロカンとしての性能も確保した上で、都会的なセンスを取り入れた、今にして思えばすごく良い車だったと思う。