もくじ
ー 既成概念を超えた「ティーポ175」
ー 勝つつもりのないコンペで勝った
ー フォードGT40とカロッツェリア
ー 「ダーティ・メリー/クレイジー・ラリー」
ー サインを貰いたくなるような量産車
日産の元デザイナー、中村史郎に聞く 次期Z、GT-R、NISMOの未来などはどうなる?
既成概念を超えた「ティーポ175」
1993年にティーポ175とコードネームが付けられたクーペ・フィアットが発表された時、メディアも、そして一般の自動車ファンの意見も大きく分かれた。このクルマが、美しくもありながら、既成概念を超えたデザインのクルマだったからだ。
イタリアのスポーツクーペであるからには、当然ながら多くの期待が寄せられる。誰もが欲しがるクルマでなければならないのは当然として、無理のない極上のデザインが要求されるからだった。
一部のひとにとっては、洗練された、そして進歩的なデザイン言語によって表現された正に芸術作品として受け取られたし、恐れ知らずの大胆さが強い印象を与えた。
しかしそれ以外のひとにとっては、アイデアのみが詰め込まれたディテールの騒がしいクルマであるとしか思えなかった。とは言え、このクルマを好むにしろ、嫌うにしろ、無視することはできない存在ではあったことは確かだ。
1992年。フィアットグループのデザイン責任者、ネヴィオ・ディ・ジュストが、ライバルメーカーの「固形石鹸」のようなスタイルを批判した時に、既にクーペ・フィアットのようなデザイン言語を持つクルマが登場する前触れがあった。当時、彼はAUTOCAR誌にこう語っている。「全体的に丸みを帯びたデザインも魅力的だが、そうすると全てのクルマが似通ってしまう」と。
クーペ・フィアットは、フィアット・チェントロ・スティーレの、これまでほとんど名前を聞いたこともない、クリストファー・エドワード・バングルというデザイナーが主となって手掛けたものだった。これ以来20年、この男は、デザイン界の異端児と呼ばれ続けることになる。だが、実はクーペ・フィアットの当初のコンセプトを開発したのは社外のデザイン会社だった。
いま目の前にいるバングルは、当時のことを思い起こしているようだ。
勝つつもりのないコンペで勝った
「ピニンファリーナが、ティーポをベースにクーペを開発するアイデアを出してきたんです。ピエルジョルジョ・トロンヴィルが、ピニンファリーナのライバルになり得るのはフィアット・チェントロ・スティーレのデザイナーだけだと言ってくれました」
「当時、わたしはフィアット社内のほぼ全てのデザインコンペに負け続けていたため、自分たちにも勝利のチャンスがあるかとトロンヴィルに聞いてみたんですね。すると彼は静かにこう言いました。『ティーポベースのクーペは確かに奴らのアイデアだ。エンジニアリングも全て奴らがやり、奴らの工場で作り、そしてクルマのサイドに堂々とピニンファリーナと入れるだろう。そうなることを君はどう思う?』とね」
その言葉に感化され、全てをピニンファリーナに持っていかれてたまるかとバングルは奮起した。結果、バングルとそのチームは大胆なデザインを採用することにした。そして、見事デザインコンペに勝利したのである。
「勝ち目がないと思われていたことで、勝ちを意識せず気楽に挑めました。そのため、大胆なデザインを採用することができたのだと思います。今になって思えば、『これはちょっと』と思うような多くのデザイン提案を採り入れることもできました」
「このクルマは最初から『変』でしたが、数々のアイデアをまとめ、走行可能な製品に仕上げる頃にはもっと奇妙なデザインになっていきました。対抗するピニンファリーナのエクステリアデザインは当時見ていないですが、後になって、その敗れたピニンファリーナのデザインは、プジョー406クーペに強い影響を及ぼしているのでないかと思いました」
「一方、クーペ・フィアットのインテリアのデザインはピニンファリーナが手がけました。できあがったインテリアはこのクルマにマッチしていると思います」
インテリアは、まちがいなくティーポ175の重要な特徴のひとつだ。ブラックとグレーのプラスティックばかりのキャビンが主流だったあの時代に、表面の一部とドアパネルに塗装した金属パネルを使ったのは大胆なアプローチだった。
しかし、その大胆さはエクステリアに到底及ばない。
フォードGT40とカロッツェリア
バングルと彼のチームは、奇抜なアイデアをもてあそんだ。この新型フィアットは、どこから見てもひとを驚かせ、そして呆れさせた。
フィアットの経営陣は、ニューモデルであるからには、他とは違う奇抜さで人目を引く必要があると考え、ピニンファリーナの保守的なデザインよりも珍妙なデザインを選んだというわけだ。
それから20年が経過した今、イタリア語でボンネットを意味するcoffanoと泥よけを意味するparafangoからコファンゴというコードネームで呼ばれていたクーペ・フィアットは、われわれの目が慣れてしまったせいもあって、当時受けた衝撃はない。
それでも、デビュー当時のライバル、フォード・プローブやローバー200トムキャット、ヴォクゾール・カリブラが悲惨なほど古めかしく見えるのに対して、フィアットのアバンギャルドなデザインはいまなおひとをワクワクさせるものがある。
当時を振り返ってバングルは以下のように語る。「1970年代のフォードGT40が持つ世界と、イタリアのカロッツェリアが持つ世界。このふたつの世界を結びつけるのが狙いでした」
「このクルマのフロントを注意深く見てみると、ヘッドライトの形やノーズの平坦さ、グリルインテークの形などにGT40へのオマージュが込められているのに気付きませんか。その一方で、クルマの側面や断面は、イタリアンデザイン、特に1984年型のベルトーネ・シェビー・ラマーロやランボルギーニ・アトンにインスピレーションを得ています」
「どちらのクルマもフラットなホイールアーチを持つデザインですが、ショルダー部分が張り出しているため、当然、ホイールアーチはラインで裁ち切られた形になります。フィアットが、このデザインは『切り裂かれたキャンバス』の代表作で知られる画家のルーチョ・フォンターナにインスピレーションを得たとプレスリリースで主張しているのには驚かされましたね。あの頃、フォンターナという画家の名前を、わたしは聞いたこともなかったのですから」
クーペ・フィアットのもうひとつの重要な要素に、円形のライトを縦に重ねてレイアウトし、短く切り落とされたようなカムテールがある。詳しく見ていこう。
「ダーティ・メリー/クレイジー・ラリー」
カムテールは、このクルマの特徴となる要素だが、実は最初からデザインされたものではなく開発後期になって変更したものだという。
「ポップアップスポイラーを装備した丸みのあるリアの造作に熱心に取り組んでいましたが、コストが掛かりすぎるという問題があったのです。またネヴィオ・ディ・ジュストから、風洞テストでまともなエアロダイナミクスの得られる丸みのあるリアを考えてくるか、この件を無かったことにするか、どちらかを選べと言われました。それでじっくり考えて、リアを角張らせることにしたのです」
几帳面を絵に描いたようなメソジスト派の神父のようにこの仕事を歩んできたバングルは、自分の信念を貫くために並々ならぬ努力を重ねた。細部の装飾に徹底的に凝るのがフィアットの特徴だ。
「ピラーに配置されたドアハンドルやミラーは、当時としては最もエレガントなデザインのひとつで、これをデザインする作業は楽しかったです。当時は、エンジニアに話を持っていく前に、デザインコンセプトが使い物になるかどうかを調べる作業も全てわたしが自分でやらなければならなかったのです。9Hの鉛筆で本当に沢山の図面を書きましたよ」
「燃料キャップのデザインは、ある日の晩、現在はフォードのデザイン担当取締役であるモーレイ・カラムと一緒に『ダーティ・メリー/クレイジー・ラリー』を見ていた時に思いついたんです。ふたりともこの映画に出てくる1968年型ダッジ・チャージャーに魅了されていたんですね。このクルマのむき出しのレーシング用フューエルキャップが映し出されるシーンが何度かあります。これは格好が良いと思いましたね」
「ふたりともそれぞれのスタジオに戻って、このコンセプトを再現しようとしました。自分は、クイックリリース方式のキャップを参考にしてデザインしたのですが、経営陣があっさりとそのデザインにOKを出してくれたのには驚きました」
「しかし、クラムシェルボンネットは論争の的になりました。シートメタルのサイズが限界ギリギリだったというのがその理由です。ボンネットでひとつだけ残念なのは、前開きにするという自分のアイデアが量産車に活かされなかったことですね」
ボンネットについて語るなら、当然、あの個性的なヘッドライトにも触れないわけにはいかない。
サインを貰いたくなるような量産車
ヘッドライトは、バングルのお気に入りの特徴のひとつだ。「2灯並列にしたデザインは、思い出してみれば、神の最高の作品を盗んだようなものですよ。メカのためにヘッドライトの位置がどんどん高くなっていましたから。どうにか収めるためにはリトラクタブルにするか、ボンネットとウイングラインを持ち上げるかしかなかったのです」
「全体のフォルムの割にホイールが小さすぎるというデザイン面の弱点があったので、フロントを視覚的に大きく、重くする選択肢はあり得ませんでした。一方、リトラクタブルライトは非常に高価です。そのため必要に迫らせてこれをデザインしました。平坦な角度のカバーでウォッシャースプレーが作動するようにするのに少し手間取りましたよ。最初見た時には、効果があるとは思えなかったのです。このクルマを初めてフィアットのトップエンジニアに見せた時、彼らはちゃんと見ようとさえしてくれなかったことを思い出しますね。エンジニアはあざ笑うかのように『このヘッドライトをどうやってクリーニングするつもりだ』と言いました。それを聞いた上司のエルマーノ・クレソーニが駆けつけてきて、こう言ったのです。『愛情を込めてだよ、エンジニアの皆さん。愛情を込めてね。アモーレ! アモーレ!』」
発売されてすでに23年になるが、バングルは今でもクーペ・フィアットに「愛情」を抱いているのだろうか。彼はこう言う。「街で走っているのを見掛けると、必ず当時を振り返ってしまいます。選ばれ、このクルマの誕生に関わることができて光栄でした」
「このクルマは、わたしがこれまでしてきた全てのことに間接的な影響を及ぼしています。というのも、自分にとっても本当に意外な勝利だったからです。BMWに移ったため、誕生前にプロジェクトから離れなければならなかったのは断腸の思いでしたが、開発やプリエンジニアリング作業の多くを手掛けたこのクルマが、わたしをデザイナーとして成長させてくれたといっても過言ではありません」
「クラブのミーティングに出て、フィアットのファンに出逢うのがとても楽しいです。皆、わたし達に会うために妻や子供をこのクルマに乗せて15時間もドライブするのをなんとも思わない、情熱的な本当のファンですね。たいてい、帰る前に子供がサインを貰いに来るか、クルマにサインをしますが、両方のこともありますよ」
ティーポ175がいかに印象的なクルマか良くわかる。発売当時は意見が分かれたかもしれないが、デザイナーのサインを貰いたくなるような量産車はほかにそう多くない。
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